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月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
三章『星と並んで見た世界と、祈り』
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二節『それは醜い魔女の愛』2

 私がどうして三神との縁を持っているのか。その答えを勇者が教えてくれた。それが本当に正しいのかは分からないようだが、大筋としては間違っていないのだろう。

 三神が力を合わせて呼ぶ勇者を、封印中のマザーシプトンが単身で呼べるはずがないのだと、彼は言った。何らかの形で三神の力を使わなければ成しえない奇跡なのだと。


 そこまで聞いてようやく納得した。自身が復活する前に三神に邪魔されてはたまらないと思い、私に魔術を仕組んでいたのかもしれない。勇者を抑えるには勇者しかいない。マザーシプトンが言ったように半龍の力で強化することは、自分の首を絞めるようなものだ。それも予想していたというのなら、この盤面も彼女にとっては可能性の一つでしかないのかもしれない。


「まずはカストラートだ。神剣が無くなれば勝ちの目は一気に増える。ほんの少しでいい、時間を稼いでくれ」

「まずは二人を引き離すところからか」

「それも合わせて任せてくれればいい。カストラートを倒せば後は一瞬だろう」

「……分かった」

「そこの騎士も分かっているのか?同じ神弓使いとして見ておくといい」

「えぇ、そうさせてもらうわ」


 カストラートが持っている鏡剣ラシェットには空間を超える力がある。マザーとつかづ離れずで、引き離すのは困難に思えた。だが、勇者が出来ると言うのなら、本当に出来るのだろう。彼が私たちと合流して使うことが出来る力があるというのなら、それを期待しないわけにはいかない。トウカにも声をかけたという事は神弓アルメッサを使うのだろう。


 そこから勇者が集中し始めるのは速かった。太陽の輝きはそのままに息を鎮め、魔力を強く練り上げていく。彼の最初の力ともいえる霧がルーナン・コリス中から集まっては何かの形を作ろうと動いていた。

 それはまるで防具の様で、武器の様で、その身の輝きと合わさって余計に神々しく映った。


 しかして、彼を長く見つめることは出来ない。マザーシプトンが、カストラートが、隙を見逃すはずがないのだ。トウカは神弓で、私は剣で攻撃を打ち払い対応を続ける。目まぐるしく駆けまわる魔術の数は多く、一つ一つの距離感を正しく理解出来ているわけではないし、鏡剣の空間切断の感知も難しい。今ここに立てているのは、間違いなく神剣のおかげであった。

 半ば自動で身を守ってくれなければ、今頃は魔術で焼けるか、バラバラ死体になっていたに違いない。トウカは私より余裕がないようで、弓で殴らんばかりの鬼気迫る勢いを見せていた。弦を弾く指が擦り切れて血で滲もうとも、その勢いはとどまる事を知らない。


 脳内麻薬を溢れさせて戦う私たちの体はいつも以上に動いているのだろう。多少の痛みは感じることもなく、新たな熱量となって体を突き動かす。勇者を背中にしているというのに、彼の事を考える余裕などなかった。


 ──そして、その時はやって来る。


「突っ込め!!!」


 勇者の声は誰かを指定したものではなかった。けれど、何よりも速く脚は前に伸び、地を蹴ってマザーシプトンとの距離を詰めていく。神剣は盾へと姿を変え、魔術を弾きながら、ただひたすらに突き進む。

 背後から感じる勇者の魔力はマザーシプトンをも凌ぎ、周囲へと光を伸ばす。彼の詠唱が世界に刻まれる中、ちらりと視線を向けた彼の頭頂には……二本の角があった。


「嗚呼、輝かしき神よ」


 彼は元居た場所よりもはるか上空で神弓アルメッサを携えて浮かんでいた。


 こちらの世界に呼ばれた彼が神から与えられた、周囲の魔力を自身の魔力とする二本の角。本来、魔力を持たない、彼本来の姿だ。


「我は履行射なり」


 星海すれすれで留まっている勇者は魔力の輝きも相まって、まるで太陽のようだった。


「今ここに契約は果たされる」


 マザーシプトンの魔術も、カストラートの剣戟も、勇者には届かない。

 忌々しく毒づくマザーシプトンの言葉をかき消すほどの勇者の咆哮は、世界を震わせるほどの力を秘めて、神造の弓を引く。


「──敵を討て!アルメッサ!!」


 勇者フォウ・リーフの伝説の最後も、彼は同じように弓を引いていた。星海の魔力を己の糧とし、光を放って。

 同じ戦場に立っていた太陽神に「空が落ちた」と言わせるほどの、何もかもを焼き切る、純白の光の柱。


 太陽神の加護、そして星海からの魔力を無理矢理に己のものとして放たれた攻撃はどこか温かく、背筋の凍るものであった。大量の死者の抱擁を受けているようかの気持ち悪さが幻惑であると理解していても、それを振り払うことが出来ない。これは私の心が生み出した弱さだからだと、不思議と理解できるだけで、全く体は動かない。


 だから私は紫の繭に身を沈め、一瞬のチャンスを待つのだ。光が開けると同時にマザーシプトンを討つために。

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