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世の中の常識は実情とは違うものよ

ケンゾーと京都から戻ったモネは、リビングでビールを飲みながら明後日からのシンガポール行きのために作ってあったパワポ資料を新しいデザインと横長サイズに合うよう整え直していた。


‘モネ、また僕にキスしてよ’


ケンゾーが後ろから俳優の舞台演技みたいにふざけて両腕を回してきたとき、モネの好きな柑橘系の香りがした。


’ケンゾーとはしないよ、わかるよね?‘

‘モネ、カエデちゃんとああいうことになってたわけか’

’見ちゃったか…‘

‘あの時さ、カエデちゃん悲壮な顔して2階に駆け上がったから、他のスタッフ止めて僕だけが上がってったんだ’

’気付きもしなかったよ‘

‘そりゃそーだろ、ゆっくりとお取り込みだったじゃないか’

‘…’

’モネはズルいな‘

‘…’

’誰にでもいい男過ぎるんだよ‘

’君の姉さんの方が男前だよ‘

‘知ってんのか!’

’わからない…‘

‘姉貴がいないときはモネは僕のものだ!’

’いつからだよ‘

‘ずっとさ’

’酔ってんのか?‘

‘ドラーグクインのくせに、なんで僕とヤらないんだよ’

’ゲイの子たちのほとんどはケンゾーみたいな男の子のままじゃないか‘

‘そーだよ’

’…‘

‘男が良いんだよ、ドラーグクインは女じゃないか’

’えらく荒れてるね‘

‘キスしてくれたら部屋に戻って寝るよ’

’駄目だよ‘

‘姉貴は今夜は当直だぞ’

’さあ、もう寝ておいで‘

‘嫌だ!’


ケンゾーはモネの髪を撫でるように掴んで勝手にキスして離れない。


モネは力ずくで引き離すこともなく10秒ほど待ってから、ケンゾーの肩をゆっくりと優しく離して、軽くハグしてやり、部屋の前に連れていった。


‘またキスしてもらうよ、モネ’

’ホントにもう、あきらめろって‘

‘嫌だ、カエデちゃんだけ?、あれは何なんだよ’

’自分に懐いてきて離れない産まれたばっかの可愛い子犬を抱き上げてるよーな感じかな…‘

‘僕は成犬かよ’

’ごめん、例えが違った‘

‘寝るよ’

’おやすみ…‘


酔っぱらっているのかシラフなのかわからないケンゾーが自分の部屋に入ってくれてモネはほっとしていた。


’なにやってんのかね、俺は…‘


PCの前に戻ったモネは新しいビールを開けたが、今夜はカエデの裸を思い浮かべることはなかった。



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