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月下の町で唄う  作者: 畔木鴎
一章『人外が見た夢と共に』
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三節『風波の瞳たち』6

「勇血たる私に光を!星を!しるべたる星槍せいそうを!!」


 ──そしてナズナの魔術が放たれる。


 詠唱の口頭から判断するに、三大神への一柱へと祈りを声に乗せて紡がれようとしていた神代魔術。それ自体はもちろん不発であり、放たれたのは純粋な魔力の波であった。

 術者を巻き込みながら全方位へと強く鋭く流れていく暴力の波紋は共鳴の波紋と似たものに感じられたものの、そこに秘められた感情は全くの別物だ。屋根に立つ勇者を狙って放たれたためだろうか、それはかなりの範囲を巻き込みながら迫っていく。


 迫りくる極彩色の波に対して、今からでは防御の魔術は間に合わないことはすぐに分かった。それと同時に、もろに食らえばただでは済まないだろうことも。

 しかして私の行動は速く、手にしていた剣を素早く投げ捨て、ノーザの細い体を抱き寄せる。

 荒く抱きしめたノーザの涙が跳ね、私の頬が濡れたのとほぼ同時だったろうか。静寂を連れた魔力の洪水が体を走り抜けていく。熱された鋭い針が背中を焼くような激痛が私の心臓の音に合わせて主張を始め、口からは息よりも先に血が飛び出ては胸の中のノーザを穢すのだ。


「っう……゛うヴぉえ…………!!」

「…………ステラ、うそ…………えっ?」


 体を支える力すら既に無い。無力のままに、ノーザを下に敷くように……、石畳と唇を重ねる。

 ノーザは生きているのか。どんな顔をしているのか。視界は碧と銀とで塗り替わり、それすらも確認出来ない。瞳を僅かにでも開けば映る石畳が夜空の様に見えて、ただ綺麗だなと、薄れゆく意識の中でぼんやりとそんなことを考えていた。


「な、波が……まだ、まだ今なら…………っ。姉さん、姉さん聞こえるのでしょう……?お願い。力を貸して」

「半龍の力、か……。人外の力はあまり見たくないもんだな」

「……くっ。大丈夫、私だって……私だって龍だもの…………」


 どんどん私と距離を取っていく意識を繋ぎとめるように意識するのは背中の痛みであり、私の下敷きとなってしまっている彼女の温もりだ。

 魔力の奔流自体は短いものだった。そう心配するようなことではないのだと、胸の中で暴れる臓器たちでノーザを押さえつけるように抱きしめれば、いつの間にか彼女の掌が私の胸に添えられていた。長い思考を得てあつい抱擁を拒んでいるのかと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。


 なりそこないの神代魔術によって弱まっていた私の力をノーザが引き上げようとしているのに気が付いたのだ。他者を鼓舞し、他者から力を受け取る。龍の魔術とは共鳴、変質、再生である。それらは大地に根付く大いなる自然の力だ。それが私を生かさんとかしらを上げて肉体を突き動かす。

 フリューと私とには肉体の繋がりがあり、だからこそ私が龍になった時に繋がりとして残っていた。だが、ノーザとは別だ。そのはずなのだが、少しずつ私とノーザとの波が重なっていくようだった。自らの波を調律して私に合わせてくれているのか。気が付けば私の胸の中……共鳴の輪に彼女の波も加わっていた。


 夕暮れ間近のルーナン・コリスの風が冷たく背中を過ぎ去っていくのを感じて、衣服が裂けているを知った。防具もどこかへ飛んで行ったか、消え去ったかしたのだろう。湿り気を帯びた風が町を抜けるたびに哀愁を感じてしまうものの、それで体が冷えることは無く、それどころか熱を持っているように思えるのはきっと、彼女のおかげだろう。左目の縁に血の結晶を生やし、フードを脱いだことで柔らかな髪の毛から深紅の角を覗かせる半龍。今の私には彼女の存在がより深く肉眼で見えている気がする。まるで自身の一部かのように彼女を感じられる。


 肉体に力が満ちたなら、今度は私が返せばいい。

 肺深くまで満たした息を吐いて共鳴の波紋を強く広げていく。


「ありがとうノーザ」


 この私の言葉はそれ以上に彼女に届いたことだろう。今の私と彼女は家族よりも深い、言語化しにくい関係になっていて、感情がダイレクトに届いただろうから。


 勇者が立ち去り、ナズナが作ったクレーターの中心近くで立つ私と、こちらを見上げるノーザを七つの月が見降ろしていた。

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