マープルさんと督促に行こう2
「こんにちは。王都魔導図書館の者です。」
やって来たのは図書館から箒で10分のところに建つ一軒の家。
レンガ造りで何の変哲も無い家。その前で他の人に声が届かないように防音結界を張って、ベルを鳴らす。
なんでそんなことをするのか?
「『図書館の本を延滞している』なんて近所の人や家族の人に知られたら、あまり良い気持ちじゃないでしょう?
だから何を貸したか、何を借りているかも本人以外には秘密よ。」
人差し指を唇に当ててそう言っていた。
借りた本が秘密……考えたことも無かったな。
そんなことを考えている間に扉が開いた。
家の中から漂って来た刺激臭には、馴染みがあった。
「ごめんなさい!図書館の人?また期限切れてた⁉ごめんなさい!」
ヨレヨレローブにボサボサ頭、度の強い眼鏡をかけた人が謝りながら差し出してきたのは『魔導薬学大全』。この人が延滞していた本だ。
「あぁ、ありがとうございます。」
「ごめんなさい!あららもうこんなに時間が……二日が一日位になってたわ!」
「?」
二日が一日?どういうこと?
「あらら、ごめんなさい、新人さんね。私はミチネン。魔導薬学の研究者をやってるの。」
後ろの方で微笑むマープルさんを見て私のことを察したらしい。
「はい、魔導司書のヒガシノと申します。よろしくお願いします。」
「よろしくね、ヒガシノさん。マープルさんにはかなりご厄介になっているんです。
家に引きこもって研究していると曜日感覚とか時間とかが無くなってしまって、そうすると、二日を一日分くらいの長さだと勘違いし始めて……『期限まであと1週間くらいある。』と思っていたの。ごめんなさい……」
「あぁ、成程……」
「以後……気を付けます。」
「はい。」
受け取って、扉が閉まったら魔導書を確認して、仕舞って、次へ。
そう思っていたら、ミチネンさんに顔を覗き込まれた。
「…………もしかして、貴女、以前大病を患ってませんでした?」
「え?」
「いや、私の家の臭い、薬品とかで物凄い匂いの筈なのに、そこまで表情が変わらなかったので。
あと、貴女から、薬を飲んでいた人の……匂い?雰囲気?的な何か?がしたんです。」
飲んでいる薬の量、半端無かったし、しょうが無いのかな……。
薬の飲み過ぎでお腹一杯になったこともあったし。
「そうですね。あったかもしれないです。」
司書にもプライバシーはある。なので、全力でボカさせてもらおう。
「あぁ、ごめんなさい。職業病が出てつい……。ごめんなさい。これでも医者だから、何かあった時は頼ってね。
本当に、ご迷惑をお掛けいたしました。」
扉が閉められた。手元には一冊の本が残った。
「さぁ、一件目のお仕事は終了。自分のことも守れて良かったわよ。
この調子で、次も行ってみましょう。」
ニコニコ笑う。その艶っぽく怪しい笑顔に惹かれて笑ってしまった。
このまま順調に仕事を終えられるだろうと、そう思っていた。
そんな訳が無い。




