板挟みのプライド
モネはシンガポールから帰国してから2ヶ月、一度もドラーグクインで出掛けず、大きなクローゼットの服はたいてい妻があれこれとっかえひっかえ着ていた。
’あなた、いったい何年分お洋服が有るかと思うほど持ってたのね、素敵ね‘
‘君は僕が思ってたよりずっと似合うじゃない’
’このドレス凄いセクシーね、着こなせそうにない‘
‘ドレスを着ていると中身も変わってくる気がしたけどね、今はちょっと、わからないけど…’
’あなたの美しい姿が見たいわ‘
‘日本で老害達が必死で若者の芽を潰して既得の利益を守ろうとしているのはトップだけなんだよ’
’京都のこと?‘
‘忖度してる権益舎のまわりの小者達は、老人になっても老害ではなく小者でしかないんだよ’
’あなたの考えは素晴らしいけれど、手段が弱くてまだ届かないのね‘
‘ワタシはどうすべきなの?って、感じさ’
’ケンゾー、司法試験マジみたいよ‘
‘良いじゃないか、素晴らしい’
’あなた…、今夜は2人でワインをどう?‘
‘いいね、その後もお付き合いいたしましょう’
’あなた、戻ってくれてるのね?‘
‘君以上のワタシの理解者でパートナーはいないじゃない’
’ドラーグクインのあなたもホントに好きよ‘
‘銀座の方のクリニックだったよね、迎えに行くよ’
‘嬉しい!’
京都の新しい塾講師のための研修も、一期の学生3名に任せてモネはリモートでアセスメントだけをやっていたので、出掛けること自体も減っていた。
モネは、自分が老害社会をスクラップすること、続いて、若い世代を育てて未来への新しい仕組みをビルドすることを望んでいるので、
それにはLGBTなどのマイノリティーを迫害しない社会が必然だと強く信じている。
老害たちは自分だけが得をするための力を地下にまで這わせて絡み付いかせているようなもので、なかなか一掃排除が難しいが、根気強く打破を続けるしかないだろう…、とモネは思っている。
カエデからは塾講師の業務確認くらいしかメールがこないが、噂では中国人留学生のマンションで一緒に暮らしているという。
妻の半分の年齢のカエデとあれ以上関わると、いろいろなことが壊れそうで、いや、壊しても構わないと思ってしまうかもしれない―とか、大人げなくどこか不安に思っているモネは、京都に行くこと自体が出来ないでいる。
今夜は妻と飲んで、妻を抱くことになるだろう、そしてその時、モネの妻がまだ自分を愛してくれているかどうかをしっかりと感じ取れるだろう。
モネは自分の部屋のベッドをゆっくりと片付けはじめ、2人の結婚式の日の小さい写真を探してきて、ベッドの直ぐ横にあるサイドテーブルの上にさりげなく置いておいた。