十弐 罠
アパートに着いた後、俺はアパートまで送ってくれた男性警察官の人に何があったのかを聞いた。
午後7時ごろ、店に包丁を持った俺が突然現れて、店の中にいた人達を無差別に殺していったというのだ。その後、レジと金庫にあった現金を全て奪っていき、そのまま逃走していったのだそうだ。
その時の様子が監視カメラで鮮明に映し出されており、それを見た年配の刑事さんは俺を犯人と決め付けたという事だ。
対して、カメラの映像に違和感を抱いた孝仁さんはすぐに俺に電話をかけ、その時間何処で何をしていたのかを聞いたのだそうだ。実の妹にも確認を取った事で、孝仁さんの疑念は確信に変わり、俺に罪を着せようと企んでいる別の誰かの犯行であると考えた。
妹は問題児ではあるが、相手を騙す様な嘘を言う様な子ではないから、実の兄の孝仁さんもそれをよく理解しているから、俺への疑いも貼れたのだろう。
当然、犯行時刻の19時から20時の間俺は小鳥遊さん達3人の女子高生にずっと連れ回されていた為、犯行に及ぶのは不可能だ。
「そんな事があったのですか」
「はい。小鳥遊刑事は、すぐにあなたが誰かに冤罪をかけようと企んでいるのではないかと読んだのです」
「そうだったんですね」
改めて孝仁さんに感謝だ。
警察官の人から事件の話を聞きながら、俺はアパートの扉の前まで来た。
部屋に入る為に、俺は鍵を開けてドアを開けようとした時おかしな事が起こった。
「え?」
「どうしました?」
「鍵がかかっている。さっき開けた筈なのに」
おかしいと思いつつ、俺はもう一度鍵かけてみた。今度はちゃんと開錠できたみたいで、扉が開いた。
「鍵をかけ忘れたのですか?」
「そんな筈がありません」
だって中には、大事な預金通帳と実印、何かあった時の為のヘソクリだってあるのだから、例え1分でも外に出る時は必ず鍵をかけるようにしている。
それなのに、鍵が開いていたなんて不自然である。
何かあると感じた警察官が前に出て、部屋の中を確認しながら入っていった。
そして、居間に着くと目を疑う様な光景があった。
「これは!?」
「一体何故」
「こんな大金が俺の部屋にあるんだ!?」
居間に来てすぐに目に入ったのは、テーブルの上にぎっしりと置かれたたくさんの札束と小銭であった。そしてそれらが、店で盗まれたお金である事がすぐに分かった。
訳が分からなかった。どうして店のお金が俺の部屋にあるのだ?一体誰が俺の部屋に入ったというのだ!?
「小鳥遊刑事に報告します。誰かがこの部屋に侵入して、姫崎さんに罪を着せる為に盗んだ現金をここに置いた事を」
「は、はい」
「それと姫崎さんは、このお金に手を触れないでください」
「分かりました」
警察官の迅速な対応により、俺の部屋にあった金は全て回収され、部屋に誰か入って来た痕跡がないか調べていた。
ところが、窓が破られた形跡もなければ、ピッキングされた痕跡も見られなかった。
「結論から言うと、部屋には誰かが入って来た痕跡は全くなく、指紋も姫崎さんの指紋と小鳥遊刑事の妹さんの指紋しか出ませんでした。落ちていた髪の毛も、2人の物でした」
「そんな‥‥‥」
では一体誰が、俺の部屋に入って現金を置いていったというのだ。そもそもこの部屋の鍵は、俺と小鳥遊さんと大家さんの3人しか持っていない。
「でも、あの現金は姫崎さんが盗んでいったものではないと思っています」
「え?」
「だって、お店からあの部屋まで距離がありますし、そこから更にあの3人の所に戻るには時間がかかり過ぎますし、第一それをやったら彼女達だって不審に思う筈です」
「まぁ、確かにそうですけど」
そんな理由で違うと判断されても、正直言って微妙である。それでも無実が証明できてよかった。
「それに、現金をこんな分かりやすい起き方をするはずがありませんし、第一起き方が乱雑です。あり得ません」
