【ゴーレムの国4】断罪の儀
ラビィがメルギトスに滞在して3日目。
国の中央広場に続々と人が集まっている。こんなに人が居たのかと思うほどの人数が広場に集まっている。その人々の顔は思いの外明るい。
「王子の演説、楽しみだわ」
「ああ、今月はどのような政策を打ち出してくれるのか楽しみだな」
人々の会話が聞こえる。王子は国民からの支持率が高いようだ。
それにしてもこれは異様だ。と、ピエロ人形は辺りを見回す。聞いた話だと、しばらくした後、王子の演説があり、罪人の処刑がある筈だ。如何に支持率が高いからと言って、人殺しをする人間の言葉をこんな雰囲気で聞けるものなのか?と思う。
「ラビィ様、こちらです」
メイが人混みとは別の豪奢な服を着た王宮使えの役人達のいる建物に案内した。
「ここは?」
「貴族や、王子の護衛達が控える建物です。さすがにラビィ様を民衆と同じ扱いは出来ませんから、役人と共に壇上より王子の側で演説を聞いてもらえるように手配いたしました。私は国王直属のゴーレムですので、それくらいの特権は持っています」
メイが説明する。心なしかメイの表情が固い。感情があると分かったが、やはり他の護衛の前ではそれを見せるのは憚れるのか。
「うう…… 民衆と一緒で良かったのに。また偉い人と一緒の場所なんて、どうしたらいいかわかんないよぅ」
ラビィは早くも弱音を吐き出している。救いを求める目でピエロ人形を見るが、ピエロ人形は人形の振りをして動かない。そんな態度にラビィはピエロ人形の頬を摘んで反撃する。
「シェム王子の御成である!」
声が響くと、一同は皆片膝をつき頭を垂れる。取り残されたラビィは「え? えっ?」と周りの対応に狼狽るだけであった。
「貴様、王子の前で無礼であるぞ!」
王子の護衛が立ったままでいたラビィに怒声を浴びせる。
「よい。王直属のゴーレムが共にいるということは、主が始まりの王国から遣わされたという魔術師か?」
護衛の言葉を止め、豪奢な服を着た、どことなく国王の容姿に似た男がラビィに視線を向ける。どうやらこの男がシェム王子なのだろう。精悍な顔つきに、すこし神経質そうな視線。ラビィは首肯して応える。
「父より聞いている、余の言葉を確と聞き、我が国が幸福に満ちた国と認知するがよい」
自身に満ちた笑み。これから処刑を行うとは思えない。
「でも、人を殺すのは、ダメなこと」
ラビィはまっすぐ王子を見据えて言う。瞬間、そこにいた全ての者の視線がラビィに突き刺さる。殺気にも似た、射抜くような視線。そかし、ラビィはたじろがない。
「皆もそんなに殺気立つな。この後の国民の反応を見れば魔術師様も考えは変わるだろう。罪人の断罪も国を治める者の使命だとな」
ふっ、と笑みを残して王子は広場へ出る扉へ歩みを進める。扉を開けるとそこは広場中央の高台となっていた。王子が一歩踏み出すと、集まった国民の歓声が響いた。
「ラビィ様、私達も行きましょう」
王子の後に続き外に出る貴族や役人達。メイの言葉を受けて、ラビィはそれに続く形で広場に出た。
高台からは広場の様子が一望できた。広場には所狭しと国民が詰めかけており、王子に向けて熱気を孕んだ羨望の眼差しが集まっている。王子が片手をあげると、騒ついた場が静まり返る。
「皆も者、よくぞ集まってくれた」
魔力によって拡声された王子の言葉が広場に響く。そして、王子の演説が始まる。
農作物の輸出が順調であること。
今年は豊作で、さらに国に利益が見込まれること。
そして、労働力の増強として5体のゴーレムを新規製造し収穫作業に配置するという事を大仰な身振りを交え王子が語る。
