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【プロローグ4】魂の定義

――(たましい)――

 それは万物に宿り、心の働きを司るもの。命の根源である。

《魔術》はその魂を消費し、超常を起こす秘術である。命を削るその行いは禁忌とされ、神によって秘匿とされていた。

 しかし、1柱の天使が、人に騙されその技術を教えてしまう。

 天使は神の逆鱗に触れ、悪魔に堕ち、神に見放された原因となった人間を憎むこととなる。

 一方、魔術の知識を得た人間は神の神罰と悪魔の復讐を恐れ、最初の魔術で神と悪魔を天使諸共精神世界へ封じてしまう。その代償で僅かな寿命となった人間は、魔術を封印し自らの力で文明を築くこととなる。それは神の望んだ化学と医学が発達した、魔術に頼らない世界であった。しかし、大きすぎた探究心が化学の禁忌を犯す。質量消失を代償に莫大なエネルギーと毒素を生み出す核のチカラだ。そして、熟れすぎた果実が落ちるが如く、世界は崩壊の日を迎える。

 崩壊した世界で人は、事もあろうに魔術にて悪魔を召喚してしまう。短い寿命で世代交代を繰り返した人間に悪魔の記憶は残っていなかった。


 そして、悪魔の復讐が始まる。


 魂を奪い合わせる様に悪意(どく)を混ぜた魔術の知識(りんご)を人に与え、集まった魂を奪い取るよう企む。

 自分を召喚した人間は狙い通り魂を集め欲望に濁った魂を孕ませていた。10年で欲望に塗れなければ奪わなかった、なんて言ったがあれは人間を絶望させるための嘘だ。どんな結果であれ、人間から魂を奪い取ることは変わらなかった。

 次の獲物として1人の少女に狙いを定める。

 肉体に定着した魂は「契約」を介さなければ引き剥がすことは出来ない。

 過去に人間が自分を騙し神の隠していた秘術を聞き出した時と同じく、しかし今回は逆の立場で、言葉巧みに「契約」を取り交わし「魂」を奪い去った。

 筈であった――


「ねえ、ドンちゃん。遊ぼう」


 少女が語りかける。

「っ?!」

 その言葉に悪魔は絶句する。

 ありえない。ありえない言葉なのだ。

 確かに契約は成立した。魂を奪い去ったはずなのだ。聞こえてくるのは少女の絶叫のはずである。なぜ、そんな少女の言葉が聞こえたのか理解ができない。

「どうしたの?」

 キョトンと見下ろし、少女は首を傾げる。

 悪魔は言葉が出ない。

 自らの魂を人形に移した際に、本体を結晶化し、1つの命令を残した。

《持った者の願望を叶え、代償に魂を奪え》

 と――

 少女は願いを叶え魂を喰われ、自らの魂は「少女の魂を奪う」という願いを叶え本体に戻る予定であった。

 どうして目の前の少女は生きている?

 なぜ自分は人形のままなのか?

 欲望がなく色が見えなかったとしても生あるもの万物すべてに魂はあるはずである。人であれ、動物であれ、植物でさえも――

 そこで、悪魔は気づく

「ホムンクルス……」

 人が造り出した()()人間。神の作り出した摂理から外れた存在。

 まさか、魂を持たぬ存在なのか?

 そう、魂とは生を授かりし万物――つまり、神の被造物に与えられしものである。人の造り出したものであっても、神の被造物が元となっていればそこには魂が宿る筈である。神の摂理を科学で再現した複製人間(クローン)もそうだが、先程悪魔が生み出したホムンクルスも、悪魔の魂を分け与え命を与えたため擬似的であるが魂は宿っていた。しかし、目の前の少女は魂の存在が感じられない。純粋で透明で見えないだけかと思っていたが、今なら分かる。この少女には魂が宿ってないのだ。

「まさか、完全に人によって造られたものなのか……」

 ゼロに近い、しかしゼロではない確率の、奇跡のような事象である。しかも――

「どうしたの?ドンちゃん。笑ってよ」

 少女は柔らかく笑う。

――この少女は感情を持っているのだ。

「は、ははは…」

 もう、笑うしかない。自棄になり笑い声が漏れる。

 叶わぬ願いを自身に掛け、力を持たぬただの人形となってしまったのだ。こんな不幸、あり得るのか。

「良かった。笑ってくれて。友達、いなくなって、独りぼっちに、なる、かと思った」

 少女の瞳から一粒、涙が溢れた。

 その涙に悪魔の乾いた笑い声が止まる。悪魔に今までに感じたことのない感情が渦巻く。

 それが何なのか、悪魔には理解できない。

 生まれてすぐ、何も知らぬ間に一人となってしまった、心を持つ人造人間(にんぎょう)。悪事の果てに、全ての能力を失った悪魔の魂が入った(にんぎょう)。何もかも失ってしまった二人だからこそ、感ずるものがあったのだろうか。悪魔はその感情が何なのか分からぬもやもやを「ちっ! 仕方ないな!」と悪態を吐くことで吹き飛ばす。

 少女は目を丸くして悪魔を見る。

「安心しな。俺様がずっと《ラビィ》の友達でいてやるよ。だから、泣くな」

 悪魔はぶっきらぼうに言い放つと、軽快なステップでダンスを踊る。道化のように、軽快に、滑稽に、相手の笑顔を作るために。

 しかし、少女の目に更なる涙が溢れた。

「泣くなと言ってるだろ! 俺様のダンスはそんなに悲しいか?」

 不機嫌に言う悪魔に、少女は首を横に振る。

「初めて、名前、呼ばれて、嬉しいのに。涙が出てくるの」

 少女は涙でくしゃくしゃになりながら精一杯の笑顔を浮かべる。

「ふん。ワケが分からないな!」

 悪態を吐きながらも、ダンスは止まらない。

「うん、ワケ、分からないね」

 少女は笑顔のまま涙をぬぐい続け、悪魔は少女が泣き止むまで踊り続けた。


 悪魔はまだ気づいていない。先程生まれた感情が何だったのかを。

 科学と魔術が歪に混じり合う世界で生まれた、歪な(とくべつな)感情。


 これは――

 人を憎み続けた悪魔(にんぎょう)

 人に造られ人を愛する純粋な人造人間(にんぎょう)に恋をした物語なのだ。


 人形たちの不思議な物語(ワルツ)がここから始まるのであった――


やっとタイトルの意味ところまで来ました。

どうして「どーるず」と複数形なのか、うまく伝えられたなら幸いです。


ここが書きたかったシーンの、最初の部分でした。

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