確かに、普通なら盗んだ現金を家にポンと置く馬鹿はいない。隠すか口座に入れるか、他にも手段があるのにテーブルの上にドンと、それも乱雑に置くなんて考えられない。
仮に置いたとして、その後普通に現場に戻ってくる阿呆なんている訳がない。
「やはり誰かが、姫崎さんに罪を着せる為に仕掛けた罠としか考えられません。一体誰がこんな」
「分かりません」
正直に言うと、誰がこんな事をしたのかは想像がつくのだが、それを信じてくれる人は今この場には存在しない。
仕方なく俺は、警察に監視されながら近くにあったホテルに泊まる事になった。せめて預金通帳と実印とヘソクリだけは回収したかったです。ダメ?ダメですか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
殺人の現場となった店から帰った孝仁は、監視カメラの映像を押収し、それを部下の女性刑事と一緒に警察署でチェックをしていた。
「やはり違和感があるな」
「はい。動きが洗礼されていますし、これだけ返り血を浴びているのに店に姿を現した彼には血が一滴も付着していませんでした。犯行時と同じ服を着ていたのに、あり得ません」
「そうだな。確かに、姫崎君の身体能力はトップアスリート並ではあるが、それでも初めての殺人でこんな動きが出来るとは思えない」
「他にもおかしな点があります。血の付いた手で札束を握っているのに、1枚も血が染み付いていないなんておかしいです。それ以前に、ポケットに乱雑に入れているのに何故ポケットは膨らまないのですか?」
見れば見る程、不自然な所がたくさん出てきた。
・人を殺す時に無駄な動きが一切なかった。
・返り血を浴びた筈なのに、1時間後に店に来た時には1滴も付いていなかった。
・血の付いた手で札束を握っているのに、1枚も血が染み付いていない。
・ポケットに乱雑に突っ込んでいるのに、ポケットが全く膨らんでいない。
常識では考えられないような事が、監視カメラにハッキリと映し出されていた。
「誰がどう見てもおかしいのに、何の疑いもなく彼を犯人だと決めつけるなんてどうかしています」
「大方、孫の事を悪く言う姫崎君を排除して欲しいと、柴山俊樹から賄賂を受け取ったんだろう」
だが、柴山俊樹の場合は孫に対する思いやりではなく、孫を通して自分の罪状が露見しないようにする為だと思う。
柴山俊樹は、孫にやたらとエリートである事と、優秀である事を求めているが、そこには孫に対する愛情は欠片も存在しない。ただただ、自分の優れた作品として自慢したいという感覚しかない。
警察側も、こんな事が露見すれば身の破滅だけでは済まされず、鬼嶋町の警察官の印象を悪くさせてしまう。口が裂けても言わないだろうし、証拠も全て抹消しているだろうなと孝仁は思った。
「まったく、嘆かわしい事です。あんな犯罪者と殆ど変わらないクソジジイの言いなりになって、しかも賄賂を受け取ってあの会社の印象操作まで行うなんて」
「こらこら、いくら要注意人物であってもクソジジイなんて言っては駄目だ」
「すみません」
だが、あの爺さんは目的の為なら平気で犯罪も行う様な人だから、自分の孫の出世や、孝仁と向日葵の父親の会社を取り込む為には亮一の存在が邪魔でしかない。そんな指示を出していても不思議ではなかった。
実質、鬼嶋町は柴山俊樹に掌握されているも同然であった。
「小鳥遊刑事のお爺様が社長をしていれば、こんな事にはならなかったのかもしれませんね」
「だとしても仕方がない事だ。定年前に親父に社長の座を譲ったのも、当時の親父なら大丈夫だろうと思ったからだろうな」
だが、それが全ての間違いであった。
孝仁と向日葵の父親は、偉大な父親から受け継いだ会社をもっと大きくすることに固執していて、社員全員に無茶なノルマを与え、家庭とプライベートを捨てさせるように強要し、1日の休みも与えさせず、結果を出せなかった場合暴力に走る事も珍しくもない。
