あともう少しで終わるから
カエデは近頃、誰も入って来ない広い庭で摘み草を撰んだり鳥の声を聴く機会がほとんど無くなっているほど、受験勉強の仕上げに邁進していた。
モネたち夫婦もケンゾーも越えた受験を自分も越えなければ仲間には入れないと思ったからだが、アツシとのことは無かったことにしておきたいくらい今後の展開を予定していない。
ユカリは夏休み開けには指定校推薦枠で大学はもう決まっていたがどこなのかは秘密にしていて、カエデは国公立も私立もモネと同じ京都で学生ができる大学ばかり受験することにした。
アツシは誰もから、今年は志望校は無理だろうと思われているものの本人的にはあきらめない風でもある。
モネと妻は翌日の仕事の心配をしなくてよい祝前日のように、朝まで飲んで食べていつの間にか昼過ぎまで寝てしまっていて、目覚めてからはケンゾーの恋人が作ったらしい温かいコンソメスープを飲みながら、
顔の売れていない劇団員や俳優が大袈裟に台本どおりの体験談や成功話を語るような-年寄り以外は信じたりしない-ショッピング商品紹介番組を黙って見ていた。
モネの頭には妻と共に日本を出ることも視野に入ってきた。
‘いまだ日本政府は幕末のままで、今も長州人のものだから、国民をバカにするように赤木ファイルも平気で隠蔽されるのよ’
モネの妻はまだご機嫌ななめなようだ。
権力者なら犯罪さえ隠蔽されるような社会も組織も、本当にもう変えられないのか…。
‘もう、昭和のようにガツガツするような必要性がわからないし、これ以上成長しない社会でいいから、まったり生きようよ…’
この人はどこまで本気なのか、モネは妻の悲しそうな瞳の笑顔を見ながらアツシからのメールを読んでいた。




