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【ゴーレムの国2】国王との会談

 その国は緑の木々と金色の稲穂に彩られていた。

 殆どの国が科学技術に特化した近代化に走る傾向が強いこの時代に、農業に特化された国は稀であり評価に値する、と元悪魔であるピエロ人形は感心しつつ風景を見回す。


「ねーねー。すごいね。金色だよ。これお米ってやつだよね」

 銀髪を棚引かせてラビィが小声で呟く。


(ああ 、旧世界では主食としていた国があったな。栄養価豊富でどんな副菜にも合う万能な食料だ。麦に比べ育成が難しい植物だが上手くゴーレムの労働力を活用して栽培してるみたいだな)

 念話でピエロ人形が応える。


 手のひらサイズの人形が喋るとなると奇異の目で見られてしまうため、余計な問題を避けるためにも街中ではただの人形のふりをしているのだ。

 しかも、今は入国したばかりで、さらに役人に案内されている途中である。

 入国審査時に身分証のカードを見せた途端に、やる気なくやりとりしていた役人が飛び上がり慌ただしく連絡をし始めた後、国王と謁見することとなった。

 おいおい、即日国のトップが謁見とはどんだけ暇してんだよ、と思ったが、始まりの王国からの魔術師がいきなり現れたのだ、逆に全ての予定をキャンセルした可能性もある。

 いやはや入国の目的は審査時にラビィが答えた通り「観光だよ」なので、そんなに大仰な対応は必要ないのだか……


「魔術師様も驚かれましたかな?

 我が国は農業に力を入れてまして、と言っても働いているのは皆ゴーレムのなんですけどね。王との面会の際には食事も用意されていると思いますので、楽しみにしていてください」

 案内役のでっぷりと太った役人が恵比須顔でラビィに話しかける。先ほどの呟きを自分に話しかけられたと勘違いしたようだ。非常に鬱陶しい。

 現在、ラビィ達は役人に案内され王宮へ向かっている。

 案内されると言っても、石魔人形(ストーンゴーレム)の引く人力車、いやゴーレム力車で向かっている。

 整備された道を早くもなく遅くもない景色を眺めるには丁度いい速度で移動する車。

 乗り心地抜群の造りでははあるのだが、快適かと言われると微妙である。

 一応、車輪は空気を内包するチューブを使い、衝撃吸収素材で覆われた最新鋭のものあり、座席も余裕を持った二人乗りの造りである。

 快適でない要素はそこにはない。不快となる要素は隣に乗ったオッサン。

 貴賓である客を案内する大切な役目なのは分かるが、いかんせん体積が大きい。

 余裕をもった二人乗りの座席の半分以上を占有するその物量に若干の、いや相当の殺意が沸いてくる。


「美味しい食事…… 楽しみだよー」

 と、嬉しそうなラビィの反応がなければ、思いついた殺害方法のどれかを実行に移していたかもしれない。


 そんな、ピエロ人形がら発せられる負のオーラを察してか、ラビィは風にはためくピエロ人形を手に取り「いい子、いい子」と頭を撫でる。

 そんな簡単なことで機嫌が直るか! と憤りはあるが、まぁ仕方ないと心を落ち着かせる。


 肥満の役人は「そうでしょ、そうでしょ」と頷きながら話を続ける。


「王が統治していた時代はゴーレムの数が足りず人手が必要で、我々も汗水垂らして労働したものですが、代が変わり、王子の代になり更に国が一気に発展したのですよ。ゴーレムの基礎理論を作った王も素晴らしいですが、王子はそれの更に上をいくゴーレムの安定生産を成功させたのですよ! 見てください。その成果で生み出されたゴーレムが、この国の労働の殆ど全てを賄う理想郷に近い国が出来上がったのですよ」

