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鬼嶋の鬼  作者: 悠志
6/20

六 遭遇

「‥‥‥あぁ、めっちゃ窮屈」


 ついに迎えた、小鳥遊さんとその友達と一緒に遊びに行く日が。断っておくが、俺はあくまでボディーガードとして同行しているに過ぎない。それ以上でもそれ以下でもない。

 なのに‥‥‥‥‥‥


「ねぇ向日葵~何でこんな人を連れて来るの?」

「だってコイツ、ひまを傷つけたクズなのよ」


 一緒に来ている女子2人が、まるで凶悪犯を見る様な目で俺を見ている。まったく、何度言ってもちっとも聞きやしない。ま、間違っちゃいないけど。


「もぉ、皆して姫崎先輩の事を邪険にして。先輩はそんな人じゃないって、何度も説明したじゃない」

「人の腕にしがみ付きながら説明する事ではないと思うがな」


 さっきから人の右腕にしがみ付いている小鳥遊さんを振り解き、俺は2人に何もしない事を淡々と説明した。信じてくれたかどうかは別だけど。


「それじゃ、皆揃ったので思い切り遊んじゃいましょう♪」

「「おぉー!」」

「‥‥‥‥‥‥」


 小鳥遊さんはともかく、他2人も俺がいる事も忘れて大はしゃぎですな。ま、受験生にも休息は必要だよな。

 そんな訳で、最初に俺達はボーリングをする事になった。ま、3人がメインで楽しむんだし、付き添いの俺はゲーセンにでも行って時間を潰すとしますか。


「姫崎先輩も一緒にボーリングやりましょうよ♪先輩、運動神経とても良かったですよね」


 逃げられなかった。

 何処までも強引な小鳥遊さんの手により、二十歳の俺は3人のJKと一緒にボーリングをする羽目になった。えぇえぇ分かっていましたとも、周りの突き刺さる視線に。明らかに俺は浮いているもんな。


「何でこうなるんだよ!」


 殆どヤケクソ気味に投球すると、連続ストライクを叩きだした。


「うそ、ここまでオールストライク‥‥‥」

「初めて見た‥‥‥」

「さっすが姫崎先輩!」


 2人が唖然としている中、小鳥遊だけが興奮していた。そういえば、2年前も連続ストライクを出して驚かされたんだったな。

 懐かしいな。たった1日だけだったが、俺と小鳥遊さんは恋人同士だったんだよな。でも、告白されたその日に俺は車に轢かれそうになった彼女を助けたが、代わりに俺が車に轢かれて重傷を負った。

 でも、柴山の嘘によって俺は小鳥遊さんを突き飛ばしたという事にされてしまい、それ以来俺と彼女は一度も会う事も話す事も無くなく、関係が終わってしまった。

 柴山の嘘のせいでもあるが、俺のせいで小鳥遊さんを傷つけてしまったのは事実。だから俺は、小鳥遊さんとよりを戻してはいけない。

 それは決して許される事ではないし、俺にそんな資格はない。

 例え、小鳥遊さんが今でも俺を求めていても。

 ボーリング場を後にした俺達は、今度はカラオケに向かった。


「それにしても、一度も外さないなんて」

「才能の無駄遣いな気がしてならないのだけど」

「もぉ、2人ともひど過ぎ」


 JK3人の会話をすぐ後ろから聞きながら。


「フリータイムでお願いします。人数は、4人で」

「おい。それは流石にマズイだろ」


 俺はあくまでお前等の付き添いなんだぞ、一緒にいたって特に何かするわけではないんだが、周りから見たら俺は明らかに浮いている。不審者にされたらどうする気だ。


「いいじゃないですか。私はもっと姫崎先輩と一緒にいたいです」

「そうですね。なんかもうどうでも良くなりました」

「親には夕食は友達と外で食べるって伝えておきましたので、先輩奢ってください」

「お前等な‥‥‥」


 何時の間にか他2人も無遠慮になってきて、小鳥遊と同じように接してきている。

 奢るのは別にかまわないが、今時の女子高生は友達同士で外食をするのかよ!時代が変わってきているのか!?


「先輩、流石にそれは年寄り臭いですって」


 ヤバイ。口に出てしまったみたいだ。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その後、俺はカラオケに4時間も突き合わされ、気付けばもう夜中の10時を回っていた。俺は何度も帰るように言ったが、JK3人の勢いに押されてしまい結果こんな時間まで遊び回る事になった。孝仁さんに見つかったら、絶対に補導されるだろうな。そんでもって俺も、何か言われるんだろうな。

