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月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
三章『星と並んで見た世界と、祈り』
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一節『龍の血脈』3

 ステラとトウカが戦線から姿を消す頃、マザーシプトンと勇者フォウ・リーフとの一合目がぶつかった。勇者の放つ神弓アルメッサに対抗するのは、復活を果たした大魔女の身から放たれる魔術だ。神が鍛えた武具とぶつかって押し負けることのないシプトンの魔術は、この世界の外の魔術であり、勇者の知るそれではない。だが、それがとてつもない威力を持っているのだという事を彼は知ってた。


 勇者の前にこの異邦の魔女が立つのは二度目である。今は無きプレイテリアの地にて相対した二人と、現在の二人。何の因果か、対立の構図は似たものになっている。待ち構える魔王と、立ち向かう勇者。

 前回の戦いでは勇者の辛勝だったが、現状で、勇者の旗色は悪い。


 裸体に空間を纏ったシプトンが一つほほ笑む度に炎が舞い、一歩踏み出すごとに風が唸る。まさに歩く災害であり、魔王の名を欲しいままにする彼女に対して、勇者は吠える。


「復活してどうするつもりだ。プレイテリアはもうないんだぞ」

「ないのならもう一度作るのよ。ここは既に神代。王の選定も始まるでしょうし、ルーナン・コリスは歴史に名を残すことになる」

「残るにしてもそれは、魔王討伐の地としてだ」


 勇者の放つ光矢は地を抉るばかりで、シプトンの体を捉えることは出来ない。まるで未来を読んでいるかのように動く彼女はツァオネの群れを魔術で薙いで、一気に勇者の顔面に自らの顔を近づけた。


「いつまで無理がきくのかしら?」


「くっ」勇者の振るった神弓に合わせてシプトンが身を引いた。

 瞬時に剣に持ち帰れば確実に当たってであろう距離であるにも関わらず、未だに神弓を番える彼を見て、魔女は静かに笑う。


「無限の魔力があればいかな神具であろうと扱える。資格が無い者が持つと魔力を吸われて干からびるのなら、ずっと魔力を与え続ければいい。星海の神が遣わした貴方の魔力は実質無限でしょうね。だけど空は既に神なった私の領域。サポートもなく魔力を消耗するだけの気分はどう?星海の神の錆び付いた御所なんてもう目じゃないのよ」


 両手を天高く掲げ、魔力を練る様は、星海の輝きも相まって宇宙を内包しているように見えた。赤、青、黄と様々な光たちがめくるめく姿や煌めきを変え、まるで宴のように騒ぐ姿は美しさもあり、飲み込まれるような恐れもあった。

 空気が震え、空が震え、世界が震える。ありとあらゆるものがルーナン・コリスに降り立った新たな神を歓迎するために声を上げる。


 攻防の中で肩で息をする勇者の手から神弓が光の玉になって弾け消えた。明らかに魔力が制限されている様子の勇者は神弓を握っていた己の掌を見やり、「恐ろしいな」と一つ息を吐いた。

 頬を流れる汗を拭い、過去に己の知るそれと比べてみても、とうてい楽に勝てる相手ではない。だが、彼とて千年間を無駄に生きていたわけではない。勇者もまた、シプトンと同じように両手を広げた。彼が冠するのは太陽の神。かつて名を与えれた存在を思い出してみてもあまり良い思い出はないものの、あの時、太陽神が勇者に名を与えていなければこのような展開にはならなかっただろう。


「……天を御する神は月神だけじゃない。太陽神も空に昇り、民を見てきた存在だ。ぽっと出の神に負けてるようじゃ、あいつに笑われるんでな」


 太陽神が勇者に授けた名前は──ランプル。この世を、そして授け親である太陽神の歩むべき道の先を照らし出すようにと、そう願って呼ばれた名だ。

 それが今、神聖無きこの世界においてマザーシプトンが唯一作り得た特異点にて、力を降ろすための目印として彼の体を燃やし始めた。黄金に輝く彼の姿を直視すれば瞬く間に瞳の水分は飛び、瞳を閉じたとしても、その奥で彼の像が形を成すだろう。その手に聖剣エクセレジオーネを携えた太陽の勇者は忌々し気に星海を睨みつけ、一つ鼻で笑ってから剣を構えた。


「さあ、これで私は魔力を気にせずに戦える。名前が、言葉が力を持つという事を気が付くまでに長い時がかかってしまったが…………、色々考えるのも今日で最後だ」

「そういうことは勝利を確信して、私の首に手をかける瞬間に言ってもらいたいわね。ああ、でも。貴方が燃え尽きて、風に吹かれる薄汚い灰になる前に聞けたのは良かったのかもしれない。私が勝てば、貴方、凄く惨めよ?」

「天が呼んだ守護者が死ぬときはこの世界の終わりだ。恥をかいたって、どうせ誰も覚えてはいないだろうさ。……お前が作ろうとしているのはまがい物・・・・なんだ。一人の王と出会い、人生を狂わされた者同士仲良くしようじゃないか」

「残念だけど誘いには乗れないわ。心に決めた()が居るんですもの」


「あぁそうかい!!」と、勇者が吠え、神の力を携えた両者は殺し合う。

 一方の動きは雷光の如く、とても目で追えるものではなかった。彼が近寄るだけで皮膚の毛は枯れ落ち、間もなく皮膚がただれてくる。

 一方の動きは夜空の星々の如く、いくつもの魔方陣が煌めいてた。彼女の肉体が纏う歪んだ空間は生き物のように駆け、数多の魔術が箒星のように流れて行った。


 お互いの一手一手が致死の一撃である。ほんの僅かな差が両者の均衡を破壊し、この戦いに終止符を打つだろう事は、この場の誰もが理解していた。

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