マープルさんと督促に行こう1
なろうの連載投稿チャレンジを機に、少し書いてあった次章を書くか!となって筆を執りました。
応援よろしくお願いします。
『消食の魔導書』は無事、回収されたらしい。
壊れ方が酷かったらしくて、特別修理に回しているらしい。
あの一件は一応終了ということになった。
さぁ、一つ仕事が終わった。次の仕事だ!
「エルコちゃん、ちょっといい?」
「はい、わかりました。」
手招きをされた。
本棚を整理していた私に声をかけてくれたのは『クリーサ=マープル』さん。魔導図書館の司書さんで、私の先輩だ。
ウェーブがかかったブロンドヘアの持ち主で、とても、とっても綺麗で色っぽい。
目の前から良い匂いがして、背筋が伸びていて、女の私から見てもドキドキするほど美人。
全身ゆったりした服に身を包んでいるのに、出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいて、その美術品みたいな曲線が全く隠れていない。
溜息が出る。嫉妬する気にもなれない。
何より、マープルさんは仕事が出来て、優しい。
誰かと比較する気は全くないけれど、暴言は吐かないし、急にドラゴンを呼び出してけしかけたりしない。
「エルコちゃんは、『延滞資料』って知ってるかしら?」
「『延滞資料』ですか?えー、貸出の期限を超過して返却されないまま連絡も無い、あの?」
「そう、その延滞資料よ。図書館は本を貸す場所、当然、期日までに返してもらわないと困るの。
予約して次の順番を待っている人がいれば困ってしまうし、そうでなくとも棚を見て借りてみようと考える人もいなくなってしまう。だから、本は期限までに返してもらうことがとっても大事。
一応、条件次第では期限の延長や、予期せぬ事故や病気の人のための救済措置はあったりするわ。
連絡してくれれば、こちらもそれなりの対応を考えられるの。
でも、約束の日になっても返しに来てくれない、連絡もしてくれない、こちらから連絡しても返事をしてくれない人も中にはいるのよ……」
困ったわぁと言いながら頬に手を当てる。
長く上向きのまつ毛、か細くきれいな指先、ツヤのある唇、甘く艶のある吐息。
その仕草まで、とても絵になる人だ。
「普通の図書館なら慌てず待つことも出来るんだけど、魔導図書館はそうもいかないのよねぇ。
さぁ、ここで私たちのお仕事に関するクイズ。それはなんででしょう?」
先程まで色香溢れていた憂いの美人が、急に悪戯っぽい少女に変わった。
「えっと、扱うものの危険度の違いから、ですか?」
ここは魔導図書館、扱っている魔導書は5種以上。この前襲われた竜もどきや口の怪物が呼び出せる様な、使い方を間違えなくても大惨事を引き起こしかねない代物だらけだ。
それが期日までに返ってこない。それはつまり……。
「大正解。うっかりで返し忘れてるだけなら良いんだけど、無くしたり、暴走して危険な状態だったり、悪用されたり、盗まれたりすると、とっても困るのよ。」
魔導書の暴走・悪用。
それは魔導士になる時に真っ先に学ぶことで、身に染みて解っていることだ。
この前見たあの口の化け物。あれがもし、街中で暴れていたらと考えると……寒気がする。
「だから、延滞している人に連絡をして、それでも返してくれなかったり、連絡がそもそも取れない人のところには、私たちが直接出向いて、無事の確認と、返してもらえるようにお願いするの。」
「今までそんなこと、知りもしませんでした。勉強不足で申し訳ありません。」
「ふふ、エルコちゃんはとっても真面目な子なのね。
一杯本を読んだってお話は聞いたけど、それでも知らないってことは、しっかり借りた本を期限までに返してきた偉い子の証よ。偉い偉い。」
「いや、そんなことは……人にお願いして返してもらうことがほとんどでしたし、中には、その……汚してしまった本もありますから……」
院内の図書室の本は看護師さんやお医者さんに借りてきてもらって、返してもらっていたし、読んでいる途中で嘔吐したり、吐血したりして、台無しにしたこともある。
「大丈夫よ。私だって、子どもの頃は力加減を知らなくて本を破ったことが何度もあるわ。もう、何度もよ。」
「意外です……」
「あらそう?」
「はい。マープルさん、とっても修理がお上手なので。」
「ふふ、ありがとう。」
司書の仕事の一つに『修理』がある。私も、5種の魔導書を何度か修理させてもらった。
その時マープルさんが見せてくれたお手本と自分がやったのは、もう雲泥の差だった。
私が破れたページをフランケンシュタインの怪物みたいなツギハギで直したのに対して、マープルさんはもう、凄い。
私を治そうとしてくれた外科医の先生の縫合の様だった。
直ったらもう、縫った痕跡がわからなくなる。お陰で私の体はあれだけのことがあって、痕がほとんど無い。
「さぁ、脱線しちゃった話を戻しましょう。
今日は返って来てない本を返してもらうためにお宅訪問をするんだけど、エルコちゃん、貴女も来てくれない?」
「私、ですか?」
「そう。借りた人のお宅に行って、返してもらえる様にお願いして、受け取ったらそれを持って帰って図書館で返却の処理をするだけ。ね、簡単でしょう?」
「わかりました。頑張ります!」
この時の私は少しだけ、油断していた。
「ンすか?マープルさん、『督促』行くンすか?」
「そう、エルコちゃんと二人で行ってくるわ。留守番、お願いね。」
「ッす。わかりました。」
イース先輩の態度は私に対するそれとは露骨に違っていた。
私がマープルさんの後ろの方でこっそり見ていたのに気付いたのか睨み付けてきた。
「オイ新人!」
「はい!」
「この前みてぇに間抜けさらさねぇ様に、精々気を付けるんだな。」
「はい……」
そんなこと、ある訳がない。
行く先で偶然危険な魔導書に遭遇して……なんてそうそうあるわけがない。
『借りた人のお宅に行って、返してもらえる様にお願いして、受け取ったらそれを持って帰って図書館で返却の処理をするだけ。ね、簡単でしょう?』それだけなんだから。
そう思って油断していた。
マープルさんの言う『簡単』は、優秀な魔導司書のマープルさん基準であって、私の基準とは全く違うことを失念していた。
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《督促や延滞についての解説》
現実の図書館では地域ごとにルールが色々違うそうです。なので、期限日までに返せない時はHPや電話で確認・相談する方が良いとのことでした。
ちなみに最近は電話だけでなくネットで延長出来るところもあるそうです。
そして、病気やケガなどで返しにいけない時は迷わずに『図書館に相談しよう』と言われました。




