ドラーグクイン、モネ
モネは今年4月の誕生日に35歳になった。
20歳の時に鼻筋を高くしたこと以外は毎月のビタミン点滴と半年毎のヒアルロン酸&ボトックス注射の美容医療だけで、痩せすぎでも太りすぎでもない綺麗なスタイルを保っている。
中学生の頃から人が傷つくより自分が傷つく方を選んで生きてきた一人っ子のモネは、かといっていじめにあったことはなく、ただ、どこの仲間にも入れず、親友というものが居ないまま学生生活を過ごし、有名進学校から京大に進んだ。
本当は、アメリカの高校生が恐れるスラムブックのようにネットでは集中砲火ないじめを受けていたのだが、モネは分かっていて目にしなかったのでメンタルを守れたのかもしれない。
大学で出会った同級生には妙な輩も多く、数日受講してすぐ、他人に手下として使われるくらいならホームレスで良いと主張する奈良のお寺の進学校出身の秀才カツヤと親友になった。
カツヤは男子校出身で女の子と関わるのを面倒くさがっていたが、合コンで知り合って酔って寝てしまった女の子と責任を取って結婚するというどうしようもない男だが、バカがつくほど損得勘定の無い頑なともいえるカツヤの性質はモネには誰よりも信用できた。
勉強しかしてこなかったカツヤはコミュニケーションスキルが無いに等しく空気がまったく読めないので、モネが側でいつもフォローをしていた。
いつも行動を共にしているうちに、モネは自分がゲイかも知れないという心のうちを相談してみたが、カツヤは大声で笑い飛ばすだけでまるでデリカシーが無い。
2回生になってモネが鼻筋を高く美容施術してもカツヤはまるで気がつかないし、モネが目立つ美貌から街やキャンパス内でモデルにスカウトされていても興味も示さないで、朝から晩まで京都の料亭や割烹で旨いものを食べることと勉強のことばかり話題にして、モネの興味がどこにあるのかをお構いなしに、ただ、懐いてモネの側を離れなかった。
そんな大学生活もあっという間に過ぎ、カツヤは警察庁に就職し官僚になり名古屋に出向したあと辞職して大学院に戻って、ただ一人の女となった合コンの夜の子と結婚して子供はまだ居ない。
モネは大学院に残って自治体の研究者として生きていたが、業者接待で東京のニューハーフの店に行ってから強くスカウトされて破格の高額バイトをしたところ、大学院には戻らなくなってしまった。
LGBTの子たちの中にはメンタルを傷つけられて生きてきた子も多く、彼らを支援することに誇りを感じるようになったモネは自ら借金して飲食の場に彼らの居場所を作るべく店を開業し、いつの間にか今では12店舗もゲイの店を展開している実業家になっていた。
モネは、ドラーグクインになっている姿をカツヤに見せたことはまだ無かった。
近頃ますます地元で生きにくかったという高校生や大学生がモネの周りに集まってきていて、皆で生きやすい社会を作るためのビジネスを始めようと研修がてら何人か引き連れてモネはパリにひとつき程滞在していた。
そのあいだも、美少年アツシのことはモネの頭にしっかりと残っていた。




