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月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
三章『星と並んで見た世界と、祈り』
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二節『それは醜い魔女の愛』4

 勇者に討伐される前のマザーシプトンが出会った、一人の王。彼が治めていた国は三つに分かれて争っており、その一つ、グアルディアン王国へと俺たちは歩を進めていた。マザーシプトンが死に、星海に呑まれてから、二ヶ月が経とうとする頃合いの話しである。


 魔王の討伐。その使命を果たした勇者も千年の役目を果たし終えて消えてしまい、記録の中でしか彼を見つけることは出来なくなった。そして、勇者の及ぼしていた見えない力は消えることになる。これに焦ったのはグアルディアン王国からやってきていた唯一の生き残り、ノゲシ・ホワイトリカーだ。

 最低限の食料と馬を奪い去り、気が付けばいなくなっていた彼を追って、今回、彼の王国に向かっているのではなく、そこにはいくつかの理由があった。


 まず、ルーナン・コリスの中心にあったのは七月の神であり、町の治安を守っていたのもマザーシプトンの配下の者たちである。だが、それらの多くは先の戦闘で死に、町全体の人口よりスラムの住人の方が多いのではないかと思わせるほどになっていたのである。

 人命救助に復興。やることは山ほどある。スラムの住人を町に引き入れ、作業を手伝わせるための指揮を誰がとるのか。それは自然と私とノーザに回ってきて、身動きが取れなかった。

 何が言いたいのかというと、くそ忙しいルーナン・コリスから私たちは逃げ出したのである。


 マザーシプトンもカストラートも居ないルーナン・コリスで人の徳など説いたところで、返ってくるのは石礫だ。大雨の後に消えた星海と、それに伴って聖性から解放された人間たちが次に捕らわれたのは、人そのものが持つ醜い欲望であった。

 私が知る人間という種を数人煮詰めて一人の人間に詰め込んだようなそれは、とても私とトウカだけで対処できるものではなかった。神弓を持つトウカはともかくとして、神剣は三神に没収され、勇者との戦いで聖剣を折られた私は、それはもう必死に走り回るしかなかった。


 小さい町だとは言え、町中を一日走り回っているのは効率が悪い。私が神殿で寝食を行っているのもあって、町の端までは手が届かないのだ。結局、他の人間より多少は善良な市民が神殿に集まってきた時点で、反乱分子の一斉粛清を行うしかなかったのだ。

 私は王ではないし、政治屋でもない。疲労困憊の私たちの元に手紙が届いたのは、その少し後のことだった。


 差出人はグアルディアン王国に帰って行ったノゲシ・ホワイトリカーとなっていて、内容は簡潔にまとめられていた。よほど焦っていたのか歪な文字と、完全に止まっていない蜜蝋に嫌な予感を覚えたものの、読まない訳にはいかなかった。


 手紙の内容はこうだ。

 勇者フォウ・リーフの千年間の使命達成による帰還。ルーナン・コリスに来ていたヨシ・ヒイノコズチ、ナズナ・ナンテンショウの死亡。この情報を手に入れたグアルディアン以外の二国が同盟を結び、グアルディアン王国に攻め入ったらしい。

 言ってしまえば、これは私たちには関係のない事で、返事を返さなくたっていい問題ではある。

 だが、あちら側が提示する、とある条件が私を動かしたのである。


 ──ルーナン・コリスからの助力を得られる場合、グアルディアンはルーナン・コリスを一つの国と認め、無償で復興やその他支援の援助を行うものとする。


 手紙をルーナン・コリスまで届けてくれた騎士団をそのまま使ってもいいと言うのだから、よほど彼らは勇者を求めているのだろう。


「私と半龍の二人は心で結ばれている。こので何かが起こったのなら、祖国が消えるぐらいは覚悟しておくべきだ」私はそう騎士たちを脅しつけ、紆余曲折を経て、この旅路に居るのだ。


「本物の王が…………神代の王なら、戦争を失くせたんだろうか」


 そんな私の呟きは誰にも拾われることはない。何の変哲もない空を見上げて寂しさを覚えた私は、マザーシプトンから聞いた一人の王の話を脳内で反復させ、これからの事を考えていた。


 ◇


 いままでしてきたことのむくいをうけたのか、それとも神のいたずらか。マザーシプトンは自分でも気が付かない間に世界を渡る門を潜っていたのだ。


 ダンジョンは真っ暗ということはなく、魔力を多分に含んだ水が周囲を照らしていた。それだけではなく、今まで感じていた龍の圧力を感じなくなっていた。こんなことがあり得るのだろうか。彼女の中には疑問しかなかったが、マザーシプトンの脚は自然と神殿の外へと向かっていた。


 彼女の瞳には自分のこの世界での自身の立場がうっすらと見えていたのである。

 神殿と門は半ば一体化していたが神殿とは名ばかりの、装飾が多いだけの建物のように彼女には感じられた。


 神殿を出ると、最初に目についたのは壁だった。神殿を囲うようにある大きな円形の壁。

「…………どちらかというと穴ね」誰に聞かすでもなく呟いたシプトンは光り輝く水に触れ、一つ息を吐いた。


 彼女がこの世界に来る前に持っていた因縁、縛りというものは消えている。

 汚らわしい龍の血も。未来を予想出来る瞳を持っていることも。自分を雁字搦めにする人間関係も。

 全くもって今の彼女には関係ない。シプトンがその喜びを理解するまでには、少しばかりの時間が必要だった。

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