空に落ちて行きそうなひと
そのひとを見ていると
今にも空に落ちて行きそうだった
そこかしこで
虫の音
朝に
あたしはまた
自由落下の夢を見た
あたしはとても平凡に
重力に素直に従って下へ向かって平凡に落ちていた
高度3万メートルぐらいから
なんて平凡
このあたしとしたことが
許さない
自由落下だなんて
ちっとも自由じゃない
ぐしゃりと地面に激突してから
また宇宙人に変な姿にかき集められないよう
悔しげに
起き上がり
歩き出すと
目の前にそのひとが立っていた
だぁれ?
この狭い村で
まだ知らないひとがいたの?
そのひとはにっこり笑って
とてもあたしを懐かしむように
「僕だよ」
と
言った
目が覚めた
コーラの匂いに誘われて牧場に入ってみたけどコーラはなかった
ただ牛のふんがあちこちで香っていて足の踏み場に困って
自由なあたしがその牧場に閉じこめられていると助けにきてくれるひとは誰もなく
あたしは空を見上げた
元々世界には
人間はいなかったんだよ
と
空が言った
ああ
そうなんだ
じゃあ死んでしまおうかな
牛ふん香りまくる世界の中で
3時間はそうしていただろうか
空からUFOが降りてきて
きゃとるみゅーてーしょん
とかいう出来事も何もなく
牛たちはかまってくれるひともなく
自由意志で牛舎に帰っていったので
あたしも帰ろうかな
いつもの帰る場所へ
牛ふんをなるべく踏まない道を探して
そう決意したのだった
力のない顔で
スニーカーの底を水道水で洗って
すくーたーは修理中だったので
代車に出されたスーパーカブに跨がると
颯爽とは程遠いスタイル
希望とはかけ離れた気分で
たぬきの待ち構える国道へ
仕方なさげに走り出た
スーパーカブはいいバイク
スカートでも乗れる
でもあたしはオーバーオールで
どこまでも
どこまでも
行けるはずもなく
どこ行くんだったっけ
ああ
そうか
仕事中だった
ただいま帰りましたすたたたきーっ
スーパーカブの太鼓ブレーキが鳴く
「お帰りみぃちゃんご苦労様」
ごめんなさいおばちゃん
油売ってただけ
高原の売店では
どこにでも行ける切符は売ってなくて
どこにでもある土産物が
売っている
仕事帰りに
ねこと出会った
こんな自然だらけのところに
赤い首輪つけて
ねこねこ
こっちおいで
おいねこ
こわくないから
こいって!
ねこは自由だった
赤い首輪つけてるくせに
殺人犯を見る顔であたしを見て
去っていった
スーパーカブをぶんぶん言わせて
コーラの匂いに誘われて
山のほうへ
小山を登って
駐車場
車のない駐車場
まるであたしのための駐車場
ちょっといい気分になって
車がないのに
そこにひとりだけ
そのひとが立っているのに気づいたら
空が一気に茜色に染まった
あのひとだ
夢の中に出てきた
あたしは赤い笑顔で
こんにちは
彼も赤い笑顔で
「こんにちは」
どこから来たんですか
あたしが聞くと
「隣の八墓村から」
現実的な答えが帰ってきた
UFOに乗って来たんですか
あたしが聞くと
「そうだよ」
望み通りの答えをくれた
乗せていってくれませんか
あたしが聞くと
スーパーカブは置き去りになった
駐車場の脇に
秘密の階段
茂みをかきわけて
降りていく
その先に
その先にあったのは
UFO
ではなく
メタリックシルバーに輝く
ワゴンR
助手席に乗せられたあたしは
連行される宇宙人のように
かしこまって
「君の名前は?」
みぃ
「僕の名前は……」
覚えてない
覚えてたまるか
聞いたけど
三週間後あたしは彼に名前をつけることとなる
最弱星人
と




