マープルさんと督促に行こう3
次に来たのは煉瓦造りの豪奢な家……というか邸宅だった。
「大きい……」
門がある。
庭がある。
噴水まで。
わぁ……別世界の建物だ……コレ、人が住む場所なの?
「さぁ、しっかりと、返して貰ってきてね。」
圧倒されている私の後ろでマープルさんが手を叩いた。
「わかりました、行ってきます。」
「あぁ、くれぐれも、気を付けてね。」
「?」
「こんにちは。王都魔導図書館の者です。フェイカーさんはいらっしゃいますか?」
防音結界を張り、門の傍にあったベルを鳴らす。すると門が開いて中から人が出てきた。
「はいはい、あぁ、申し訳無い。最近少し立て込んでて、返すのをすっかり忘れてしまった。
すまない。以後気を付けるよ。」
首飾り、指輪、どれもこれも高そうなものばかり。纏う雰囲気も、実業家といった感じで豪華だ。
その手から渡された魔導書に目を向ける。
『視覚系魔法のすゝめ』
確かに、そのタイトルはフェイカーさんに貸していた資料だ。
「すまない。じゃぁ、返却を頼むよ。」
そう言って家に入ろうとしていた。
「待って下さい。」
止めた。
ここで終わりにするのは、多分とてもマズい。
「この本、お貸ししたものとは少し違うので、もう一度、探してもらう事は出来ますか?」
手の中の魔導書にかけられていた魔法を解除する。
かけられていた魔法は『偽装魔法』。物にかけるとその質感や見た目を別の物に見せかけることが出来る、幻覚魔法だ。
石ころを宝石に、落書きを名画に、子猫を猛虎に……そんな風に言われている詐欺師御用達の魔法。
心の警戒を最大級に上げる。
学校時代、友達がこれに引っかかって酷い事になったことを、覚えてる。
お陰でこの魔法の対抗魔法も知ってる。例えば、魔法を解除しないで本性を見抜く魔法とか。
『眼光支配術』
バカみたいな名前だけど、とても強力。
騙された友人がブチ切れて、騙したナンパ男の後頭部を掴んで、顔面をありとあらゆる場所に叩き付けて、酷い事になったことを、覚えてる。
私が今持っているのは古新聞の塊。
さっきまで御殿に見えていた建物は廃墟寸前のあばら家。
目の前の男の見た目も、ハッキリ言って見すぼらしいものに変わっていった。
「バレたか。」
舌を出す。
ヘラヘラ笑っているけれど、笑い事じゃない。
このまま私が気付かず受け取って、そのままになっていたら、事件になっていた。
危険な魔導書の流出……なんて、笑えない。
「お返し頂けませんか?」
「ハハ、すまないすまない。まさか見破られるとはね。
はい。遅れて申し訳無い。ついうっかり、期日を忘れてたんだ。」
その言葉を信じるのは、難しかった。
ナンパ男は偽装魔法であれこれを友人に買わせ、ある時偽装魔法に強かった先輩からしれっとアドバイスを受けた結果、買ったものが粗悪品だったことが発覚。友人は即報復に移りました。
ナンパ男は偽装魔法で自分を二枚目に見せていたのですが、それがアダとなりました。
友人によってボコボコにされ、顔が三倍に膨れ上がり血まみれになりながらも、魔法のせいで表面上はなんてことないように見え、結果周囲の人間からはそれなりにマイルドにじゃれ合っているように見えてしまい、止める者が無く、重傷を負って病院送りになったそうです。
一人『眼光支配術』でそれを見ていた友人エルコちゃんですが、『酷い事になってるけどあれくらいの出血なら日常茶飯事だし……まぁいいか。』という元歴戦の病弱娘の価値観で見ていたので傍観していました。




