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月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
三章『星と並んで見た世界と、祈り』
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三節『雨は上がる』3

 ステラがフリューと床を同じにした日。彼はとても素敵な夢を見ていた。

 夢の内容を彼は思い出すことが出来なかったが、朝、普段よりも早い時間に目の覚めた彼の体は、気持ち軽くなっていた。昨夜、フリューとのひと時で何かの清算が終わったのか、それとも、覚えてもいない夢で何か気持ちの整理がされるようなことがあったのか。それは定かではないものの、青白い光の中で今日という日が始まったのである。


 寝起きの意識ははっきりとしていて、ステラの視線を遮るものはなにも無い。

 明瞭な視界の中で映る暖かな肌色と、皮膚を突き破って現れた半龍特有の血の鉱石を躍らせながら、彼は油の切れたブリキ人形のように隣で眠っているフリューの背に腕を伸ばす。横腹から肩甲骨へ。彼の太い指が優しく血の鉱石をなぞる度に彼女は僅かに身を捩るが、それを抑えるようにして彼の抱擁はしだいに強くなっていく。


 ──あぁ、人とは違うのだな。


 彼女を知る度にステラはこう思わざるを得ない。半龍とは言っても、がわは殆ど人間だ。いや、だから余計にそう感じるのだろうか。

 フリュー・フタリシズカを構成する内面は人間の物とは全く違う。龍血を生み出す心臓がそうであるように、頭部から流れるように生えた二本の角や、人よりもはるかに優れた臓器たち。

 人間が憧れ、目指した超常の存在だって、胸に抱けばその小ささを感じることが出来る。命を、感じることが出来る。


 ステラはフリューの口蓋に自らのものを重ね、寝具から起き上がった。


 起き抜けに飲んだ水差しの水は夜によって冷やされ、彼の意識の覚醒を手伝っていく。マザーシプトンからもらった騎士服に袖を通し、フリューを起こさないように静かに部屋を出る。「今日も瓦礫掃除か……」と、声を出せたのは七月の神殿の出口が目に見えてからで、深いため息を伴っていた。


 神殿を出て彼が見上げた星海は海を含んでおらず、いたって普通の空に見える。この光景は彼にとって見慣れたものであるはずなのに、どこか寂しいものを抱えてしまう。それでも脚を止めることは出来ない。


「よし、頑張るか」


 彼は袖をまくって瓦礫の山に向かった。

 ルーナン・コリスは石造りの建物が多く、廃材で火を焚くのも簡単ではない。損傷の小さい木製の家具はそのまま使えるし、多少傷があっても分解して使うことが出来るからだ。だから彼が探すのは完全に使い道のないもので、そういうのは大抵既に回収されている。

 ステラが神殿前の広場で火を囲めるようにした頃には彼の他にも多くの人々が起き上がり、各々の生活を送り始める。



 ルーナン・コリス。月の見える丘にある町で、騎士は働いている。

 彼はその後グアルディアン王国にトウカと共に渡る事になるが、晩歳になるまでの殆どをこの町で過ごした。


 マザーシプトンの騎士であったステラの物語は「月の騎士」、「星光の勇者」として残され、人々の記憶にいつまでも残された。もちろん、彼の物語の中には七月の魔女という配役でマザーシプトンが出てくるものの、彼女の性格はまるで慈母のようであったと記されていた。

この話で『月下の町で唄う』は完結となります。

七か月とちょっとの間でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。


この物語は知り合いの物書きさんと話していた内容を参考にして書きました。

人を強くするのは何か。感情が人を強くするのか、それとも、外付けの力なのか。

私は外付けの力だと答え、知り合いは感情だといいました。


人外の域に行くのに必要なのはどちらか。

それを踏まえ、愛や他者からの感情によってマザーシプトンを討つという展開が出来たのです。


それではここで長く話してもあれなので、そろそろ終わることにします。

今日はもう一話、初期段階でのキャラクターの設定を投稿しますので、よろしければそちらも読んでみてください。


感想、ブックマーク、作品の評価などいただけると嬉しいいです。

最期まで読んで下さりありがとうございました。

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