休憩時間及び午後の部
「いやーっ!! マジでうけんのな!! 最高だぜお前!!」
「黙れ、ぶっとばすぞ」
競技を終えた俺に、陰キャ仲間である井上が送ったのはそんな言葉だった。
……くそう、もうヤダ体育祭なんて嫌いだ帰りたい……。
「君の憧れの人に選ばれるなんて、光栄だよ始くん!」
そういうのじゃない。こういうので連れていっても、ネタで済むようなヤツを思い浮かべたら、お前が適任だっただけだ。
お題が『好きな人』で男連れていくなんて、冷静に考えたらホモォになっても、人気者のお前なら、尊敬という理由でもギリギリ通るからな。
陰キャじゃホモォで通っちまうかもしれないし、陰キャが『好きな人』で陰キャを連れていく姿なんて俺も見たくない。
……まぁでも、助かったのは事実だし、一応感謝はしておこう。
「お疲れ様だぜ江坂。まぁ大丈夫だ。多分クラスメートのみんなは、六位の袋井の方が印象に残ってるさ」
「田中……」
コイツはなんて良いことを言ってくれるんだろう。
やはりコイツは陰キャの中でくすぶっているべきヤツじゃない。コイツは陽キャのとこへ行くべきヤツだ。
「確かに袋井のあの回転は凄かったよな」
「やっぱ井上もそう思うよな。後半なんか明らかに関節がヤバそうだったし……。久保はどう思う?」
井上に同意を求めたあと、田中は三人目の陰キャ仲間である久保へと声をかける。
「んんwww 田中氏www どうなさりましたかwww」
……まぁ、こういうヤツだ、久保は。セリフにはなにもツッコミを入れないでやってくれ。
初めは慣れないだろうがすぐに慣れる。
「いや、話聞いてなかったのかよ……。借り物競争で袋井がすごかったな、つー話で……」
「そうだったのですかな?www 失礼ながら我はこの体育祭では女子のリレー以外興味はないのですぞwww 高校の体育祭の目玉なぞこれ以外ありえないwwwww」
「そ、そうか……」
久保は俺たち陰キャ四人のなかでも一番濃い。
というか、そもそものジャンルが違う気がする。まぁいいけど。
陰キャ同士、お互いの容姿話し方については何も言わないのがマナーだ。
『それではみなさん、これより昼休憩に入ります。再開時刻は━━━』
っと、そんな事を言っている内に、もう昼休憩か。長く苦しい体育祭も残り半分だ。頑張ろう。
「それじゃあね始くん! 午後は組体操に騎馬戦、体育祭の目玉行事が揃ってるんだ! しっかり食べといてくれよ!」
騎馬戦は俺出ないんだがな。
あと、俺もこの体育祭の目玉行事は女子のリレーだと思うぞ。
まぁ、今回の体育祭は午前からいろんな事がありすぎたし、腹が減ったのも確かだ。
早く親の元へ行こう。それなりに上手い弁当が待ってる。
そこからしばらくは、描写することもない退屈な時間が続いた。
決して作者のやる気が無くなったとか、書くのがダルくなってきたとかそういう訳ではない。
玉入れで相沢がやたら俺にボールをパスしてきたこととか、
俺が久保と二人三脚をして色んな意味で死にかけたこととか、
暇すぎて陰キャ仲間とライトハンドでジャンケンしたら十回連続で負けたこととか、
トイレ休憩しようとしたら体育倉庫へ消えていくカップルを見ただとか、
クラス対抗リレーでスピードにノリ過ぎた相沢が、カーブを曲がり損ねて運営席に突っ込んだこととか、
色んなことがあったのだが、これの一つ一つを描写しても、読者は退屈だろうと思ってね。
描写するような事故が起こったのは、組体操だった。
ピピーーッ! ピッ!
