最弱星人はそこまで弱くない
そのひとは空へ落ちていって
また空からこっちへ帰ってくる
いつも大体夕方には帰ってきて
あたしをどこかへ連れていってくれる
血管のごつごつした腕が日に焼けていて
クロームシルバーの腕時計がよく似合う
あたしはどさくさにその腕に絡みついて
たまに振り向くふりして唇で触れる
なんでそんなになんにも出来ないの?
「出来ないことないよ」
彼のワゴンRを運転させられながらあたしが聞き
UFOでくつろぐみたいな助手席で彼が笑う
緑も茶色も後ろへ飛んでいき
うんこの匂いはそれでもしつこく車内にまで入り込んでとどまっていた
車の運転も出来ないくせに?
「ほんとうは出来るんだよ」
車の運転は自信がないからしないけど
UFOの操縦には自信があるんだ
そんな感じの言い方だった
彼はリボン結びが出来なかった
何度教えても摩訶不思議な毒々しい蛾の姿をそこに出現させる
本結びは出来るけどかなりゆるかった
まとめた古雑誌を持ち上げると山の上から土砂崩れが麓の町を襲った
彼女を秋祭りに誘うことすら出来ないやつだった
仕方なくあたしのほうから誘った夜に
あたしは浴衣を買っておけばよかったと後悔した
長Tシャツにジーンズ姿では褒めてももらえない
あ
どうせ浴衣を褒めることすら出来ないやつだったか
はっはっは……
きつねとたぬきが出会う神社で
あたしと最弱星人は待ち合わせて
まずは林檎飴をひとつ買った
この間のおおきな祭りと違う客層
カップルと子連れが8割
なにが違うんだ
まぁ
客層のおかげで
ムードが違った
出店はこの間とおんなじ
ねぇダーリン
なんだいハニー
そんなムードの周囲に包囲されて
あたし達は会話も少なく食べ物を食べてまわる
そのほうがあたしには合っている
そのほうが彼には難易度がちょうどいい
最弱星人だもの
「次は何が食べたい?」
よし
ちょっと難易度を上げてやろう
意地悪気分で
メロンクリームわたあめが食べたい
「はい」と買ってきたから驚きだ
意外とこいつ出来るやつなんじゃないだろうか
「どんな味?」
うーんと
メロンクリームソーダみたいにシュワシュワして
黄色いメロンみたいに甘い食感
口のまわりにメロン色のひげくっつけて返答
「どれどれ」
彼はそのひげを試食した
ああ
ひげバナナ味
意外とこいつ
出来ないふりしてるだけなんじゃないだろうか
そう思わされながら
あたしは明日も聞く
どうしてそんなになんにも出来ないの?