更に2人の父親は、社員達と全くコミュニケーションを取らず、結果を出せたか否かで全てを決めている。そのせいで、これまで会社を支えてくれたベテランの人達は皆愛想を尽かして会社を出て行った。
入社の条件も、入社を希望している人が優秀な大学、もしくは優秀な実績を残した人を無条件で採用、それ以外の人間は履歴書にも目を通さずに不採用にしている。優秀な成績を収めているのなら、人間としても信用できるだろうという勝手な思い込みでこんな事をしている。その人が不正をしているのか、人間性問題があるかどうかも面接をして確認もせず。
そんな父親が社長だから、あの爺さんがターゲットにしているのかもしれない。
「今の親父を見て、爺さんはどう思うだろうな。落胆しているのかな?それとも怒っているのかな?」
「こんな状況になっているのに、どうして何もしてこないのでしょうか?」
「まだ改心の余地があると思っているだろうな。表立った大きな問題はまだ起きていないから」
「自分の息子を信じるのはいいですけど、あれもう明らかに度を越しています」
「そうだな。うちの爺さん、良くも悪くも温厚すぎる性格をしているからな。その代り、怒ると滅茶苦茶怖かったけど」
そんな話をしながら2人は、監視カメラの映像をひたすら見ていた。何処か見落としが無いのか、何か犯人に繋がる物が映っていないか。
一つ一つ映像を確認していると、孝仁がある映像に目を付けた。目と付けたのは、レジ側の映像であった。
「何だ?」
そこに映っていたのは、偽の亮一の目を盗みながらメモ帳に何かを書いている血まみれの店長の姿が見えた。多少殴り書きをしている感じではあったが、極めて冷静に何かを3~4ページにわたって書いていた事が窺える。
そして、偽亮一が近づく気配を察知するとそのメモ帳とボールペンを素早く台の下に隠していた。
その後すぐに、店にいた全員を殺した偽亮一が入ってきて、店長はトドメを刺されて殺された。
「店長は一体何を書いていたのでしょうか?」
「分からない。だが、証拠品の中にあのメモ帳が無かった事から、まだ現場に残されているに違いない」
そう判断した2人は、すぐに現場となったコンビニに急行した。
立ち入り規制はされ、店の周りはブルーシートで囲まれていたが、現場には誰もいなかった。
「まったく、この時点でまともに捜査する気ゼロじゃねぇか」
「こんな3流警察署に入った自分が情けなくなりました」
「まったくだ」
女性刑事の言う事には同意するが、孝仁はすぐに台の下にスマホの明かりを当てて例のメモ帳を探した。ボールペンはすぐに見つかったが、そのメモ帳は比較的壁側の所にあったので発見するのに少し時間がかかった。
「あった」
見つけたそのメモ帳を取り出し、女性刑事と一緒にメモを見つめた。
「この中に、真犯人に関する情報が」
「そうであって欲しいぞ」
孝仁はそっとメモ帳を開いて、書かれている内容に目を通した。ページの半分くらいは、業務に関する事項や、これまで受けたクレームの内容や、新しく仕入れた機材の使い方や洗い方が書かれていた。
そこから何ページか白紙のページがあり、最後から6ページ辺りに殴り書きで何かが3ページにわたって書かれていた。3ページ分ではあったが、急いでいたせいか字は大きく、そこまで長い文章では書かれていなかった。
「これは‥‥‥」
書かれていた内容に、2人は驚愕した。
あの姫崎君は、ニセモノだ
彼の姿が真っ黒い化け物の姿へと変わったのを見逃さなかった
彼を貶めようと企む何者かの罠であると確信した
この町の鬼伝説は真実であった
メモ帳にはこう書かれていた。
「鬼伝説。っ!?もしかしてあの時の化け物が!」
「監視カメラに写っていなかったとなると、カメラの死角に入って一度元の姿に戻っていたのか。そしてそれを、店長は見逃さなかった。おそらく、あの姫崎君が偽物であると勘付いた店長はソイツをじっくり観察したんだろう。そして、全員殺したと思った化け物がカメラの死角で一度元の姿に戻ったのだろう。姿を変えるのは、あの化け物にとっても負担だったんだろう」
