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日本人スポーツ部の敗戦国系ファシズムからも

アツシは本当は大好きなバスケットボールをずっと続けたかったのだが、色々なことを考えた挙げ句思いきって辞めることにした。


15歳前後から急に背が伸びる子が多い中で明らかにチビのままの自分がどんなに真面目にトレーニングをしても下級生より試合に出る機会がどんどん減っていった事実と、

バスケットボールをしたこともない教師が監督になったとたんに反撃することがない生徒に向かって暴言や暴力を常態化するのを、親を始め上級生や他の教師も容認していたうえに下級生は上級生を無条件に敬うふりを強いられることなどに当事者からでさえ異議を唱える仕組みがまったく無いことからだ。


頭を空っぽにして他人や組織の駒となって生きるファシズム訓練がスポーツだとすれば、軍隊や自衛隊には必要だろうがアツシにはとても馴染めないことだった。


大人になったら自分の喜びややりがいだけでなく人のためになる仕事をして生きていたいと思っているアツシにとっては、礼儀作法は必要だが力のある立場からの指令に従うだけの組織の駒要員となることは、たんにメンタル的ストレスでしかない。


アツシは有名企業のサラリーマンである父親と専業主婦の母親の判断が常に父の会社の方針によって変わってくるのがおかしいと感じてきたし、

父親が失職したりしたら生きていけないのだから、と、母親は世間の情報などはいっさい受け入れずに父よりもっと閉じたところで家政婦のような暮らしをしている、それにも、違和感がある。


入りたかった部活に興味が持てないアツシにとっては、他人と群れずに過ごしていながらまったく不安げでないカエデは潔くて好きだが、2人とも社会人とやらになる日が数年後にやってくるのに自分のその絵がまったく描けないまま、暇な放課後を過ごしていた。


アツシが放課後都内のエスカレーターにたびたび通い始めてひとつきが過ぎた頃、

カエデも時々アツシと一緒に女装美女待ちをするのが日課になってきていて、もういつかのヒトには会えないのかもしれないけれど往復の車内でアツシと意味不明な会話をするのも案外楽しかった。


とくになりたい職業もないし親から継ぐ仕事もないカエデとアツシは、大学で専門的に学びたいものも無い。


駅や電車の中の大人たちは何を夢見て仕事を決めたのだろうか。


独身の大人の女は自分のために生涯金を稼いでくれて家を建ててくれる結婚相手を決めるためだけに今を生きているのだろうか。


知りたいことはたくさんあっても、経験の無い2人には答えなど見つかるはずもなく、何日もかけてようやく、社会のことをたくさん知っていそうな凛とした美しい大人に再会がかなったと目で確認したものの、どう声をかければいいのかわからないアツシとカエデは固まっていた。


濃紺の膝丈ワンピースに瑠璃色のスカーフを短く巻いたモネの足早なヒールの音が、確実に2人に近づいてきてくれているのに。


















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