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 それが伯父と交わした最後のやり取りになった。


 浅草駅で別れる際また会うことを確かに約束したものの、つい無沙汰をして、その年を越したらあっという間にコロナ騒ぎが起き、とても東京に住む伯父・伯母には会いに行けなくなって今に至っている。


 こうして伯父のことを書きながら、私は、「間に合わなかったな」と思っている。


 私は小説を売って(つまりは新人賞を獲って)、雑誌に載せ、伯父を安心させたかった。はじめてあの焼肉店に連れて行ってもらって、小説家志望であることを伯父に打ち明けた時から、ずっと、そう思い続けてきた。それは私の――おおげさに言えば――人生の目標のひとつで、そのためにそれなりに努力してきたつもりだし、苦しんでもきた。


 その目標が、今夜、伯母の電話で未達成に終わったことを知らされた。


 この先に何があるのだろうか。何もないのではないか。今、虚しさを感じている。


 できれば、どこまでも私に優しく、かわいがり続けてくれた伯父に、「僕の書いた小説が新人賞に入選しました。伯父さん、伯母さんには学生時代から大変お世話になり……」などと書いた感謝の手紙を添えて、栃木の足利にあるワイナリーのワインと、自分の小説の載った小説雑誌を段ボール箱に詰め、立石のマンション宛に送りたかった。


 時計を見ると、午前四時を回ったところだ。ぶっ続けで七時間、書いてきたことになる。今、さすがに体の芯にこたえる疲れと、わずかな眠気を覚えている。それでも私はまだもう少し寝ずに、伯父との思い出に浸りたい気分でいる。

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