 そんな心配をしながら俺は、3人を自宅まで送ろうと


「ねぇねぇ、この後ゲーセンいかない?」

「いいねぇ!一緒にフォトプリ撮ろうよ!」

「賛成!」


 帰ろうとしてくれなかった。親御さん、ごめんなさい。流される方が悪いのかもしれないが、わたくしには制御できません。

 強引で押しの強い小鳥遊さんのペースに便乗するなんて、流石は友達を名乗るだけあるな。小鳥遊さんの彼氏になる男子も、きっと苦労するだろうな。他人事。

 そんな時、突然後ろからペチペチという足音が聞こえてきた。


「ちょっと姫崎先輩、悪ふざけはやめてください」

「いや、今のは俺じゃないぞ」


 ゆっくりと後ろを振り返るけど、そこには誰もいなかった。


「じゃあ、姫崎先輩は私の横を歩きましょうか」

「分かったから、腕にしがみ付くのはやめなさい」

「い~や」


 小鳥遊さんに腕をホールドされて、ピタリと真横に張り付いて歩いて来た。目の前には、小鳥遊さんの友達2人が歩いた。


「2人のお尻が魅力的だからって目移りしてはダメですよ」

「ガキ相手に欲情なんかしねぇっての」

「そんな事言って、私の胸にドキドキしっぱなしじゃないですか。自慢じゃないですけど、Ⅾカップですよ」

「聞いていないし、小鳥遊さんにドキドキしている訳ではない」


 何ていつものテンションで話しかけているが、小鳥遊さんの顔は引きつっていた。無理もない。またあのペチペチという足音が、俺達の後を追って近づいてきているのだから。俺の心臓の鼓動が早いのは、後ろを歩いている足音が不気味で仕方ないからだ。


「ちょっと姫崎先輩、何か楽しいことを話しませんか?」

「こんな状況で楽しい事なんて話せるか」


 前を歩いている2人を不安にさせたくない、というのもあるだろうが、第一は自分自身の恐怖を緩和したいからなんだろうな。

 それにしても弱ったな。この辺りにはコンビニは無いし、明りの着いている店は無いし、目的地のゲーセンまでまだ少し距離がある。走れば何とかなるだろうと思ったが、3人の履いている靴を見てそれは無理だと判断した。


「もぉ、なに!」

「もう嫌なんだけど!」


 前を歩いている2人は、完全に恐怖のあまりパニックを起こしかけている。小鳥遊さんは、俺にしがみ付いているお陰なのか何とかパニックを起こさないでいる。

 歩いているうちに、ペチペチという足音がだんだん近くなっている様な気がした。


「クソ!何なんだ!」


 俺がバッと後ろを振り返っても、やっぱり誰もいなかった。当然、隠れられるような所なんて無かった。


「誰もいない‥‥‥」

「でも、確かに誰かいた気配があった‥‥‥」

「気味が悪いわ!」


 3人も俺と同じタイミングで後ろを振り返って、誰もいない事を確認した。


「ッタク!何が何だか‥‥‥」


 俺達が同時に前を向くと、目の前に全身が闇色に染まった輪郭がぼやけた化け物が立っていた。目が真っ赤に光っていて、額に角が生えていて、犬歯が長く伸びていたその姿は、まるで鬼そのものであった。その鬼を見た俺達は、声が出なかった。


【うああぁ!】


「「あっ!?」」


突然目の前に現れた鬼は、女子高生2人の首を掴んで締め上げ始めた。


「梨花!沙織!」

「小鳥遊さんはここにいろ!」


 少し強引に小鳥遊さんを振り解き、俺は2人の首を締め上げている鬼の腹に何度も拳を叩きつけた。


「かってぇ!岩を殴ってるみたいだ!」


 ぼやけた輪郭をしている割には、とんでもなく固い身体をしていた。


「クソ!だったら!」


 半ばヤケクソ気味に俺は、鬼の右目に拳を叩きつけた。


【わああああああああ!】


 右目を殴られた鬼は、2人を離して右目を抑えて悶えだした。


「2人とも大丈夫か?」

「はい‥‥‥」

「ありがとう‥‥‥ございます」

「3人とも、下がってろ!」


 3人を庇いながら少しずつ後退っていくが、鬼はすぐに態勢を立て直して少しずつ迫ってきた。


「な、何なんですか?」

「俺も分からない!」

「まさかあれが、惨殺事件の犯人何ですか?」

「化け物が!?」


 2人の言う通り、この鬼が惨殺事件の犯人で間違いないだろう。だけど、こんな化け物が相手では警察ではどうにもならないだろう。

 だけど、相手が鬼だろうと俺がやらなければならない事は変わらない。この2人だけは何としても守らないといけない。

 鬼はずっと口角を上げたまま、俺達にゆっくりと迫ってきた。


「このままじゃ、埒が明かないな」


 俺は少しずつ彼女達から離れ、鬼が俺に触れる前に足払いをして横に転ばせた。起き上がる前に片腕を取り、関節技を掛けて身動きを取れなくさせた。


「姫崎先輩!」

「今のうちに逃げろ!俺がコイツを食い止める!その隙に!」


 この鬼の異常な筋力の前に関節技が利くとも思えないし、長く足止めが出来るとも思えない。

 だが、あの子達が逃げる時間くらいは稼ぐことは出来る!