そして、気付かれないようにこの事をメモに記し、それを台の下に隠した。
カメラの死角で行われた事である為、映像からはその様子を窺う事が出来なかった。
だが、このメモを見て2人は当時の店長の心境が理解できた。
「証拠になるならないは別にして、これは姫崎君の冤罪を晴らす極めて重要な証拠だ」
「はい。小鳥遊刑事は、この内容を写真に撮ってください。私はこれを重要な証拠として署に持ち帰ります」
「分かった」
孝仁はメモの内容を写真に収めた後、拳銃を手に取って弾丸の確認をした。
「俺はすぐに姫崎君の所へ向かう。俺の指示で彼の警護をしている警官達にこの事を伝える。君は隣町に行って、そこの警察署に応援を要請してくれ」
「いいんですか?そんな事をして」
「うちの署の連中では、柴山秀樹の言いなりになって既に姫崎君を犯人だと決めつけて追い詰めようとしている。ハッキリ言って信用できない」
「しかし!この事がもし柴山俊樹の耳に入ったら!」
「責任は俺が取る!早く行け!」
「‥‥‥分かりました。小鳥遊刑事も、お気をつけて!」
女性刑事は車に乗って、すぐに隣町の警察署に向かって応援を要請しに行った。
そして孝仁は、また亮一が狙われる事を心配し、警護についている警察官に電話をかけて今何処にいるのか確認した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「‥‥‥眠れない」
無理からぬことである。
時刻は深夜の4時を回っており、いつもならコンビニでバイトをしている時間帯なのだから、身体が完全にそれに慣れてしまっているせいでなかなか寝付けないでいた。こんなんで就職した時、物凄く苦労するというのは分かっているが。
「それに、ベッドで寝るなんて2年ぶりだから、何だか落ち着かない」
部屋にあった物はある程度持ち出せたが、ベッドやタンス等の大きな物までは持って行くことが出来ず、バイトで稼いだお金で安いタンスと、小さめの冷蔵庫と洗濯機を買った。かなり痛い出費ではあったが。
その後も、何とかギリギリの生活の中何とかお金を貯めつつ生活をしていた。
「それなのに、何でこんな事になるんだ‥‥‥」
天井を眺めながら俺は今日、もう昨日になったが、バイト先の店で起こった事を思い返した。
バイトの時間ギリギリまで連れ回されたが、その後は普通に店に来ただけなのに、どうしてこんな事になってしまうのだろうか?
何で、関係のない店長やあの時間のシフトの人達、更にはただ買い物に来ていた人達が巻き込まれるのだ。
一体誰が、こんな惨い事をしたというのだ。
そして何故、俺にその罪を着せるのだ。
この町で普通に生活していただけなのに、何故。
そんな事を考えていると、扉がノックする音が聞こえた。
「姫崎さん」
「ん?」
俺の警護を担当している男性警察官の声が聞こえたので、俺はすぐに起き上がって戸を開けた。
「どうしたんですか?」
「実はさっき、小鳥遊刑事から連絡があってね。君の無実が証明できるかもしれないんだ」
「本当ですか!?」
俺なんかの為に、こんな時間まで孝仁さんは俺の無実を証明できるものを探してくれたのか。日の出まであと1時間弱という時間まで。
「小鳥遊刑事は本当にすごい人です。いや、これが警察として本来あるべき姿なのかもしれない」
「孝仁さんの事を、尊敬しているのですね」
「はい。あの人はまだ28と若いながらも、警察官としての手腕はかなり優秀で、あの柴山俊樹の圧力や誘惑にも屈せずに悪い人を追い詰める。私も彼に憧れていますし、今回あなたの警護についている警察官も、皆小鳥遊刑事に賛同しています」
孝仁さんとそんなに変わらない歳をしているのに、ここまで憧れられるなんて。本当に真っ直ぐで、正義感の強い性格をしているなと改めて実感した。
