見て見ぬふりしない代償
’あなた、最近ドラーグクインで人に会わなくなってる?‘
‘目的を持つ時だけに絞ろう、とは思うようになったかな…’
’いまね、目黒に新しいクリニックを出すらしくて、そこの院長にって言われてるんだけど…‘
‘何年くらい?’
’本部の都合とか売り上げ次第でしょうね…‘
‘医師ライセンスだけを貸すの?’
’毎日2時間は診療担当するみたい‘
‘組織の下なら責任回避も出来るし医療訴訟の専属弁護士も控えてて、君はいつでも辞めることもできるから、メンタル面は楽でしょ?’
’それね、訴訟になるような処置もけっこうあり得るしね…‘
‘ケンゾーの司法試験が待ち遠しいね’
’あなたは、京都の方は、大丈夫なの?‘
‘うまく廻ってるよ、みんな頭が良くてプライド高いしね’
’ワタシ、そろそろ40だし…‘
‘綺麗な40代になるんだろ?’
’あなたとの時間を最優先に大事にしたいの‘
‘医療留学とかのコネはないの?’
’やっぱ年齢がネックでね…‘
‘組織のトップになれたら将来への不安はなくなる?’
’50歳くらいで美容皮膚科を開院するとかでもいーわね‘
’50歳でも綺麗な女医さんって、そのまま生きる広告だね‘
‘日本人は70歳でも若々しくて綺麗な女性が多いのよ、でも男は汚くてみすぼらしい!’
’老いた男も綺麗にするクリニックをやればいいよ‘
‘あなた、そんな将来も、ワタシのそばにいてくれるの?’
’そのつもりなのに、なんか、心配かけてるね、ゴメン…’
‘あなたの男としての気持ちを縛り付けるつもりはないわ’
’出来上がってるねぇ‘
‘私は子どもが産めないかもしれないけど、あなたは子どもはもてるのよ’
’そう、だけどね…‘
‘その辺を思うと、人が好きで、関わる誰もを大切に想う、カッコイイあなたは…、相手が恋心に変わることもあるでしょ、そこがね怖いの、すごくね’
’僕がやってることは君を傷付けてるの?‘
‘本当の運命の相手がこれから現れたりするかも、なんてね…。あ、あなたは、そのままでいいの、絶対変わらないで’
’人生のパートナーは君に決めてるよ…‘
‘今日のところは、ちゃんと大丈夫そうですねぇ、旦那様’
’ゴメン‘
‘京都に行ってもいいのよ、それで、帰ってきたら、このオバサンもいっぱい抱いてよね’
’君は、賢くて、完璧な人だ…‘
‘男女の恋だけがパートナーでは無いわよ’
’もう、黙って…‘
法科大学院から司法試験へ進むコースを決めたケンゾーはそれなりに充実した毎日を過ごしているようで、以前モネに相談していたシンガポールに行くことについては一切口にしなくなっていた。
罰金大国シンガポールの5日間の滞在でモネがあえて体験してきた事実を伝えなくても、すでにケンゾーは自分で東南アジアのLGBTQ達への社会の待遇を知っていたのだろう。
人民はブタだ、と発言する政治家一族の記事への怒りがケンゾーのモチベーションになっていることに賛同しているモネは、
ケンゾーが法曹の人間になった際は社会のルールを決める側に入れない立ち位置の多くの日本人を救うだろうと信じている。