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月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
三章『星と並んで見た世界と、祈り』
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一節『龍の血脈』4

・第一回魔王討伐(表)

当代のプレイテリア王が未来視によって予知した外来の敵──魔王を盗伐するための戦いである。

同国内、世界樹の見える港町にて戦闘は行われ、討伐隊と魔王は相打ちとなって戦闘は終わった。

討伐隊のメンバーは貴族衆と剣聖とで構成され、当時最先端の技術であった映像記録法具に彼らの姿が残されている。


・第一回魔王討伐(裏)

討伐戦において生存者は一人として存在はしていないが、一つの魔術家がある魔術を用いてその命を大地に縛り付け、生還を果たした。

魔術家の男は上記魔術によって剣聖から鏡剣ラシェットを譲り受け、第二回魔王討伐戦まで消息を絶った。魔術戦において叶う者無しとまで言われた彼が用いた魔術は、後に禁呪指定されることになる。

 お互いが望む、状況を変える一手。しかして、それが自らにやってくることが難しいという事を勇者は理解していた。ルーナン・コリスは敵地であり、お目付け役として付いてきたはずの三人の内、二人は死んでしまっている。残るノゲシではシプトンの意識を割くことなんてできないだろう。気が付けば魔術によって肉体を削られ、無駄に死んでしまうことは想像に容易い。

 ツァオネなどの魔物を生み出し、けしかけようとも、対集団戦は魔術師の力量が一番出るところだ。こちらもまた分が悪い。


 考える時間が長ければ長いほど、状況は勇者にとって不利になっていく。神となったマザーシプトンに対して、勇者は太陽神の加護をその身に降ろしているに過ぎない。星海の神に守護者として召され、勇者となり、神に近づいたとしても、やはり人であることに変わりはなかった。


 そうしてまた一つ。彼を追い詰めるべくシプトンの策が動く。


 ──シャラン


 鈴の音に近しいものが彼の耳に届くと同時に、勇者は全力でその場から飛び退った。

 虫の知らせとでも言うのだろうか。破壊音が響く戦場にあって、普通では耳に届くはずの無い音が届いた事に、彼の体は反射で動いたのだ。

 だが、それではあまりにも遅すぎた。宙を舞う己を腕を視界の端に捉え、その後に彼の視界に入ったのは身長の高い、中世的な男の姿だった。ルーナン・コリスで歌を唄い、町に聖性を与えていたプレイテリアの死にぞこないの姿に罵声の言葉が喉元までせり上がるものの、彼が手に持つ一振りの剣は、勇者を逃げの一手とするのに十分な代物であったのだ。


「どこから引っ張ってくるんだそんなもの…………!」


 一見すると祭具のように見える剣には切っ先という物が無く、全ての刃を潰した肉切り包丁と呼称するのが想像しやすいだろうか。長方形の剣を持つカストラートは勇者に視認されたのを理解し、シプトンの背後へとつけた。どこまでも楽し気に笑うシプトンを見るカストラートは、困った妹を見るような表情をしていたが、明らかに異質な剣を警戒する勇者にそれを見る余裕はなかった。


「…………鏡剣ラシェット。どう?空間をへだつ神剣のお味は。もう少しで一息に首をねられたのに」

「……っ」

「死者を大地に縛る禁呪。最初の魔王討伐からあった、プレイテリアの魔術家が生み出した秘策。それが守護者を追い詰めるなんて誰が予想するのかしら」


 けたけたとシプトンは笑った。死者を大地に縛る禁呪の負担先は既に彼女自身から星海へと移り、ほぼ無制限に神剣を扱える状態となっている。魔力を吸われ続けるのなら、無限に与え続ければいい。かつてそうして神剣を扱い、魔王を倒した魔術師のように、彼女も勇者を倒すのだと息巻いた。


「如何に強くあるか。如何に神に近づけるか。全ては歴史書に書いてあるわ。…………プレイテリアの歴史に何度も現れては消える魔王と言う名。己の理違いの相手をどう倒せばいいのかなんて、自分で考える必要なんて本当にあるのかしら」

「成長の無い世界など!主や三大神の望んだものでは──くっ!」

「呑気に会話している暇はないでしょう?片腕が無いというのはバランスが悪くてこけそうになるの。千年前の私のようにね。そんな中を私の魔術だけで手いっぱいだった貴方が、神剣の攻撃も避けられるのかしら?」

「神も人も!可能性を持ってこそ!」

「叫んだって強くはならないのよ!!」

「自身で考えなければ人類が待つのは破滅だけだ!そんなもの主や三大神の望んだ世界じゃない!」

「地上に現れもしない神の名を口にしたところで勝てないわよ!外付けの力しかない人形が風情が!この私に!」


 必死に攻撃を避ける勇者だが、二対一、更には相手が鏡剣ラシェットを持っているとなると流石に攻撃に移ることが出来ない。一回目の魔王討伐では当代の剣聖が振るい、討伐隊の唯一の生き残りである魔術師がその後を引き継ぎ、二回目の魔王討伐でも遺憾なく能力を発揮した神剣は伊達ではない。

 鏡剣ラシェットの能力は空間を絶ち、使用者に空間を渡る能力を与える事だ。遠方から一方的に攻撃される上に、剣を振らずとも攻撃ができ、さらには不可視なのだからたまったものではない。魔力の流れ、空間の揺らぎ、戦闘勘とでも呼ぶべき第六感を総動員して避け続ける勇者の思考領域は瞬く間に減少していった。


「くっ」


 マザーシプトンの魔術が脚の一端をかすめて行った。もはやここまでかと心のどこかで弱音が出てくる。魔力体であるからこそ、肉体の欠損はある程度再生することが出来る。だが、そのような隙を見逃してくれるような相手ではないのは百も承知だ。

 このままでは確実に削り取られる。その予感は彼の中に確かにあった。聖剣に神剣……勇者が考えていた以上にマザーシプトンは備えている。彼と相対する二人をそのまま倒しきるのは難しいだろう。せめて一人。元凶である、あの醜い魔女だけは殺してしまわなければ。


 勇者は脱力しかけていた四肢に意識を集中し、欠損した個所を補う様に意識する。帰りの事なんて考えなくていい。獣になればいい。彼の伝説は魔王討伐のそれであると同時に、神殺しの伝説でもある。回避から一転、身をひるがえした勇者の視界に入ってきたのは、七月の神殿の方角から飛来した光の矢であった。

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