複雑
それから別室で、身長と体重を測ったり採血したりと、リアルな健康診断(これも『何の関係があるんだ』と批判の的)、そして武器を実際に持ったつもりでエアー素振り(同じく何の意味があるのかよく分からない)。そして最後に
「それではいわゆる『魔力』の流れを見ますので、このテーブルを触ってください」
いわゆる『これはみんな出来るものでしょ? だったらわざわざ役所に出向く意味ある?』と言われてるやつ。
俺は言われた通りテーブルに手を置くと、オジサンも合わせて手を置いた。何やらフムフムとか、あーこれはこれはとか言いながら、手を離すと
「それでは終わりです。お疲れ様でした。先ほどの席にお戻りください」
と、ドキドキしながら、母の待つソファへ。
何だろうなと話しながら待つこと数分。父さんはどうやらダーツで、そういえば母さんと出会ったのもクラブのダーツがきっかけだったらしい。母さんは仕事でキャリアを積みつつ、産休育休で培われた家事力の影響か、ナイフやら包丁とのこと。しかし、前述の通り、銃刀法は撤廃されてないため、本当に持ち歩くのはご法度である。代替品として行き着いたのは、まさかの三角定規。これで意外といけているらしく、両手に三角定規を持ってよく分からない斬撃ダメージを与える姿は、言いたくないけどカッコい……やだ。
まあ俺は俺で剣道かじってるし、弓道も少しやってたから、でもやっぱり剣がいいなぁ~などとそれまで話していたのだが
「杖さ……あ、埜島さんお待たせしました」
何の溜めもなくいきなりの言い間違いでネタバレされた上に、全く視野に入れてなかった結果が。
いや、分かってる。分かってる。そりゃファンタジー世界つったら剣の次は杖。そりゃ分かってる。
「杖、ですか?」
母さんも怪訝な顔。
「ごめんなさいね、先走っちゃって。杖です」
思わず親子で顔を見合わせた。
「えっと、どういった基準で決まるんですか?」
「んー、身体検査と査定で決めております」
「え、だってこの子そんなに頭がいいってわけじゃないですし、進路ももうどうしようかって」
余計な情報ではあるが、俺もまあ意見は同じで、杖持ちってイメージ的に賢いってのが通説だと思うわけで、どちらかというと賢くはない俺が杖とかリアルにおかしい。と、お役人様は
「まあ、頭の良し悪しどうこうで決まるわけではなくて、あくまで適性ですから」
とだけ。さらには
「なかなか剣についで人気は高いんですよ。むしろ『杖じゃないのか』って肩を落とす人もいますんで、よかったじゃないですか」
いや、別に嫌なわけではないんだけど、なんか納得出来ないっていうか。
「それでは大事な注意事項だけお伝えします」
強制的に話を打ち切られてしまった。