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否認、そして奔走3

 面高は、りゅーり、唱空の同い年3人組で将軍庁居住区のリビングでだらけていた。だがいつものようなバカ話をできるほど神経は図太くない。


「どうなっちゃうんだろうねー」

 りゅーりがソファに腰掛け、バタ足のように脚を動かしていた。ふたりの男子の方を交互に見ているので、それにつられてポニーテールが左右に舞う。

「——あの子、おいしいおいしいってうちの作ったゴハン食べてくれたのに」


「だからって政府の命令を無視るわけにゃいかねーだろ」

 訓田唱空はスクワットをしていた。汗でにじんだ肌が黒光りを放つ。

「——軍隊が上の命令を無視ったせいでどうしようもねえことになったなんて、世界中にいくらでも失敗例があるぜ?」


「……」

 面高はりゅーりとは別のソファで仰向けになっていた。マンガ雑誌は開かれることなく腹部に置いたまま。本当に深刻なときには、漫画を読む気力すらなくなるのだと思い知った。


 唱空は少年の落ち込みようをチラリと見てスクワットを止め、ひと息ついた。

「とりあえずさあ、そういうの考えるのは大人の役目だろ。俺らがどうこう言ったってなんにもならねえって」


 それを受けてりゅーりはスキンヘッドの幼なじみに反論する。

「でもうちらもさ、言い訳——じゃなかった、法の抜け穴っての考えた方がいいんじゃないの?」


「法解釈さ」

 面高は落ち込みを隠すことなく口を開いた。

「——あるにはあるんだよね、セリさまが出かける前にちょっと話したんだけどさ」


 それを聞いてりゅーりは小さく拍手した。

「え、んじゃもう勝ちじゃん! なにすんの?」

「どんな方法なんだ? 機密情報なら言わねえでもいいけどよ」

 友人ふたりの問いに、しかし面高は気持ちが沈みきっている。


「すげーひでーんだよ、これが」

 今の落ち込みがどうやら冗談や悪ふざけではないと察したのか、りゅーりは心配そうに顔を寄せる。

「人前じゃ言えないようなこと?」


「お前らにも言えねえよ、こんな非道いこと」

「マジかよ」

 唱空はソファに座り、腕を組んだ。

「——それって、中学んとき上級生の女子が階段降りてる最中バランス崩して、それでお前が助けようとキャッチしたら、思いっきりおっぱいに顔が埋まったしうっすらブラが透けてたしで、もう一生の思い出にしていくとか言ってたのより話せねえレベルたけーの?」


「は? なにそれ」

 りゅーりの鋭い追及とは逆に、面高は反応する気にもなれなかった。中学時代の他愛のないハプニングと、純然たる鬼畜行為とは全くの別物だからだ。


「こりゃ重症だな」

 唱空は思案顔でのぞき込んできてから、ボトルの水を飲んだ。

「——でもさ、その法の抜け穴を実行できりゃゼナ姫は助かるんだろ?」


「助かるは助かるんだけどさ」

 面高はため息をつきつつ上半身を起こした。

「——それやっちまったらもはやおれ人間じゃねーよってレベルだよ。しかもそのアイデアはセリさまが出したんだよ……あくまで最後の手段って言ってたけど、それでもなあ」


「あー、それであんた落ち込んでたんだ……」

 りゅーりは面高の頭頂部をポンポンと叩いてきた。


 面高は唱空からボトルを受け取って、水を飲んでから大きく息をつく。

「まあ確かにセリさまって100年以上前からうちの喫茶店で働いてたみたいだしさ。女子ってより妖精って感じで考えてることわかんねえときもあるけどさ。それでもンなエグいアイデア出してくるとかさあ」

 東京都知事など関係各所の連絡先が書かれた紙を恨めしげに見つめる。

「——ゼナ姫だって絶対反対するっていうか絶対怒り狂うだろうし。どーすりゃいいんだか」


 そんな外道行為を将軍としてしなければいけない——少年に課せられた心理的な負荷は計り知れないほど重い。


 ◆ ◆ ◆


 3月下旬の某日、昼の14時。

 こうして、将軍庁の面々の長い1日が始まった。

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