奴らは狩る側?いや、狩られる側
「なんだよ〜。ゾンビいないな。」
いざ気合いを入れて外に出たもののパッシブスキルの「常在戦場」に反応がないためどうやらこの階にゾンビはいないらしい。
ちなみに俺が住んでいるのは10階建てのマンションの6階。まあとりあえずは下を目指して階段で行こうか。
その後も階段を使い下の階へ降っていく。他の階も探ってみたが、血の跡は何度か見かけてもゾンビや死体自体は見ない。
ただ3階の奥の方の部屋で人の気配らしいのは感じたから、もしかしたら避難している人がいるかもしれないな。
マンションだから結構ゾンビと遊べるかと思ったらまさかいないとは。ガッカリ。
仕方ない、気を取り直して近くのスーパー目指して行こうか。
(やはり銀太は普通の人とは感覚が違うらしい。普通は例えスキルがあろうと気をつけながらゆっくり進むだろう。
それに比べあいつはどうだろうか。それなりにスピードを出しながら駆け足で各階へ侵入していく。その表情はまるで誕生日におもちゃ屋へ駆け込んでいく子供のようだ。
時には響く声で「カモン!ゾンビ!俺は君に決めた!」と訳の分からない言葉を吐きながら突き進んでいく。完全に変態だ。まぁ、だがゾンビは出てこない。こんな奴を襲わなければいけないゾンビはむしろ被害者だろう。)
「うわ〜、結構荒れてるな。」
マンションのベランダから見た時は気にも留めてなかったが、道に出ると電柱にぶつかった丸焦げの車があったり、見るも無残な姿となった人の遺体あったりとなかなかの荒れ具合だ。ちゃんと手は合わせておこう。南無阿弥陀仏。
そんな風景を見つつも道のりを進んでいくと遂にヤツらの反応を捉えた。
どうやら20m 先のT字路の右折した先にいるようだ。
とりあえずT字路の角まで行きそこ塀から軽く覗いてみる。
そこには少し間隔をあけ5体のゾンビがいる。うち3体は手前10m程のところをウロウロしているが、奥の2体は地面に倒れている人の遺体らしきものを貪っている。
さて、レインフォースを使った最初の戦闘だ。色々と感覚を確かめながら戦おう。とは言ってもガンガン突っ込んでいくが。
(銀太、君のコマンドには「ガンガンいこうぜ」しかないのか。私は心配だよ。普通はこういう場面では「いのちをだいじに」じゃないのかい?それではいずれ追い込まれてしまうよ。きっと彼はブレーキになってくれる人でもいないと止まらないのだろうね。
そんな人は都合よく現れる訳な……おやおや、これが噂をすればってやつかな。
はぁ、相変わらず銀太はゾンビしか見てなくてまだ気づいていないようだが。)
「先手必勝!!」
俺は勢い良く曲がり角から飛び出しながら一気に最初の1体目へと肉薄する。
やはり、「身体強化レベル:5」によって脚力も物凄く上がっている。今までとスピードが段違いだ。
ゾンビに当たる寸前に『宵銀』を引き抜き居合斬りの形で頭部を斬り飛ばす。
現実世界でも『宵銀』の切れ味は抜群。
鮮血を絡いながらも光を反射して輝くその銀の刀身は実際に目にすると惚れるほどに美しい。いや、惚れた。
余韻に浸っているとこちらに気づいた2体目と3体目がすぐさま襲って来るが、俺は『超光速』を発動。
ゆっくりとなった世界で歩きながら2体目と3体目の頭を1体目と同じく斬り飛ばす。そして血を払った『宵銀』をしまいながら『超光速』を止め、今度は愛銃のDesert Eagleをホルダーから取り出す。
狙いは先ほど食事をしていた2体。さすがに音に気づいたようでこっちに向かって来ている。
約15mの距離があるがこの程度の距離じゃ外さない。
照準は奴等の眉間。
2回トリガーを引く。
バンッ!バンッ!
気持ちのいい低めの発砲音が響き渡り、銃身から伝わる振動もまた心地が良い。
そして放たれた2発の銃弾は狙い通り、奴らの眉間から頭に吸い込まれ頭が花開く。
「汚ぇ花火だ。」
よし。最後のセリフまで完璧。戦闘は20秒程度。
身体も武器もスキルも全て問題ない。
仮想世界とはいえやはり2年間の戦闘技術はレインフォースさえあれば現実でもしっかり通用することが分かった。
今回の戦闘である程度は満足したがまだまだ足りない。
そうだ、素材の剥ぎ取りはどうだろうか。一応ノーマルゾンビからも「屍結晶」と「血屍液」というものが取れる。これらは抗ウイルス剤などの薬剤や道具の一部にも使える。
ただ、「屍結晶」はいいとしても「血屍液」を入れておくボトルや瓶みたいなのは持ち合わせていないので諦めるしかない。
近づいて見てみると胸の奥に「屍結晶」が埋まっている。そうなるとUoAのゾンビと同じようだ。
果たしてこれはゲームが現実になったのかそれとも異世界にでも来てしまったか、はたまた神の悪戯かはまだ分からない。ただ、UoAが関係しているのは間違いないことが分かった。
まぁ、こんな所で考えても仕方がない。
とりあえずはこのままの調子でドンドン行こうか。
「ちょっと待って!!」
(果たして銀太に声をかけたのは一体誰なのだろうか?
味方か?それとも敵か。銀太の旅はまだまだ続く。
……やっとまともなナレーションを言えたよ。まあ、言えなかったのは全部銀太のせいだがな。)