表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
三章『星と並んで見た世界と、祈り』
43/53

二節『それは醜い魔女の愛』1

 私が放った矢は光の尾を引いて飛んで行く。星海の下を突き進むそれは、まるで生きているかのように思えた。剣から弓へと姿を変えた名も知らぬ神器の元は神の背骨であり、本当に生きていてもおかしくはない。


 白に紫が混じった光矢はマザーシプトンと勇者の間に突き刺さり、三人の視線を私に引き付けた。それはまるで魔力の暴風を向けられているようで、肌を刺すようなびりびり・・・・としたプレッシャーがあった。


 フリューとノーザを背に神殿前の通りを下って行く。このまま真っ直ぐ行けば彼女たちの元に辿り着くだろう。マザーも、そして勇者も私を警戒している。話をするだけだと思っていても、私を迎えるこの雰囲気はとてもそう言えるような軽いものではない。

 だからこそ、努めては明るい調子で私は話しかけた。相手は私の後ろを歩くトウカだ。

私たちの会話はまだマザーには届かない。最後に気持ちを落ち着ける相手に、彼女はちょうど良かったのだ。


「来なくてもよかったんだぞ」

「このまま貴方が死んでしまっては私の面目がありませんから」

「……そうか」

「もしこの後も生きていたなら……、旅をしてみるのもいいかもしれませんね」


「そうだな」と、答えた私の顔を見て、トウカは微笑んだ。彼女の薄群青の髪の色がどこか星海の空にも似ていて、知らず知らずのうちに空を見上げてしまう。……はたして三神もこの戦いを見ているのだろうか。


 ある程度進んだところで私は立ち止まり、視線をマザーシプトンに向けた。マザーは一度は勇者に視線を向けたものの、少ししてこちらへ向き直った。彼女の表情には何もない。普段は不気味なほどにうっすらと浮かべている笑みですら、この場では見る事が出来なかった。


 知らず知らずのうちに伸びた背筋をそのままに、私は彼女の元まで歩いていく。もはや、今まで見てきたマザーシプトンの面影は無いに等しく、いつの間にか私はルーナン・コリスの騎士から、三神の使徒へと立場を変えてしまっている。それでも、私自身は変わっていないつもりだ。

 だから私は一歩を踏み出す。だが、そう思っていたのは私だけだったらしい。


「……マザー」


 彼女の指一つで放たれた巨光の魔術が石畳を焦がして伸びてくる。まるで龍の食事を目にしているかのような豪快な魔術。前の私ならどうあがいても打ち勝てないようなそれでも、神剣を持ってる今なら防げてしまう。魔力量がどうこうというのではなく、おそらくは剣の元になった異邦の女神の権能なのだろう。


 弓の形をとっていた剣は瞬く間に形状を変え、節を固定化していた紫色の粘液を大きく広げていく。私どころか背後のトウカすらも包み込み、繭となったそれは魔術の熱量のひとつすら通すことなく遮断してしまう。


 これで分かった。彼女はもう味方ではない。そして、勇者は理解しただろう。私が持っている武具が、かつて己が対峙した狩人が持っていたものであると。

 さあ、二人はどう動く。繭から剣へと姿を戻した神剣を手に、私は声を上げた。全ては彼女の真意を聞くために。


「マザー……!私は貴女に聞きたいことがあるんです!!」

「私から言う事は何もありはしないわ。はぁ……、勇者から時間を稼ぐために付けた半龍が、私の魔術に気が付くとは思っても居なかったんだけれど、仕方ないわね」

「敵、ですか」

「そうね」


 彼女からの返事は変わらず、とても退屈そうに自らの髪を撫でた。私にまるで興味がないかのような彼女だが、一瞬でも気を抜いてしまえば攻撃が飛んでくるのは明らかだった。マザーシプトンが復活を果たしたことで七つの月は消えてしまっているが、神となった彼女がこの地に居る限り、その目を遮ることは出来ない。それどころか、以前より鮮明に物事が見えている可能性だってあった。


 そこから状況が変わった事を理解したのだろう勇者の動きは速かった。もちろんマザーシプトンも彼の動きは把握していて、魔術の線が空中へ走る。太陽の化身が魔術群の中を突き進む様子はまるで流星の荒波を突っ切るように見えた。


 私とマザーとが会話をしている間に腕を再生させた彼の動きは尋常ではない速度で、もはや人間が出せる速度の限界を超えている。マザーシプトンの弾幕に紛れたカストラートの不可視の斬撃をも避け、勇者が向かう先は……ここか。

 どういうわけか三神との縁を持っている私を彼は求めている。敵対が明らかになり、ジリ貧であると自覚しているのなら、彼が私の所まで来てもおかしくはなく、改めてマザーシプトンの力量というものに戦慄してしまう。一度は魔王討伐を果たした勇者が真っ向勝負を避け、敵であった私と協力しようと動くだなんて。


「手を貸せ!!」と勇者が叫ぶよりも早く、私とトウカも動いている。マザーの魔術の矛先は勇者だけでなく、こちらにも向いているからだ。

 マザーの小さな魔術一つに、トウカが矢を射かけて相殺する。神弓での一射と同等だなんて火力お化けもいいところであり、魔術を防ぐ術を持っている私がトウカと一緒に行動しなければならない。マザー由来の魔術を扱えない私の身体能力で着いていけるのか…………、いや、死んでも着いていく。どうやっても避けられないものを神剣で防ぎ、視界の端で散る光に目を細めながら進み続ける。


 そうしてついに、私たちは勇者フォウ・リーフとの合流を果たした。


「こう呼んだ方がいいかな、勇者ステラ」

「冗談はやめてくれ」

「冗談なんかじゃない。皆、望まずに勇者になるのさ」

「それでは勇者様方、参りましょうか?」

「トウカまで……」


 私たちの間に僅かに流れる空気は悪いものではない。本物の勇者の隣に立つからこそ感じる圧に、私もこうなれるのだろうかと、ふとそんなことを思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