徒競走
『第◯種目はー、◯年生によりまーす、100mリレーでーす』
さて、プロローグが長くなったしサクサクいこう。
みんな大好き入退場は、残念ながら割愛だ。ホントにごめんねみんな。
◯メートルリレー。
クラスのほぼ全員がどこかに出場させられる、陰キャが困る種目その1である。
足が遅いのに出場させられた日には、足の遅さを笑われる屈辱と、自分のせいでクラスが負ける罪悪感を味わうという、一粒で二度おいしい種目である。
俺が出場するのは100mリレー。陰キャとしては50mが理想だったが、ジャン負けしたんだから仕方ない。
まあ幸い、俺はスタミナはないが足は遅い方ではないし、100mならば全力でもギリギリ体力は保つ。無難にやり過ごそう。
『第一走者の生徒はー、すぐに朝礼台の前に集合してくださーい』
放送の指示で、俺は同じくジャン負けで決まった第一走者の集合場所へと向かう。ちょっと今俺のライトハンドは呪われてるのかもしれないな。
興味のある人以外誰も聞いてないであろう走者の紹介が終わり、俺はA組の位置である一番インコース側に入る。
「いちについてー、よーい……」
先生の合図で、前の人の見よう見まねのクラウチングスタートのポーズをとる。
走者は俺を含めて6人。
2位はやりすぎだな。理想は3位か、よし。
「ドンッ!!」
その声と共に地面を蹴り、両手と両足を必死に振り回す。
景色がぐんぐんと後ろに向かって行く。様々な選手への応援が混ざり合い、運動場に複雑なBGMとなって流れる。
自分が風になったような気分だ。
体に当たる風の感触が気持ちよ……いや、これは別によくはないな。あいにく俺は陸上小僧じゃないんで。
1、2、3人……後ろにこの人数がいるってことは、俺は今3位か。
最高だ! 3位でバトンを渡せば、たとえ勝っても負けても、俺は誉められもしないし責められもしない。後はどうにかこの位置を保てば……。
「~~~!! ~~~!!」
なんか、やけに応援がうるさいな……。
まぁ多分女子共からイケメンへの応援だろう。
さして気にすることは……
「頑張れー! 始くん頑張れーっ!!」
イケメンから陰キャへの応援だったよ。
「行けーっ! あと一人抜かすんだ始くんーっ!!」
昭和の魚屋店主かお前は。応援必死すぎんだろ。下手すりゃ俺のオカンよりも応援してんじゃないか?
ていうかヤベェぞこれ。
3位というどちらにも転びかねない状況と、イケメンの応援という相乗効果によって、俺に注目が集まりまくってる。ヤベェ。
「君の力はこんなもんじゃないだろう!? もっと君の力を見せてくれよ!」
いやいや勘弁してくださいっスよ相沢先パイ。
これっスよ、これが俺の力っスよ。
現実から目を背けちゃダメなんですよ。受け入れなきゃいけないんですよ相沢先パイ。
「いけーっ!! 走れーっ!!」
(ああもうクソッタレっ!!)
止まらない相沢の応援に、俺は半ばヤケクソ気味にスピードを上げた。
正直必死すぎて、この辺の記憶は曖昧である。
ただ、相沢が驚いた顔でコチラを見ていたことだけは記憶に残っている……。
……えー、結論から言わしてもらおう。
結局、無理をしてスピードを上げたせいでペースを崩した俺は、後半で著しく減速してしまい4位でバトンを渡すと言う結果になってしまった。
現実は非情なのである。
「残念だったね始くん! 途中までは良かったんだけどね!」
黙れしゃべんな。諸悪の根源が。
結局、100mリレーは総合的には5位という結果になってしまった。
……まぁ誰に原因があるか、と言われたら……俺になるわな……。
「大丈夫だよ! まだまだ競技は続くし、次で挽回すればいいんだよ!」
挽回させたいんなら引っ込んどいてくれませんかね。
お前のせいで、俺は熱心な男子と女子共から冷たい目で見られる羽目になったんだぞ。本人に悪意がない悪事って、一番タチが悪いんだぜ?
……まぁいい。これ以降しばらく出番はないし、その間にみんなの記憶が別の出来事で塗り替えられる事を祈ろう……。