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月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
二章『並び立つ七つの輝き』
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一節『伝説、あるいは伝承の続き』4

 勇者の武器とは何か。勇者フォウ・リーフの神話に残る、彼が扱った有名な武器は二つ。戦闘で彼が一度扱った神弓と、彼が自ら作り出した聖剣である。そしてこの場で勇者が見せた武器とは、光り輝く一振りの剣であった。


「戦っても負けるのはお前だぞ、ノゲシ」


 勇者の問いかけに、ノゲシはゆっくりと武器を包んでいた布を解いた。ノゲシの持つ戦斧は一般的に使われているそれと比べると刃は薄く、重量があるようには見えなかった。瑠璃の門の一室で振るうにはちょうどいい大きさなのかもしれないが、大柄なノゲシが持てば、どうしても見劣りしてしまう。しかして、ハルバードの先をそのまま持ち出したかのような武器を構える彼の表情は大変に真面目だ。


「……クソが、こんな形で聖剣を見るとは思ってもなかったよ」

「別に、聖剣とてただの剣でしかない。私のものは特にそうだ」

「二人が死んだのは……本当に仕方のない事だったのか」

「よその国で半龍狩りなどすればそうなるだろうよ」

「そうか」


 話しが終わった気配を感じとったのだろう。勇者は聖剣を眼前に構え、刀身に魔力を流し始めた。

 遠く、昔の日。この世界に彼が現れた時、彼の頭部には魔力を扱うための角があった。召喚主である神が用意したそれを、もう彼の頭部に見ることは出来ない。人から外れ、魔力を扱う術を身につけたからこその変化であるが、過去を共に乗り切った聖剣に変わりはない。

 不幸を、不運を……恐怖を消し去り、戦うために作り出された聖剣。刀身からあふれ出る小さな光球の群れはまるで蛍のように飛び交い、少ししたのちに宙へと消えていく。それが剣に満ちた魔力の光であることは明白だった。


 切っ先を向けられたノゲシはふっと息を吐いて構えをとくと、何事もなかったかのように武器に布をかけなおして口を開いた。「勝てるわけねぇだろうが」と。


「……聖剣に偽物も本物もありゃしねぇよ」

「いいや、聖剣は一振りの神剣から生まれるものだ。私が作ったものなんてすぐに折れる」

「そりゃ怪物同士の戦闘での話だろ?」


 そうやって勇者に視線を向けたノゲシの表情にまだ硬いものがあったのは気のせいではないだろう。彼は自分では勇者に勝てないのを分かっていて、これからこの町で起こる戦いというのが、その人外の怪物たちが引き起こすものであるのを薄っすらと理解していたのだ。勇者の血を引いていようと、彼は勇者ではない。

 神弓を扱えなければ、聖剣も握ることが出来ない。武器たちは彼が担い手に相応しいと判断しなかったのだ。そして、魔術が扱えるような生まれではなかった。培われたのは戦闘センスと、広い視野だ。


「ここから始まるのは怪物同士の戦闘だ。……改めて聞こう。どうする、この町に残るか、グアルディアンに帰るか」

「正直、俺が居たって変わんねぇだろうよ。大将はなんでんなことを聞くんだ?」

「死にたくないんだろ?妻も子も居る。不思議なことなんてありはしないさ」

「死にたくなくても戦わなきゃいけねぇ時だってある」

「それは今じゃない。戦うのは私の仕事だ。魔王を討つために呼ばれた私の、千年越しの仕事だ」

「…………勝てるのか」


 それは勇者にとって言われたくはない言葉だった。神が遣わした世界の監視者。それが外敵を前にして勝ちを疑問視されてしまう。……そんなこと許せるはずもない。


「勝つさ」


 だから、言葉を濁すことはしてはいけない。手を止める事はあってはならない。


「戦いと神はいつだって理不尽で身勝手だ。それでも目の前の安寧が欲しいのなら、現状が許せないのなら、やるしかない」


 ──神に人が勝てないとしても。


 内心を隠し、彼は自身に自信があるかのようにノゲシへと告げた。今必要なのは少しの安らぎだった。いざ始まれば、彼もきっと逃げ出すだろう。自嘲気味に勇者は笑い、昔を思い出して聖剣を虚空へとしまい込んだ。


 遠い昔、勇者が剣王と初めて顔を合わせたのは、剣王が太陽神に戦いを挑み、四肢を砕かれて敗れてすぐの事だった。聖剣の担い手であり、王の赤い瞳を持っていた彼女ですら、素直に神に戦いを挑めば簡単に負けてしまう。

 それでも。一度は異界の神を殺して魔王討伐を成した彼は、再び神殺しを行う。


 窓から見える七つの月はもうじき満ちるだろう。そうなれば祭りは始まり、市街は戦禍に呑まれるだろう。彼は何かに耐えるように強く目を瞑り、大きな息を吐いて椅子に腰かけた。


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