笛の音ともに組体操ラストの技、人間ピラミッドが完成する。
組体操を象徴するような技であり、見てる分には非常に迫力があり、力強い印象を受ける。
「痛ェ~!」「重い~!」「早く下りろ~!」
もっとも、土台部分は阿鼻叫喚状態であるが。
いつだって巨大な物事は、尊い人間たちの悲鳴で成り立っているという、人間社会を風刺しているようですな。
「重ェんだよ、早く下りろってんだ!」
「今ばかりは井上に完全同意だぜ……!」
「フヒヒwww 貴殿たちもう少しの辛抱ですぞwww 上がもうすぐ下りてくるようですなwww」
「だ、そうだぜ。もうちょい持ちこたえろ、江坂、井上」
ちなみに俺ら陰キャ四人組は土台部分である。
俺らもそれなりに身長は低いが、下には下がいるもんなのだ。
ぶつくさ文句を言いながらも、終了を辛抱強く待っていた、その時だ。
「あっ!」と言う声が聞こえた。
果たしてその声を上げたのは先生方か、観客方か、はたまた生徒か。
その声とともに、背中にとてつもない重量がかかりだした。
いや、今までもかかってはいたのだが、自転車のギアを変えたように、急に強さが変わった。
ドガガガガガガガガガ!!
「痛たたたたっ!!」「ちょっ!?」「足があっ!!」「フヒッ!www」「これって、もしかしなくても……!」
大体の読者の想像通り━━━
ピラミッドが、崩壊いたしました。
幸いなことに、死人だとか、重傷人などはいなかったようだった。
とは言えそれは大きな怪我の話。小さい怪我をしてるヤツはどこしらに必ずいるだろう。
まぁ俺たちも半端なく痛かったけど、それよりも上の連中だな。大丈夫なのか?
「おい、柏木!? 大丈夫かよ!?」
言ってるそばからだ。
野次馬根性で人だかりに向かうと、同じ組の柏木が体を丸めて倒れていた。
どうやらコイツがピラミッドの一番上だったらしい。下りている途中で、土台が崩れてしまったんだろうな。
競技は一時中断となり、柏木が保健室に運ばれることがアナウンスされた。
お大事に、だな。
とは言え、柏木も確か騎馬戦には出ないハズだし、体育祭は問題なく進行出来るかな。
「なに言ってんだよ、ガッツリ出るぜ!柏木は俺たちの騎馬の騎手だったんだぞ!?」
なんだと? お前たち三人が騎馬戦に騎馬役として出ることは聞いていたが、まさかその騎手役が柏木だったとは。クラスで出場選手を決めるときに、ちゃんと聞いていなかった証拠だな。
しかし、だとしたらどうする? 騎馬戦を中止するのか?
しばらくすると、どこかへ行っていたらしい相沢がA組の元へと帰って来た。
「今、担任の先生に話を聞いてきたよ! 騎馬戦は予定通り行うそうだ! みんなには、柏木くんの代わりに入る人を決めてほしい、って!」
ふむ。まぁ、そうなるか。
だが、誰が入る?
ここで進んで名乗りを上げれるような輩は、残念ながら現代社会には少ない。
しばらく誰もが無言でいると、ふと、誰かが口を開いた。
「江坂でいいんじゃねぇの?」
は?
「江坂って、あの騎馬の奴らといつもツルんでるだろ? 適任じゃないのか?」
いやいやいやいや待て待てなにを言ってやがる?
冗談じゃねぇぞ。俺はこのまま平和に体育祭を終わるハズだったんだ。
いらねぇから。
最後に一波乱入れるかー、とかいらないから。
ほら、クラスのみんなも反対しろって。この競技にはいわば、A組の勝利がかかってんだぞ。俺なんかに穴埋めを任せていいのか?
「僕は、始くんでいいと思う」
黙ってろクソリア充。
オメェの意見は求めてねぇんだよ。
「俺もそれでいいかな」「ま、相沢が言うならいいだろ」「そうだね、相沢くんが言うんだもんね」
待てやコラ貴様ら。お前ら正直相沢が言ったとか関係ないだろ。押しつけられれば誰でもいいんだろ。俺の意見も聞けよ、おい!
「一緒に頑張ろう、始くん。勝つために、君の力が必要なんだ。全力を、尽くしてほしい!」
……お前ら全員、ファ◯◯ユー