まずはお役所だッ
夢って変なのばっかだよね☆
ありえない。
マジクソありえねぇぞこれ。
三年前にハドソン湾を隕石が直撃した。はてさてその隕石に乗ってきたのか、それとも地下に埋まっていたのか不明だが、恐ろしい化け物たちが全世界に広まっていった。隕石自体は前々から予測は立っていたため、落下間際に近隣住民の避難やら航路の変更やらの対処は出来ていたようだが、まさかの生命体への対処はすぐには間に合わず、アメリカ大陸を中心に各地へと「そいつら」は勢力を拡大。時折人や動物を襲い、食い殺された事例も数多くあり、「有能な」武力を持つ国家はそれなりに、そうでない国は存続の危機に晒されながらの国防に乗り出した。
やつらは様々な姿をしていて、聖書を元に総称して「悪魔」と呼ばれているが、各々の姿に合わせて神話やらファンタジーやらを由来とした名前がつけられた。子どもぐらいの背丈をした、ヒト型に近い姿をしたものはゴブリン、建物ぐらい大きいヒト型ならオーガ、と、およそゲーム好きなら涎が出そうな状況だろう。かくいう俺もそうだった。
しかし事態はそんなことでは片付かないほど深刻であり、ここ日本でも警察や自衛隊が動き回って対処に当たっているのだが、間に合っていないのが現状らしい。そこで去年、政府は急遽、刑法のいくつかを根拠に、通称『悪魔対策特別法』を制定。いわば悪魔殺しは合法、むしろ自衛しろと、民に投げたわけである。
そしてさらに人類に対して有利な事態が起こった。どうやら『悪魔』どもを倒すと、何やらかの『力』を授かるらしい。発端は真っ先に出動した警察官やら自衛隊員やらが、訓練中に火炎放射したり、銃弾と明らかに違うものが余分に出てきたりと、それはそれは混乱したようで。
というわけで、長々としてしまったが、悪魔の出現とともに魔法的な力も出現した結果、まるでゲームの世界が実現するということになったのである。しかし銃刀法の撤廃については消極的な国のため、持ち歩けるものは護身用程度の日用品。とはいえ先ほどの『何らかの力』のお陰で日用品でも立派な武器になり得る。その上個人の『武器適性』を、十五歳になると役所で調べられるようになり、それを元に持ち歩く『武器』を決定するわけだ。
俺も今年で十五歳を迎えた。親の庇護なく一人で歩いてよくなり、登下校にわざわざ親が付いてこなくてよくなった解放感と、果たして自分に合った武器とは何かと、ある意味憧れていた疑似ファンタジー世界へ踏み出せる高揚感に、最後の母の付き添いで役所の防災課へ向かった。
『番号札二十四番の方、窓口までお越しください』
アナウンスが入り、片手を挙げている、スーツ姿のオジサンの元へ、ドキドキしながら歩を進める。
「埜島桐人さんでよろしいですね?」
「はい」
オジサンは紙をいくつか渡しながら、椅子を勧めた。
「こちら簡単な質問事項にご回答ください。それから別室で身体検査を行いまして、査定員が査定をしましたら最後です」
分かったような分からないような適当な返事をしながら、質問票を見てみる。
『心身ともに健康である はい・いいえ』
『衝動的な行動を取ってしまうことがある はい・いいえ』
『人に危害を加えたことはない はい・いいえ』
『家族、親戚(三親等以内)に大病を患っている人がいる はい・いいえ』
『障がい者手帳、および療育手帳を持っている はい・いいえ』
うわあ、これが噂の炎上アンケートか。『障がい者は自衛しちゃいけないのか』とか『当事者や周りの人への気遣いがない』とか言われながら一年通したとか言われてる……。