「そんな事できません!」

「こんなの、認められません!」

「もう嫌!私なんかの為に、姫崎先輩が犠牲になるのは!」


 けれど3人は、泣き喚きながらもその場から離れようとはしなかった。


「いいから逃げろ!長く持たねぇ!」


 その直後、鬼は力尽くで俺の関節技を振り解き、俺の首を両手で締め上げてきた。


「クッ‥‥‥!」

「「「先輩!」」」


 首を締め上げられた俺を助ける為に、小鳥遊さん達は鬼の両腕にしがみ付き、ヒールの(かかと)で何度も攻撃した。


「私の姫崎先輩を離せ!」

「離しなさいこの化け物!」

「このぉ!」


 3人の攻撃を受けても鬼はピクリとも反応せず、俺の首を縛る手の力が更に強くなっていった。

 視界が真っ白になり、意識が遠のきかけた。


 ドンッ!


【ああああああああああああああああ!】


 遠くから銃声が鳴り響き、鬼が悲鳴を上げながら俺を離して両手でこめかみ辺りを抑えた。


「姫崎先輩!」

「「先輩!」」


 鬼から解放されて、尻餅をついて咳込む俺を3人が抱えて立ち上がらせてくれた。


「ソイツから離れろ!」


 聞き覚えのある声を聴き、俺は3人に支えられながら声のする方へと走って行った。その間も銃声は鳴り響き、徐々に戻りつつある視界で後ろを見ると、銃で撃たれたにもかかわらず全くの無傷で逃げ出す鬼の姿が見えた。


「お前達、大丈夫か?」

「しっかりしてください」

「孝にぃ、ありがとう」

「え?」


 孝にぃという言葉を聞いて、俺はすぐに前を向いてその姿を確認した。そこには見慣れた明るい茶髪をした好青年風の男性が、拳銃を構えて鬼を警戒している姿が見えた。身長も見上げる程高かった為、間違いなく孝仁さんだという事が分かった。


「姫崎君も、意識がハッキリしているみたいで何よりだ」

「はは、今回は運がいい‥‥‥」


 2年前なんて誰も車から助けてくれなかったけど、今回は巡回中の孝仁さんが偶然駆けつけてくれたお陰で助かった。

 その後俺達は、孝仁さんと彼の部下の警察官の人に保護されて、パトカーの中で事情を話した。俺が乗っているパトカーには、小鳥遊兄妹と若い女性の刑事さんが乗っていた。


「まったく、こんな時間まで何してるかと思えば」

「すみません。俺がもっと毅然とした態度で止めていれば」

「いや、どうせうちの馬鹿妹が強引に押し切ったんだろう」


 そう言って孝仁さんは、助手席から俺の隣に座っている妹を一睨みした。それに小鳥遊さんは、一瞬ビクッとなった後に視線を明後日の方向へと向けた。真っ先に疑われるという事は、常習的に夜中まで遊び回っているのだな。それも、友達も巻き込んで。


「まったく、暗くなる前に家に帰れって何度言ったら分かるんだ」

「だってぇ~」

「だってぇ~じゃない!いつもそれで怒られていて、しかも何度も歩道を受けているのにちっとも反省してないな!」

「うぅ‥‥‥」


 うわぁ、妹さん若干涙目になってお兄さんの説教を聞いている。その10分後にはとうとう泣き出しだし。子供みたいに声を上げて。


「小鳥遊刑事、もうそのくらいで」


 堪らず運転席に座っていた女性刑事が、なおも説教を続ける孝仁さんを宥め始めた。

 確かに、夜中まで遊び回ろうとしていた小鳥遊さんも悪いが、それを止めなかった俺が一番悪いのだから、この中で責められるべきは間違いなく俺の方だ。


「はぁ、そうだな」


 諦めたように溜息を吐いた後、一呼吸置いてから孝仁さんは俺の方に顔を向けた。


「姫崎君、あの時何があったのか詳しく話してくれないだろうか」

「‥‥‥はい」


 その後俺は、あの鬼と遭遇するまでの経緯と、何故首を締め上げられてしまったのかまでの経緯を全て話した。


「状況から察するに、あの化け物が惨殺事件の犯人と見て間違いないだろう」

「俺もそう思います」


 状況判断ではあるが、そう考えて間違いないだろう。あそこまで血をまき散らす程の殺人は、人間の力では不可能だ。ましてや、殺した人の遺体はどうしているのかだ。

 山に捨てるにしても、あれだけの数の遺体を同じ場所に捨てるとも考えられないし、バラバラに捨てたとしても巡回中の警察官に見つかるリスクが大きくなる。


「まるで魔鏡事件と同じだ」


 アッサリ受け入れているなと思うが、その理由は去年起こった魔鏡事件のお陰なのかもしれないな。それにこの町にも、凶悪な鬼の伝説があるからな。


「一応上に報告するから、君達はもう帰りなさい。俺達が自宅まで送っていってあげるから」

「ありがとうございます」

「ごめんなさい、孝にぃ」


 全て話した後、俺達は孝仁さん達に自宅まで送ってもらった。小鳥遊さんは少し落ち込んでいる様子であったが、しばらくそっとしておいてあげた方が良いだろうと思った。

 また彼女と会うのも、控えた方が良いだろう。俺に会うと、怖い事を思い出すかもしれないから。

 そう思いながら俺は、アパートの中へと入ってシャワーを浴びて歯を磨いてその日はそのまま就寝した。



前作の「妖しの魔鏡」も是非読んでみてください。

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