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月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
二章『並び立つ七つの輝き』
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二節『波跡に輝く金の星』4

「彼が特別……」


 トウカの言葉を繰り返すようにフリューは口ずさむ。珍し職業に就いていたり、髪の色が見たことのない色だとか、そういう意味の特別ではないのはフリューにも理解できたものの、それを心内で整えて言葉にしようというのはどういうわけか難しい。半龍の双子がルーナン・コリスに住んでしばらく。一般的な感性を形成しつつあった彼女たちであったが、それは案外、想像しにくいものなのかもしれない。

 本の登場人物が実際に歩いていて、伝説を再現する準備が進んでいる。これらの異常さが元より人外である、特別である彼女たちには分からないのかもしれないなと、トウカはひっそりと眉を下げた。


「生者の門と言えば魔王が現れる場所、でよかったでしょうか」

「ええ。ですが、召喚者が居れば話は別です」

「と言うのは……」

「神がフォウ・リーフを門より呼んで魔王討伐を成しえたように、侵略者ではなく、来訪者として。彼は呼ばれたのです」

「勇者と勇者を戦わせるなんて…………、それでも本物には勝てないでしょうに」

「勇者?まさか。フォウ・リーフは魔王ですよ。彼女にとってはね」


 フリューはトウカの言う彼女が誰か分かったのか、口を閉じて一歩、歩を進めた。それに釣られるように他の二人が歩き始めれば場に残るのは静寂であり、聖性が運ぶ空の青である。


 かつてマザーシプトンが魔王であったのは事実であり、それが原因でプレイテリアが消えたのも事実だ。

 だが、門より出でた者が国を滅ぼし、最愛の人との間を分かったのなら、それを魔王の所業と呼ばずに何と呼ぶのだろう。

 これが正義か?神に呼ばれたというだけの人間が成す行為か?だから彼女は、召喚者である星海の神の力が弱まっているのをいいことに勇者フォウ・リーフを再定義する。召喚者のいない存在が千年も自由に歩いているのだ。神にでもなれば、そのくらい出来るだろう。模倣するのは過去の勇者であり、千年も生きた、戦わない勇者ではないのだ。


 それでもと、フリューは思う。勇者は勇者だろうと。

 聖性は一定ではないが、千年も生きる人間が只者であるはずがない。それが勇者と呼ばれているのなら、余計に尊敬と畏怖を集めるのは当然のことで、そういった存在が祈りを力に変えるというのは有名な話ではないか。千年の積み重ねを上回るだけの力を本当にステラが得られるのなら、これほど心強いことはない。

 ノーザが襲われたあの夜、共鳴によって感じたステラの魔力の高まり。あれ以上が常に近くにある安心感というものを一度は感じてみたいと思う。


 龍が群れを識別するためにも用いられる共鳴の波。同じ波紋を発する者は家族であり、友である。半龍であろうと根っこの部分が変わることはなく、強い群れを作ることに忌避感などあるはずもない。保護者の死と群れの死はイコールで繋がっているのだから、フリューとノーザはどこまでも信じ続けなければならなかった。


 それらを改めて思考に浮かべるのを無意識や生存本能と呼ぶのなら、きっとそれは正しくて、どこまでも人間臭いではないか。龍の心臓を持っていながら人間であるために半龍と呼ばれ、良いように利用されてきた彼女たちが平穏な生活を望むのなら……願いは共鳴の波となってステラに力を与えるだろう。


 トウカは双子の家に寄る気はないのか、門を少し過ぎたところで立ち止まって、再び振り返る。

 彼女の視線はフリューではなくノーザを見据えていて、それを受けたノーザは僅かに瞳を大きく広げて言葉を待った。


「私では彼を救う事は出来ないでしょうから、もしもの時はよろしくお願いしますね」

「それはどういう……」

「金の意味するものは、太陽と女。フォウ・リーフの伝説に合わせるのであれば、これは太陽神の娘。次代の太陽神を示すものでしょう。伝説では勇者と太陽神は協力関係でしたが、太陽神は勇者の死を看ることが出来ませんでした」


 トウカはそれ以上言葉を残すことはなかったが、双子にはそれ以上が確かに伝わっていた。それは二人が勇者の伝説、その最後を知っているからだ。


 魔王と対峙した勇者は攻防の途中で体内の魔力が少なくなり、星海へと昇っていくことになる。未だ魔王は健在で、逃がすわけにはどうしてもいかなかった。だから勇者は星海で、空にて輝く水に含まれた魔力を無理矢理使う事で最後の一撃を放ったのだ。元来魔力を持たない勇者に神が与えた、周囲から魔力を集めるための頭頂付近の角が、それを成しえた。


 天から地へと向けて放たれた魔力の柱を最後に、勇者フォウ・リーフの姿が見えることはなかった。

 残されたのは彼が使っていた神弓アルメッサと、彼が創り出した聖剣が一振り。


 勇者の居ない勇者の伝説の、その最後。その後に続くのは太陽神や剣王の語り、彼女たちのその後、勇者が精霊との間に残した二人の子供の行方である。それらを記した原典はルーナン・コリスにしか残っておらず、フォウ・リーフが知らない物語があり、逆にフォウ・リーフしか知らない物語もある。


 光の柱を立ててなお殺せなかった魔王に対して、死んだはずの勇者が再び立ち向かう物語など誰も知りはしないだろう。現世に彼が居るように、魔王討伐を生きている間に達成できなかった彼は、星海の神によって地上に再召喚されたのだ。

 星海にある死体と魂を魔力で再現し、地上での揉め事を鎮める。それが星海に昇った優れた戦士たちの役目であり、今の勇者に与えられた目的でもあった。

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