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陰キャの体育祭(改稿版)  作者: 滋賀ヒロアキ
5/8

騎馬戦前半

『さぁ、長かった体育祭も、遂に最終競技、騎馬戦がやって参りましたァ! 我が凡土(ぼんど)高校の騎馬戦は、毎年毎年激戦が繰り広げられることで有名です!』


騎馬戦。

恐らくリレーや綱引きに次いで知名度が高い、体育祭の目玉であり、男子最大の見せ場を得ることが出来る競技である。

もっとも、陰キャにとってそんな見せ場などいらないわけだが。


「遂に始まるよ……騎馬戦が。始くん、突然出場を頼んでしまって、申し訳ない」


ホントだよ。お前があんなこと言わなきゃ、まだいくらでも他人に押し付けようはあったと言うのに。


「だけど、わかって欲しい。この騎馬戦は、勝利チームに一億ポイントが入るんだ。この競技を制したチームこそが、この体育祭での勝ちを得るのと同じ……!」


昭和のバラエティー番組か。今までの競技で俺たちが流した汗と恥はなんだったんだよ。


「どんなヤツが相手でも、僕は必ず勝つ。そして、先生に優勝証書を届けてみせる!」


また担任かよ。何なんだよお前。もう担任と結婚しとけや。

はぁ……まぁ、不幸中の幸い、騎馬はアイツらだ。いざ勝負の時に気不味い思いをすることはない。

もう決まってしまったものは仕方ない。

今こそ原点回帰。

目立たず、恥をかかず、切り抜けるだけだ。



『それでは、出場選手の皆さんは、準備をしてください』



その言葉と共に、幾多の騎馬たちがスタンバイを始める。

凡土高校の騎馬戦は、各組から6組ずつ騎馬を選抜し、その騎馬たちで戦う大乱闘形式だ。最終的に、残っている騎馬の数によって勝敗が決まる。

いやいや騎馬多すぎっしょ、と思う人もいるかもしれないが、我が凡土高校の生徒たちは騎馬戦にかける熱意がスゴいので、騎馬などあっという間に減っていくぞ。


「しかし、まさか江坂が俺たちの騎手になるなんてな……」


「全くだぜ。柏木の分までちゃんと働けよー」


「んんwwwww」


うるせぇ。田中以外、黙って騎馬の準備をしろ。

一応説明しておくと、田中が一番前で、井上と久保が後ろを担当する形だ。


「江坂氏www 何かこの競技での策はあるのですかな?www」


いや、ねーな。なにぶん急すぎるもんで、作戦もなにも立てる時間がなかった。


「まぁでも、どうせ俺たちの騎馬を見るやつらなんていねぇだろ。そこら辺で適当なヤツとバトって、早く落ちようぜ」


俺だって最初はそのつもりだったさ。


「あん? なんか不味いことでもあんのか?」


あるともさ。横見てみ。


「横?」







「やるぞみんなっ! この騎馬戦、必ず勝ぁぁつ!!」


『おう、おっしゃあっ!!』






「あっ……(察し)」


という訳だ。今や相沢の熱が他の奴らにまで伝染してやがる。この中でもし真っ先に負けでもしたら、なにを言われるかわかったもんじゃないな。


「絶対勝つんだ! 僕たちを信じて託してくれた柏木くんのためにも! そして、優勝証書を待っている先生のためにも!!」


柏木くんそんなドラマチックな退場してなかったろ。

あと担任いつまで引っ張るんだ。一芸頼りだと、そろそろみんなに飽きられるぞ。



『準備は出来ましたか? それでは、よーい……』



とと、人の事を気にしてる場合じゃない。遂に最終決戦が始まるぜ。

目標はなるべく目立たずに退場。これ以外にない。さぁ、ここが正念場だな。



パァン!!



ピストルの音と共に、6クラス×6組の、計36組の騎馬が運動場へと解き放たれた。


「ヒャッホーッ!!」「祭りだーッ!!」「行くぜ野郎共ーッ!!」


開幕と同時にヒャッハーになる血気盛んな皆さんである。

ちょっとテンション高すぎねぇか?

何名かクスリをキメてるような気もする。


「上等だゴラァ!!」「ナメてんじゃねぇぞ!!」「ヤるぞオラァ!!」「()が高けぇんだよォ!!」


まぁそれはウチのクラスも同じだが。俺を除く5組の騎馬。先陣を切るのは、言うまでもなく相沢の騎馬である。


「もらったっ!」


「ちくしょうめぇ!」


さすがはイケメン。もう一人目の騎馬を撃破したらしい。

それが合図だったかのように、運動場の各地で騎馬同士の激突が展開される。


「フヒヒwww どうなさいますか江坂氏www」


一先ずは目立たず、誰とも戦わないように立ち回るぞ。全体の騎馬の数が半分を切ってから、俺たちは行動を開始しよう。


「んだよテメェ、簡単に言ってくれるが、実行すんのは俺らなんだぞ。自分は楽な騎手だからって命令ばっかしやがって」


あ? じゃあ替わるか? お前らは目立たねぇ役だからいいじゃねぇか。もしこの騎馬が負けたとき、真っ先に責任かかるのは俺なんだぞ。


「おーい江坂、ケンカしてるとこ悪ぃが、前方からさっそく騎馬が迫ってるぞー」


おおっとマジかよ。少し話をしすぎたな。

よし、ここは前の騎馬に気付かず、別の騎馬を追っているフリをして逃げるぞ。


「逃げんのかよ?」


バカ野郎。陰キャが正面きっての戦闘で勝てるわけねぇだろ。

現時点じゃ、戦うのは本当にどうしようもないときだけだ。


『おおーっと! すごい強さだA組! 相沢くんを筆頭に、次々と騎馬を倒していくーっ!!』


今は観客の目も相沢に向かっている。目が俺たちに向いてない以上、無駄な戦闘はしないほうがいい。

逃げんのは恥だが役に立つんだぜ?


「待てやァァァッ!! 俺と闘えよォォォォッ!!」


ヤベェ、おクスリをキメてる人だった。

騎馬もっと早く走って。

いくら36組の騎馬がいるとは言え、目立たないように立ち回れば、戦うなと言うのは意外と難しい話ではない。

陰キャをしていれば自然と(つちか)われる存在感を消すスキル。コツは相手と目を合わさず、相手の視界の隅に入るよう動くことだ。



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