逆に言えば、この人にそんな事を言わせるという事は、この町の警察署はそれだけ柴山俊樹の力が及んでいて、あの爺さん関連の事件があってもスルーするか、下手な言い訳をして無理矢理決着を付けさせる等をしているのがまるわかりである。
孝仁さんが以前言っていたように、3流以下の警察官ばかりだな。
そんな時、突然男性警察官の無線が繋がった。
「どうした?」
『そちらに、姫崎亮一はいますか?』
「何を言っているんだ。彼なら私のすぐ目の前にいるぞ」
『やはり!』
声の感じから、物凄く焦っている様に感じた。外で一体何が起こっているというのだ。
『お逃げください!彼の偽物が、今まさに我々に襲い掛かっています!』
「なに!?」
「っ!」
『このままでは‥‥‥』
その通信を最後に、無線は切れた。
あのヤロウ。ここに来たという事は、俺を本格的に追い詰めに来たという事か。
「まったく、見え透いた罠を仕掛けてきたもんだ。周りにいる警察官と、このホテルに泊まっている人や従業員を皆殺しにする事で、彼の容疑を決定的にさせようという魂胆か。でも、そうはさせない。私がここにいるのが運の尽き」
決意に満ちた男性警察官は、俺を連れてすぐにこの階にいる全ての部屋の扉をノックして回った。
「君も早く、この階にいる人達を起こして、非常階段から逃がしてください!私と一緒に行動して助けて回れば、あなたの味方になってくれる人を少しでも増やす事が出来ます!」
「あ、ああ」
男性警察官に言われるがまま、俺はこの階にある全ての扉をノックして回った。俺としても、他の宿泊客が殺されるのは嫌だから、避難誘導には賛成だ。
それから30分かけて、俺達が今居る階の宿泊客全員に事情を説明して、非常階段から避難させた。
俺と男性警察官は、皆が避難している間に各階の宿泊客に避難するように言って回った。幸いなことに、俺が宿泊していた階より上の階に泊まっていた人は一人もいない事が、男性警察官から聞いて分かった。いろいろと準備がいいな。
だが、お陰で避難誘導がスムーズに進み、俺と男性警察官は3階に到達した。
すると、そこでは今まさに逃げ惑う宿泊客を包丁片手に持った俺そっくりな犯人が殺しまわっていた。
逃げ惑っていた人達は、最初に俺を見た時は混乱したが、包丁を持つもう一人の俺と交互に見てかなり混乱していた様子であった。
「アイツが!」
「待って姫崎君!丸腰では!」
俺の姿をした偽物に怒りを爆発させた俺は、男性警察官の制止を振り切って偽物の所へと走って行った。偽物は今まさに、若い女性の宿泊客に向けて包丁を向けようとしていた。その前に俺は、偽物の腕を掴んで投げ飛ばした。
「え?え?どうして!?」
同じ顔の人間が突然現れた事で混乱する女性客だが、俺は構わず前に出て投げ飛ばした偽物を睨んだ。
すると偽物は、身体を起こすと同時にその姿を30代後半の女性の姿へと一瞬で変わった。まるで手品みたいに。
「助けてぇ!殺されるぅ!」
そう叫んで偽物?は、持っていた包丁を捨てて走り去っていった。
「今の様子はバッチリ撮影しました。あんな一瞬で姿を変えるなんて、私も正直言って予想外です」
男性警察官がその様子をスマホのカメラで撮影してくれたが、俺は物凄く不安で一杯であった。
だが、これは向こうにとって大きな誤算でもあった。
何故なら、その様子を俺や男性警察官だけでなく、他の宿泊客達にもバッチリ見られていたのだから。
それから俺達は、3階以上にいる宿泊客を避難させる事が出来た。残念ながら、見張りをしていた警察官全員と、ホテルの従業員と1階と2階に宿泊していた客は皆犠牲になり、3階に泊まっていた人達も半数以上が犠牲になってしまった。
だが、助け出した宿泊客全員を味方に付けることが出来たのは大きかった。
それでも、町民全員が敵に回ると考えるとかなり少ない。
「妖しの魔鏡」も是非読んでみて下さい。




