魔女の力の源は
静かな夜の聖堂に、星の光が差し込む。
フェリア中央教会の聖女ミラノ=アート。
少し片耳の上で結いあげた茶髪が、丈の長い聖衣にさらりと流れる。
毎日ひとりでやっている深夜の礼拝が、聖女としての一日の締めだ。
――そのはずだった。
「み~つけた!」
「きゃ! な、なに……?!」
どん、とぶつかってきた背中の体温に振り向くと、小さな女の子が、満面の笑顔で上着を握りしめていた。
滑らかな黒髪だが、その毛先は間違って染料に浸してしまったのかのような、赤色だ。
「はじめまして、ミラノ=アート。わたしはヒカゲ=ディシール。よろしくね!」
閉門時間を過ぎてる教会に出現した、6歳位の女の子。
(ゆゆゆゆうれい?!)
でも私の上着をぎゅっと握った小さな手には、あたたかい重みがある。
「え、えっと、保護宿舎の子かな……?」
教会の敷地内には身寄りのない子供達を保護している宿舎がある。
そこから迷い込んできたんだろうか?
「ん? あはは~、びっくりした? 何を祈ってたの?」
漆黒の可愛い瞳が、覗き込んでくる。
「えっと、皆がもっと幸せになりますようにって――――」
「うん、そのための力を、願ったんだよね。ミラノ=アート」
なんだか、ふわふわする。
セト先生が魔女の姿になってどこかへ消えてしまった時も、こんなふうに、頭がぼうっとした。
ざあ、と中庭から緑の匂いが香る。
もうすぐ冬なのに――――。
「さあ立って、ミラノ」
小さな手に引かれてふわりと立つと、夜の聖堂にいた筈なのに、なんだか周りが明るい。
「あなたは、誰……?」
「言ったでしょ。ヒカゲ=ディシール。世界中から嫌われてる私の弟子の幸せまで想ってくれるあなたの、願いを叶える為に来たんだよ」
ニッコリ笑んで、ものすごい事をいわれた気がする。
「え、な、弟子……?!」
「そ。世界を支配する魔女は、わたしのかわいい弟子。力の使い方を教えただけなのに、ここまで面白いことになるなんて思わなかったよ」
ぎゅっと私の冷えた手を握ってくる、小さな手。
初めて会ったのに、どうしてか――安心する。
「あの、じゃあ、あの人の力の源って……」
「力は、世界中にみちてるよ。何をつかんで、どう使うのか。たったそれだけの、すごく大きな違いなの。ミラノが魔物を消す力は、魔物の本質の魂を浄化するもの。それはあの子にも出来ない、すごい事なんだよ」
ぱぁ、と目の前が白くなる。
眩しくて暖かい光。
魔物を消す力を使う時に滲む光と似てるけど、それよりもっと、確かな、力。
「行こう。あなたの、願いのために」
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