消食の魔導書3 おしまい
「んだよ…………」
なんだ、アレは?
あの光がなんなのかは問題じゃねぇ。
なんでコイツがあんなもん使えてるんだ?
大口は焼け消えている。
俺の前に突っ立ってる阿呆は動かない。
そしてその阿呆の開けた扉は、未だ開いていた。
「クソっ!」
呆けてるのは手前もじゃねぇか!
化物は焼け消えた。だが扉は開きっぱ。
そして、扉の向こうには町がある。
コイツは気絶してる。制御なんて出来てねぇ。
このまま放っとけば吹っ飛ぶのは研究室や家一軒じゃ済まない。
なんとか、俺が止められるか?
怪物の体が完全に消え、そして、陽光が都市へと向かう。
「クソが!」
『奥の手』が頭に浮かぶ。残り魔力で使えるか……?
「お疲れ様ですイース君。」
静かに、しかしはっきりと声が響いた。
「そして、遅れてしまい大変申し訳ない。あとは私に任せてください。」
扉の向こう、町を背負って立つ人がいた。
破壊の陽光を前に、魔導書を一冊。開き、唱える。
『呑め』
真っすぐ進んでいた陽光が曲がった。
違う、陽光の進む力以上の何かが要綱を引きずり込んだのだ。
それは、陽光をなんなく呑み、無に変えていく。
「さて、『閉じろ』。」
陽光の発生元がバタリと閉ざされ、消えていく。
「ケガはありませんか?」
何事もなかったかのように魔導書を消し、二人のもとへ歩み寄る。
「館長スンマセン、しくじりました。」
「いいえ、異常事態によくぞ対処してくれました。お陰で間に合いました。
エルコ君は……おや?」
崩れ落ちる体、その肩を抱き止めた。
「大丈夫ですか?」
「……あれ?館長、どうして、ここに?あれ?魔導書は?」
「……問題ありません。イース君、君は一人で歩けますか?」
「問題ありません。館長、ソイツ……」
わかったと首を縦にゆっくり振って、手の平を見せて制止する。
「イース君、報告は後にして、先ずは帰りましょう。」
その手には二冊の本があった。
『滝落ちの魔導書』:要修理
『消食の魔導書』:回収完了
目が覚めると、見知らぬ天井だった。
病院の天井なら見飽きる程見てるから間違いなく病院じゃない。後匂いも違う。これは本の匂いだ。
「寝てた!!」
「あら、起きたのね。体に違和感とか、無い?」
ブロンドヘアに艶やかな唇、ゆったりした服を身に纏ってなお見とれてしまうプロポーションの女性。
「マープルさん、ごめんなさい!私……あれ?ここ、図書館?」
最後に見たのは走馬灯だった……うん、大丈夫だ。触覚あるし、川も見えてない。
「どうしたの?手が痛いの?それとも、目?」
私が手をグーパーして辺りを見回しているのを見て、不調があると思ったらしい。
「違います。大丈夫です。
あれ?私どうして図書館にいるんですか?確か森に……」
「館長が運んできてくれたのよ。
消食の魔導書に襲われて倒れたって聞いたけど、どこか痛いところはない?」
「大丈夫です。ご心配おかけしました。」
「ちょっと、まだ寝てなさい。」
「でも仕事が……」
「そんなの今日は終わりよ。そんな危ない目にあって、倒れて、それで仕事なんて、駄目よ、許さない。」
「でも……」
「無理して続かないより、無理せず続けることが大事よ。
大丈夫、消食の魔導書を相手にして大きなケガをしなかっただけ貴方はとっても偉いわ。
だから、もう少しだけ休んで、今日は帰りなさい。
それとも、私がここで子守り歌か読み聞かせでもする?」
「……いいえ。大丈夫です。すみません。」
「言うなら『ありがとう』にして。」
「ありがとうございます、マープルさん。」
大人しく、横になる。
私、未だ生きられるんだ……。
『館長室にて』
「改めて、すみませんでした。」
頭を下げる。
ナオミ=イース、その粗暴な見た目からは到底想像できない綺麗なお辞儀だ。
「その謝罪は受け取れません。何故なら謝る必要が無いのですから。
今日あの場所で新人研修を行うように命じたのは私です。謝るべきは危険を未然に防げず貴方達を危険に曝した私の方です。
申し訳ありません。二人を危険な目に遇わせてしまいました。」
