格好良く滑空………出来ませんよ私!?
誤字脱字は脳内変換プリーズ。
「御光臨されました!!!」
「おお、ようやくかっ!!」
「聖獣アルダシャルトゥーラ! 我が国の守護獣であり、比類なき強さを頂く気高く美しい最強の獣!」
民衆の大歓声に迎えられ、両親や兄弟はキリッとした表情で大空を優雅に滑空しているけど、私はそれどころじゃない。
ヨロヨロ………ヨロヨロ………という擬音が聞こえる様な、不格好な滑空を民衆に晒す。 私は神力を使うの苦手なのよ。 だから上手く力を操れない。
『イオ…………カッコ悪い』
『イオ…………情けな~い』
『ちょっと黙って! いま話しかけないでっ…… あ、ああっ………落ちちゃっ………………』
一生懸命滑空してるのに、横から兄弟たちが茶々を入れてくる。 集中必須なのに乱された私は、ストーーーーンと落下し始める。
『うぎゃぁぁぁぁぁぁっっっ!!!』
「おい……嘘だろっ!?」
「せ、聖獣が………聖獣が落下して来てないか?」
「ひ、ひえぇぇ………永いこと生きておるが、こんなことは初めてじゃ!!」
ザワザワと民衆たちが騒ぎはじめる。
カプリッ………。
落下していた私の襟首を、パパが口に咥えて拾ってくれた。 墜落死を免れてホッと一息付いたけど、これでは格好がつかない。 私が一番年下なんだけど、これじゃあ聖獣としての威信が地に落ちて無いか心配だ。
でもパパに咥えられて、両手足をブラブラさせているのは楽しい。 だから意味もなくブラブラさせる。アハハ! おもしろっ!!
「危なかったな」
「ああ、本当にな。 だが…………何か可愛いな」
「バッカ! 不敬だぞ? あんなプリチーな姿はまだ幼獣だからだ! 成獣になったらアレだぞ?」
民衆の視線は私を咥えているパパに集中する。
うん、確かにパパは超強そうに見える厳つい外見をしている。 体調は三メートルはあり、白銀の毛皮を纏った見た目大虎な勇ましい獣。 それが我が種族、聖獣アルダシャルトゥーラである。
ちなみにその幼獣である、我々はせいぜい猫にしか見えない姿である。 猫との見分けかたはこの白銀の毛皮しかない。
『父上~イオばっかり狡い!』
『僕らもブラブラした~い!』
兄弟たちがパパの足下へと危なげなく近寄る。チェッ…………何で私だけ神力の扱いが下手なのよ。納得いかない。
『貴方たち、ここへは遊びに来ているのではないのよ? 貴方たちのお披露目が目的なのですよ?』
『あっ! 母上!』
『でもイオが………』
一際白銀の毛皮が、美しくキラキラと輝くママが兄弟たちの言葉に一つ頷くと、パパに話しかけた。
『そうね。 ヴァル、もうそろそろイオを下ろしても大丈夫じゃないかしら?』
『………そふぅだな。 ふぁはった(そうだな。わかった)』
ププッ…………私を咥えているせいで、こもってしまったパパの声音が笑いを誘う。
『イオ…………シャンとしなさい。 貴女は誇り高き一族、アルダシャルトゥーラなのですよ?』
『……クフフッ…………はぁ~い! ごめんなさ~い…………………ギャッッッ!!!』
沸き上がる笑いを噛み殺しながら生返事をしたら、鋭い一撃が私を襲った。
『聞いてなかったのかしら? 貴・女・は・誇・り・高・き・一・族・な・の・で・す・よ?』
一言一句アホの子に言い聞かせる様に、静かに怒るママが私の頭部を前足で叩いたのである。 もちろん手加減してもらってはいるけど地味に痛い。 プルプル震えながら『ミュ~』と悲しげに鳴いておいた。
「うわっ! あざと可愛いっっ!」
「も、萌え萌えキューーーーン♪」
「ハァハァ………ハァハァハァ………」
「今までの幼獣でも、あそこまであざと可愛いらしい態度の聖獣は居なかったのじゃっ!」
民衆の声が聞こえる。 フハハ!! そうであろう、そうであろう! 私はあざと可愛いのだよ!!
…………………って、うん?あれっ? あざと可愛いって誉め言葉、ですよね???
パパの口にから下ろされると、途端に私の身体はフラフラと左右に揺れる。 足元………(といっても空中)が、安定しないせいだ。
一応滞空も出来ますよ………あくまで、一応ですがね。へへへ………。
『…………レア、このままじゃイオが辛そうだ。 早めに王城へ向かうおう』
ナイスパパ! 私の危うい状態を正確に把握してくれている。
『…………そうね。このまままた落下でもしたら大変なので急ぎましょうか』
『今回は俺がイオをフォローするよ』
『分かったわ。 お願いね』
そう言うと、フラフラと左右に揺れていた私の身体がピタリと安定する。 どうやらパパが神力を使って支えてくれていらしい。 普通はここで有り難うパパ!ってなるかもだけど、私は一味違うよ。 支えてくれるのなら、最 初 支えといてくれよ! と思ったのであった。 だってそうしておいてくれれば、落下の恐怖を覚えなくても済んだんだからね!
パパに支えられているので、大地を歩くのと同じように空中をポテポテ歩ける。 よっしゃ!これでもう怖くないぞ………ほ、ほんとだぞ!
『さ、さぁ! 早くお城に行こうよ!』
鼻息荒く進む私の背後で、兄弟たちがこんな事を言っていたのであったが、幸いなことに私には聞こえなかった。
『イオってさぁ………何か本当に残念な性格してるよな』
『だね。 でも父上も母上もそんなイオが一番可愛いんだよね~』
『ほら、バカな子ほど可愛いってやつだろ?』
『なるほど~。 確かにイオはバカ………というかアホというかだもんね~』
『俺らには無いものをもってるんだろ?』
『そっか~そうだね~。 僕も流石にあそこまで考えなしに行動は出来ないからな~』
『おい、もしかして羨ましいのか?』
『ハハッ………まさか~(乾いた笑)』
『だな。 近くで見てる分には面白いけどな』
『だね。 自分がああだったらとはならないかな~』
兄弟たち……リィギとリュイのこの会話は、王城に着くまで終わらなかったのであった。
イオ⇒主人公……いや、主獣公。 基本アホの子。自己中。 好きなことにしか興味を示さない。一人称私。
リィギ⇒イオの兄弟。 一番上。 冷静。一人称俺。
リュイ⇒イオの兄弟。 二番目。楽天家。一人称僕。
ヴァル⇒イオのパパ。 外見は厳つい。超強そう。 でもとっても優しくイオをいつも心配している。一人称俺。
レア⇒イオのママ。 外見は優美。 強そう。 一族の誇りを大切にしている。 怒ると恐い。 一人称私。
民衆⇒おおむねノンビリ、オットリした人種。 仄かに変態が混じっているが、ノータッチ主義。触らない………見るだけ、見詰めるだけ、舐めるように見詰めるだけ。 だから問題ない! 多少気持ち悪いだけ!