エピローグ
『それではみなさん、お疲れ様でしたー』
頭が真っ白になるとはまさにこの事で、その後の証書のことも、クラスの奴らの慰めも、終了のあいさつも、何一つとして頭に入らなかった。
何度でも言おう。死にてぇ。
「ま、まぁ江坂……、元気出せって」
「おい江坂ー、早く帰ろうぜー。ファミチキおごれよなー」
天使と悪魔かお前らは。とりあえず井上は死ね。田中は後で飲み物でもおごってやるよ。
そういや久保はどうした?
「久保なら、あいさつが終わった瞬間『秋葉原が我を呼んでおりますぞwww』とか言って帰っていったぞ」
あいつ悩みとか無さそうでいいな……。
と、俺がそんなことを思っていたとき、
「始くん」
後ろから誰かに名前を呼ばれた。
とは言っても、俺のことをそう呼ぶヤツは一人しかいないわけだが。
「相沢……」
「残念だったね」
相沢は本当に残念そうな顔をしていた。
なんであれ、負けた要因の一つには俺も関係があるわけだ。一応でなく、普通に謝っておこう。
「悪いな相沢。負けちまった」
「ううん、いいんだよ。僕が頑張れなかったのがいけないんだからね」
こういう事を自然と言えるヤツってのは本当にすごいヤツなんだと思う。俺には少し眩しすぎるぜ。悪い奴らに騙されないようにしろよ。
「それにね、始くん。僕は嬉しいんだよ」
嬉しい?
「今日の君は、いつも全力で頑張っていたじゃないか。全力の君を見ることが出来て、僕は嬉しいんだよ」
……ハッ。
やっぱりお前はすげぇよ。
「始くん。お互いの健闘を讃えて、僕と握手をしてくれないか。君がよければだけど」
「ああ、いいぜ」
学年頂点の者と、学年最底辺の者の握手である。
これを美しいと思うか、滑稽と思うかは、見る者に委ねることとしよう。
ここで典型的なツンデレ台詞を言いたくなるキャラの気持ちがわかった気がする。
なぜなら、今俺も言いたくなっているからだ。
まぁ、こっちもお前のお陰で、ある意味当分忘れることの出来ない体育祭となったよ。こんなに本気になって挑んだのは初めてだっかもしれないな。
本気で挑んでも、得るものなど何も無いと思っていたが、案外あったのかもしれない。
相沢との、友情ってヤツをさ。
まぁさすがにそれはクサすぎるので、口が消え去っても言わないのだが。
ただ、陰キャ陽キャなどと、つまらないことで相手と線を引くことはないのかもしれない。
同じ人間なのだ。全力でぶつかれば、意外とわかり会えるものなのかもしれない。
そんなことを、少しだけ思った。
「ねぇ聞いた? ほら、あの人」
さて、なんだかすごくいい感じの話で〆れたことだし。
「うん、聞いた。コケた人でしょ?」「コケた人だ」「マジでウケたよなアイツ」「そういえば借り物競争でもアイツ面白いことしてたんだぜ?」
この陰キャにとって消え去りたい状況が約二週間続いて、俺がノイローゼ気味になったことは、また別の話ということにしておこうか。