公の施設の長としての風格と実力を持ちながらも謙虚さと賢明さを持ち合わせた男は更にお辞儀で返した。
「いえ、あれは予測出来ない異常事態です。不可抗力です。」
「であれば、貴方も謝る必要はありませんね。」
「……」
「それどころか、後輩を逃し、被害が民間人に及ばない様に時間を稼いでくれた。
よくやってくれました、ありがとうございます。」
「……いえ、ありがとうございます。それで、話ってのは、あれのことですよね。」
図書館に帰った後、眠っていたヒガシノをマープルに預け、館長は仕事に戻ろうとするイースを館長室に呼んだ。
それは勿論、消耗した状態でこれ以上無理をさせないようにという配慮であるが、それ以上に話を聞かねばならず、その話は誰かに聞かれて良いものではないと判断したからだ。
「はい、私は少ししか見られなかったので、実際に一緒にいて近くで見た方の意見を聞きたいのです。あれについて、どう思ったか、なんだと思ったか、思ったままを教えてください。」
『思ったままを教えてほしい』それに対して言葉を選ぼうとして、結局、諦めた。
「……あれは、『異界扉』ですか?」
「『異界扉』を知ってるとは、驚きました。禁書級の魔導書のことをよく知っていましたね。」
「昔、研究していたんで。ここに来てからも色々と見たんで、名前だけは知ってました。
現物を見たことないんで、あくまで文献で読んだ奴に似てるってだけなんですが。」
「いいえ、君の見立ては正しいです。あれは間違い無く『異界扉』の世界の光でした。」
「……どうするんすか?」
「禁書級の魔導書は十分な封印を施して保管すべきもの。
たとえ勤務中の我々であったとしても軽々に携帯出来るものではありません。勝手に持ち出したとなれば重大な犯罪です。」
「……っすね。」
「どうしたら良いと思いますか?」
「……魔導司書としては、んな物騒なモン無許可で携帯してる奴はブタ箱に死ぬまでブチ込むべきだと、思います。」
「であれば、『魔導司書としては』でなかった場合の考えはどうでしょうか?」
「あのままアイツが来てなければ、俺は死んでました。
やったことに対する罰は必要ですが、業腹っすけど、命を助けられた恩義があります。なんで、罰するなら、そん時は温情を、お願いします。」
最敬礼。それに対する館長の答えは明白だった。
「そんなに緊張しないで下さい。そもそも、彼女は禁書を持ち出していませんよ。」
「どういうことですか?」
イースのその答えは、館長の手の中に現れた。
「それ……は。」
「『異界扉』です。間違い無く本物ですよ。最初から偽物だったというなら、話は別ですがね。」
手元にある本を見る館長。
古く、しかし丁寧に手入れがされた一冊の本を慈しんでいる様だ。
「これはあの場から回収されたものではありません。私が持っていたものです。
そして、開かれた形跡は全くありませんでした。」
「じゃぁ、模写を……いや……んなこと。」
「その通り。現物があったとしても、禁書級魔導書の模倣なんて本来出来ません。
なので、彼女は無罪ですよ。
危険な魔法を使った件に関しても、あの場での使用は適切だったと言えるでしょう。
なので、今回の件は私とイース君、君の胸の中に仕舞っておいて下さい。」
「……わかりました。」
「はい、それでは。お疲れのところ手間を取らせましたね。
今日はもう帰って、休んで下さい。ちなみに、これは館長命令なので、拒否権はありませんよ。」
「わかりました……」
「……魔導書は使われてねぇ。じゃぁ、ありゃなんだよ……」
2種の魔導書を捻り潰せる様な魔導書があの場にはあった。それが『異界扉』なら、禁書なら納得できた。
だが、あの場にはその本は無かった。
じゃぁ、あれはなんなんだよ……。
「つかれた~」
手足が物凄く怠い。もう今日は晩御飯食べないで寝よう。
以上となります。お付き合いいただいた皆様、協力頂いた司書の皆様、ありがとうございました。
2話の構想はありますが、まだまだ書きたい部分だけなので、一度完結という形で様子を見ていきたいと思います。




