僕は別に男とヤりたいわけじゃないんだ
モネはアツシをニコニコして見つめ続けているが、どんな時も品の良い笑顔を崩すことはない。
カエデは刺激的な時間を過ごすことに次第に慣れてきたようで、チラ見をするのではなくまっすぐにモネを見つめて声をかけるように様子が変化してきていることをモネに言葉で指摘して誉めてもらい、ますますモネが好きになった。
調子にのってモネに女装し始めたわけを知りたいと尋ねるカエデにモネは驚くこともなく話し始めた。
’他人の心を写すためとワタシなりに社会を変えるためよ。‘
妻もいるモネがゲイでないことはアツシにはわかっていた。
’偏差値の高い大学まで登り詰めると確かに職業の選択肢は増えるけれど、そもそも選択って生きてきた環境や親が何をしているかで決まることが多いし、誰といつのタイミングで出会うかで違ってしまうこともある不公平なものよ。‘
カエデもアツシも難関塾生なのに、もう人より少しでも高い得点を目指す必要などないということなのかと、全身で焦ったのがモネに伝わったのでモネは続けた。
’死ぬまで人と関わって生きていくしかないのだから、正しい論旨展開が出来るように脳を使えるようにしておかないと猿や犬と同じよね。‘
話しているとよく、アツシが歯並びの良い白い綺麗な歯でよく笑うのをモネに褒められるのが嬉しかった。
‘学生が出来るだけ目指すのはひとまず頭のよさ。で、その後は、世の中で自由に動くことをワタシの生き方にしているの。女性の話し方や格好もその一つでしかないわ。’
アツシもカエデも帰宅部で変わり者チーム寄りだったがそんな既成概念も学校が作って押し付けてくるものだったのだ。
’今はちょうどあなたたちの年代に興味があるの。学校組織にあぐらをかいてきた年寄りたちから解放されて、世界水準の個々の言葉をもつ学生が街に溢れるような社会を一緒に目指さない?‘
アツシもカエデもモネの真意が分からず頭の中の整理もできず返事が出来ないでいたのだが、とにかく目の前の美しすぎる秀才ドラーグクイン教授のゼミ生になれるのかもしれないという悦びと興味が込み上げてきていた。
メイクすると激しく美しい自分を知っているアツシも、男を好きになったことはない。
2人の高校生がようやく緊張せずにモネと少しずつ話ごできるようになってきたころ、キャップを深めに被った長身のスタイルの良い男が3人の席の方に近づいてきた。
‘こちらはケンゾー、東大生だけどただ今留年中。妻の弟よ。彼はゲイです。’
ケンゾーが2人に軽く会釈して微笑みながらモネを睨み付けたので、モネは品良く小さい声をあげて、笑った。