さすが帝王学を学んだ政のプロだと感心するほどの演説である。ラビィにも見習って欲しいと、ピエロ人形はラビィの様子を見るが、溜息をつく事になる。ラビィはうつらうつらしており、時たま巻き起こる国民の歓声に意識を取り戻し、はっとなるを繰り返していた。ちょうど王子が視線をこちらに向けるタイミングが歓声が上がった後だったため体裁は整ってはいたが、その時にラビィが気難しそうな表情をしていたのは、ただ単に寝ぼけて現在の状況を思い出そうとしていただけである。多分だが、王子からしたら、演説を聞いて思うところがある、みたいな意味深な表情に見えたであろう。まあ、結果オーライなのだが、ちゃんと交渉術を学んで欲しいところなんだがな、とピエロ人形は呑気なラビィの顔を見返した。
それにしても、この状況は異様だ。と、ピエロ人形は広場を見渡す。熱を帯びた歓声。演説が終わると、国民から「シェム王子」コールが巻き起こっている。そこまで大きな成果を上げているとは思えないのに、この熱気。不安がよぎる。
王子が手を挙げると、コールが止む。
「断罪の時間だ。この国を陥れようとした思想犯グループの者共を今日、この場で断罪する」
その言葉に湧き上がる歓声。奥から手足を拘束された男を両肩に担いだアイアンゴーレムが三体出てくる。担がれた男は皆やつれており、生気が感じられない。投獄中の扱いが酷かったことを思わせる。アイアンゴーレムは、無造作に王子の前のスペースへ、罪人の次々とを投げ落とす。そこには《魔法陣》が描かれていた。
「うっ……」
その衝撃に、投げ落とされた男の1人の口から呻き声が漏れる。他の男達は衰弱しているのかピクリとも動かない。
呻いた男は、顔を上げ辺りを見回し、絶望の表情を浮かべる。
「罪深き罪人共よ。これより断罪の儀を執り行う」
王子が宣言すると、広場から歓声が湧いた。
「これ、どういうこと?」
ラビィの口から疑問の言葉が漏れる。おかしいのだ。人を殺す行為に対し歓声が上がる。人の為に生きているラビィからしたら、信じられない光景が広がっている。この国は、国として殺人を行なっているのだ。
(こいつら、国ぐるみで生贄魔術を行なってる、いや、あの魔法陣は、強制的に生きた人間を魔石化させているのか)
念話でピエロ人形がラビィに語りかける。
「国民のみんな! 気づいてくれ! ゴーレムを使わずに働こうとした者を思想犯と呼んで殺す、こんなことを続けていたら人は堕落し国は滅びてしまう!」
「黙れ!」
男の言葉を、王子の一喝が黙らす。男の周りに空気の振動を無くす空間を作り出す《沈黙》の魔術だ。男の声は搔き消え、国民の歓声がそれを塗りつぶす。最期の訴えを、常人には抵抗不可能な魔術で封じられ、男の表情が絶望に染まる。
「これは、ヤバイな。ラビィ、直ぐにこの国を出るぞ! ゴーレムを手に入れる、なんて言ってる場合じゃなくなった」
ピエロ人形は念話で話すことを止め、ラビィに指示する。しかし、ラビィは首を横に振り断る。
「あの人達を助けなきゃ」
ラビィは腰に装備した短杖を抜き構える。その短杖の先には《賢者の石》と呼ばれる赤い石が付いており、ラビィの願いを魔術として具現化するのだ。人の力ではあがらう事が出来ない《悪魔の能力》を振るう魔術師、それがラビィの正体なのだ。
「やめよ!」
ラビィが願いを込め、その場を収めようとした瞬間、広場に声が響く。それは一昨日に聞いたセフェル王の声であった。その声に皆動きを止め、静寂が訪れる。振り返ると、そこにはメイド姿のゴーレムに車椅子を引かれたセフェル王の姿があった。その後ろには4体のメイド服を着た人体ゴーレムが続く。
「父上。どうしてここに?」
ます、口を開いたのがシェム王子。
「シェムよ。儂の言葉に耳を貸してくれぬか?」
優しい父の顔で語りかける。
「分かりました。でも、やめよ、とはどういう意味ですかな?」
怪訝そんな表情でシェム王子が、セフェル王を見返す。先程まで熱気を帯びていた広場が静まり返る。
「大切な国民をこれ以上、裁くのは止めるべきなのだ。シェム、お主もわかっておろう。このまま国民を裁き続けたら、国のバランスが崩れてしまうことを」
静かに、しかし力強く響く。
「しかし、この国の発展の為には更なるゴーレムが必要不可欠です。その為には罪人を魔石に変えるこの儀式は止めることはできません。父上は、この国の発展を止めろと仰っているのですか!」
直ぐ様、王子が反論する。広場の国民からも騒めきが起こる。
「だから、そうは言っとらんのだ。もう一度言うぞ」
セフェル王の唇がグニャリと歪み、笑みが浮かぶ。
「大切な国民を裁くのを止めるべきだ、とな」
ゆっくりと言葉を紡ぐ。それが何を意味しているのか、一拍遅れて皆が理解する。大切な国民を裁くな。それは即ち、国民以外を生贄とせよ、とと言うことを――
「ラビィ、早く魔術でこいつらを――」
「5号!」
ピエロ人形が慌てて叫ぶのと同時にセフェル王の命令が飛ぶ。ピエロ人形の言葉が言い終わる前に、ラビィが反応する前に、隣に居たメイが神速で動く。左手でピエロ人形の目と口を塞ぎつつ人形を、右手ではラビィの持つ短杖を瞬時にラビィから奪い去った。
「えっ? メイちゃん? ドンちゃん!」
ラビィの狼狽えた声。視界と口を塞がれたピエロ人形は抵抗出来ない。
「《悪魔》と《賢者の石》と思われる石を確保しました」
感情の籠らぬ声でメイが王に報告する。
「くくく、良くやった。その娘を捉えて魔法陣の中に放り込め!」
セフェル王が命令を飛ばすと、王の後ろに控えて居たメイド姿のゴーレムがラビィを襲う。慌ててラビィは身構えるが戦闘能力の差は歴然であった。一体のゴーレムがラビィの腹部に拳の一撃を入れ動きを封じたところで、残りの2体が両手と両足を拘束具で拘束した。
「か、はっ……うっ…」
ラビィの呻き声に、ピエロ人形が激怒する。この国の皆殺しは決定だと、メイの手を振り払おうとするが、強力に押さえつけられた手を振りほどく事が出来ない。怒りの声も、メイの手によって口を塞がれており、くぐもった音が響くのみであった。
「5号よ。《賢者の石》をこちらに…」
セフェル王が欲望に染まった顔で手を差し出す。
「申し訳ございません。悪魔の抵抗が想像以上に激しく、暫く行動が出来ません。拘束が緩めば視線や声を媒介に国民全体に恐怖を振り撒く可能性が高いです。先に魔術師を始末して頂ければとっ」
メイの言葉は、いつもの淡々とした口調と違い焦りの色が滲んでいた。
「ふん、そうだな。主人が居なくなれば悪魔も抵抗を諦めるだろう」
「始まりの王国から遣わされた魔術師となれば膨大な魔力を秘めているであろう。国民よ、断罪の儀を執り行うぞ!」
セフェル王に続き、シェム王子が宣言すると、国民から狂気にも似た歓声が上がる。
「メイちゃん…なんで……」
魔法陣の中心に投げ下ろされたラビィがメイに視線を向ける。裏切られたのにもかかわらず、それでも相手を信じ続ける純粋なまっすぐな瞳。
「前も伝えたはずです。私はセフェル王の所有物であると」
メイは冷たい言葉を返す。ラビィの表情が悲哀の色に染まる。恨みや憎しみの感情はなく、ただただ悲しみにくれるその表情に、メイはいっそのことならば恨んでくれたならば良かったのにと思う。
王子の呪文詠唱が始まる。王子の魂が削られ、魔力に変換されたエネルギーが魔法陣を起動させていく。更に、広場に集まった国民もそれに続く。複数人で行う集団魔術。人数が多いほど一人当たりの魂消費量が減るため、効率の良い魔術なのだが、まさか国民全員が魔導師であることはラビィ達も気付かなかったのだ。魔法陣に魔力が満ちるに連れて、ラビィの肌が結晶化し始める。
「こんなのって、ないよ……」
パキリとラビィの頰の一部が結晶化する。魔法陣に完全に魔力が満ちれば、一気に全身結晶化し、圧縮され一欠片の魔石に変化する。しかし、魂を持たないラビィが結晶化しても魔力を孕まない、只のガラス玉になるのだが、それを誰も知らない。
「ははははは! 始まりの王国の魔術師も大したことないな!我が国の資源となれ」
セフェル王の言葉とともに魔法陣に魔力が完全に満ちる――
その瞬間、想定外の事態が起こる。魔法陣が砕け散ったのだ。限界まで込められた魔力が光の粒子となり拡散し、爆風となって捲き上る。その中心にはラビィと――
短杖を突き立てたメイの姿があった。
メイは、ラビィの姿を確認すると、地面を蹴る。短杖を腰に仕舞い、倒れ臥すラビィを抱えて大きく跳躍した。
「死ね!」
更に、拘束が解けたピエロ人形の威圧を込めた声が響き、広場は恐慌状態、大混乱に陥った。
そんな広場を背に、メイはひた走る。
「おい。これはどういう事だ?」
怒りが収まらぬ声でピエロ人形が訊く。
「私は命令違反を行なっております」
淡々としたいつもの口調でメイは応える。絶対服従の拘束がかかる全身の魔力回路を無理矢理に逆らって行動しているため、想像を絶する激痛が全身を駆け回っているのだが、それを表情に出さずメイは言葉を続ける。
「この街道を真っ直ぐ行った国境の城壁の裏に錠を解除した魔動二輪機を用意してあります。ドン様、ラビィ様が目覚めらそれを使ってこの国からお逃げください」
チラリと担いだラビィを見る。魔法陣破壊の時に、運良く手足の拘束具も破壊されたようで手足が自由になっている。結晶化が始まっていた肌も元に戻っており、普通に動けるだろう。
「うっ…あれ、ここは? あれっ、メイちゃん」
気を失っていたラビィが眼を覚ます。
「メイ、お前はどうするんだ?」
ピエロ人形がラビィのとこは構わず、問い返す。
「多分私はあと少しで処分されるでしょう。ですので、ドン様、ラビィ様を頼みます」
「何を言ってるの? メイちゃん、一緒に行こうよ」
まっすぐな眼で見つめられ、この瞳に心動かされたのだと認識する。一度裏切った自分を、真っ直ぐ信じて見つめる瞳に、メイは笑みを返す。瞬間、メイの胸の中でバキンと何かが砕け散った。全身を駆け巡っていた痛みが消え、力が抜けていく。高速移動していた為、バランスを崩しそうになるが、最後の気力を振り絞って減速しラビィを地面に降ろす。それが最期の力であった。
「遠隔魔術にて、私のコアが破壊されました…もうすぐ、私の意識は消えます……」
メイが地面に倒れ臥す。
「メイちゃん! メイちゃん! 死んじゃ嫌だよ!」
ラビィの声。肩を揺すられているようだが反応はできない。視界が霞み、感覚も消えゆく中、しかし頰にポタポタ落ちた暖かい感触が何なのかは理解ができた。ラビィの涙だ。こんな私のために泣いてくれる人がいたのだ、薄れゆく意識の中、嬉しく思う。思い出されるのはここ数日に体験した出来事のみ。子供の様に笑い、怒り、泣く、愛おしく眩しい存在。もう、伝わらないかもしれない。言葉にならないかもしれない。それでも、メイは最期の力を振り絞って言葉を紡ぐ。
「貴方に会えて、幸せでした。最期に呼ばせて下さい――」
ずっと言いたかった言葉。眩しい笑顔で「お姉ちゃんって呼んでくれてもいいからね」と言ってくれたラビィを想い唇を動かす。
「姉、さん……」
それだけ言葉にすると、メイと呼ばれたゴーレムは動きを停止する。
「メイちゃーーーーーん」
ラビィの絶叫がこだまする。
「ラビィ、行くぞ! メイの作ってくれたこの機会を無駄にするな」
ピエロ人形のゲキが飛ぶ。
「この道を真っ直ぐ行けば、メイが脱出手段を用意してくれている」
ピエロ人形が言う。ラビィは数秒、何かを言いたげに沈黙したが、大粒の涙を振り払って「うん!」と応えて走り出す。
メイの速さから比べると遥かに劣るが、それでもラビィは息を切らせて街道を走る。
暫くすると国境の城壁が見えてくる。あと少し。あと少しと言うところで、ピエロ人形の目に最悪の光景が映る。後方から追うメイド服姿のゴーレムの影が見えたのだ。
「くそっ、追いつかれたか!」
ピエロ人形が舌打ちする。追ってくるゴーレムは5体。うちの1体が銃を抜き放つ。
「ヤバイ。ラビィ、避けろ」
ピエロ人形の声と、遠くで響く銃声が同時であった。
「あうっ」
悲鳴と共にラビィが地面に倒れる。撃たれた。見ると、ラビィの左外腿に一筋の裂傷が出来ていた。幸い掠っただけだが、動きを封じるには十分な傷である。
すぐさま残り4体も銃を抜き放ち、近づきながら今度は5体同時に発砲する。絶対絶命、回避不能。と思われた瞬間、ラビィの前に巨体が現れる。ストーンゴーレムだ。たまたま、歩いていたストーンゴーレムに弾丸が命中しラビィを守る様な形になったのだ。ストーンゴーレムは弾丸が当たったことで、異常と判断したのか、ラビィの前で立ち止まり、ラビィの壁となる様な位置で停止する。運が味方をしてくれた様だ。
「ラッキーだな。今のうちに傷を治せ、ラビィ」
この好機を逃すまいとピエロ人形が指示する。
「うん」
ラビィは頷き、魔術で傷を治そうとするが
「そこをどけ「石の3564番」」
セフェル王の声が響く。どこから、と見回すがセフェル王の姿はない、代わりにメイド服のゴーレムがストーンゴーレムを囲んでいる。
「どけと言っているのだ」
メイド服ゴーレムの1体、セフェル王の車椅子を押していた「人の1番」と呼ばれた個体だ。どうやら憑依の魔術で遠隔操作している様だ。それにしても、このストーンゴーレムは何故動かないのか。よく見ると各部関節が球体となっている。もしかすると、前にゴーレム力車を引いてくれたお礼に球体関節に換装してあげた1体なのでは。
「こいつはラビィが球体関節にしてやったストーンゴーレムだ。俺様たちに恩返ししてくれているみたいだ。今の内に魔術で」
「ごめん。ドンちゃん……」
ピエロ人形の言葉を、ラビィが遮る。
「短杖…メイちゃんが持ったままだった」
そして、ラビィが衝撃的な言葉を発する。
「はぁー? なんだとっ」
振り返ると、ラビィは困り顔で泣笑状態になっていた。
「貴様も欠陥品か! 全員、呪詠銃を魔術モードで一斉掃射!」
セフェル王の命令と共に、銃声が響く。《硬化》と《破砕》の効果を混ぜだ魔術が凝縮された魔力の弾丸がストーンゴーレムを襲い、石のゴーレムは透明なガラスと化して粉々に砕け散った。
「くそっ、逃げるぞ!」
「ごめんね、イッシーくん!」
踵を返し、走り出すが右足の裂傷が思いのほか深く数歩で倒れこむ。
「魔術師に魔術は危険だ。実弾モードに変更!」
セフェル王の声。ラビィは何とか立ち上がるが、銃に対する対処が間に合わない。
「魔石として資源にしたかったが、仕方ない。始まりの王国に報告されるのは困るのでな。ここで確実に死んでもらう。実弾モード、全弾斉射!」
号令と共に幾重にも重なり鳴り響く銃声。無常なる弾丸がラビィに降り注いだ。