 得意げに喋る役人。途中から熱意がこもり、嬉しそうに贅肉だらけの全身を震わせての説明が続く。

 しかしながら、その体型はなんとかならないのかと思う。いくら便利になったからと言っても、もう少し動かないとその全身を覆った贅肉はなんともならないぞ、と思う。

 何故だか汗だくで、全身でその言葉を表現する姿に気づかれないように溜息を吐き出す。

 汗まみれのオッサンの言葉を聞いても、なにも心に響かない。というのもあるが、もう一つ、引っかかる言葉があった。

 王子の功績の件りにて「ゴーレムの安定生産」と言ってう言葉。

 術式が確立して、いつでも追加できる状況になった、という意味なら分かるが、もし安定して生産し続けてというならば、それを成すための魔力はどうしているのか? いくら若い王子といえ、そこそこの知性を持ったゴーレムを1体作るのには、数週間はかかるだろうし、さらに同じくらいの魔力回復期間も必要となる。

 連続して行うとなると相当魂が消耗するはずである。手っ取り早く魔力を補填するならば、生贄呪術を使うのが早いのだが……なんだか嫌な予感がしてきた。

 まぁ、もしもの場合はこの国もろとも滅して仕舞えばいい。ラビィ以外の人間などどれだけ死んでもかまわないからな、とピエロ人形は邪悪に嗤う。


「ドンちゃん、なんだか悪い顔してるー」

 その両頰を引っ張ってラビィは無邪気に笑う。


 誰の為に気苦労してると思ってるんだ、と念話で不満をぶつけようとしたタイミングで乗ってる車が減速する。

 どうやら王宮の入り口に着いたようだ。


 目の前には石造りの大きな門がそびえ立つ。


 肥満体型の役人は誰もいないその門に向かって、自分の名と識別番号、そして貴賓を連れてきたことを告げる。

 すると、誰もいないはずの門から「認識、OK。入城ヲ許可スル…」と声が響き門が開いた。


「えっ、この門自体がゴーレムなの?」


「はっはっは。これは魔術師様も驚かれなしたかな? その通りです。初代国王の秘術で、この王宮自体にもいくつかのゴーレムが組み込まれているのですよ」

 役人の説明に、ラビィは「ほへー、すごいね」と間抜けた声を上げて仰天する。


 そのまま、ゴーレム力車は敷地内に入り、王宮入り口まで進む。

 ここで役人の役目は終わり、王宮の中は別の者が案内することとなった。


 変わった案内役は王宮勤の文官だと思うのだが、こちらも丸々太ったおばちゃんであった。


 このおばちゃんも案内がてら「今、この国ははすごく豊かになって、国民はみんな幸せに暮らしてるのよ」とにこやかに話す。

 途中、全身鎧に身を包んだ護衛兵とすれ違い、なんだ太った人間しかいないわけではないのだなと思ったが、よく見ると中身も鉄が詰まったの鉄魔人形(アイアンゴーレム)であった。

 やはり、太いのが人間、スマートなのがゴーレムという見分け方で問題ないようである。貴賓室に案内され、椅子を引かれ「こちらでお座りになってお待ちください」とにこやかに言われ、座って待つこととになる。


「すぐに王を呼んで参ります」


 そう言葉を残して部屋を出る女中。


 扉を閉じる音とともに静寂が訪れる。

「ねぇ、ドンちゃん。

 私どうしたらいいのかな?」

 現在の自分の状況を飲み込めていないラビィが椅子に座って固まったまま呟く。


「別に普通にしてればいいんじゃねぇの?」

 適当に言葉を返すと、ラビィは泣きそうな顔になる。

 本当に困っているようだ。仕方ないので、ため息混じりにちゃんとした答えを返す。

「この国の王は、お前がファウスト王国からの使者だと勘違いしてるみたいだな。だから王が来ても「この国はちゃんと運営されてます。民は皆幸せです」とアピールして来るだろうな…」

 ピエロ人形は冷静にこれから起きるであろう事柄を淡々と話す。

 ラビィはその言葉に頷いて返す。で、どうしたらいいの? というか心の声と共に。


「ならばラビィは「そうみたいだな。この国には問題なさそうだ」と偉そうに答えればいい。あとは、さっさとこの国を出ることだな」

 そう助言をする。


「うん。そうする。でも、なんですぐにこの国を出た方がいいの?すごく平和そうな雰囲気だったのに」

 ラビィは肯定した上で、質問を返して来る。

 助言に従うけど、その上で気になったことを聞き返して来たのだ。言いなりになるでもなく、不満を抱えるでもない、純粋な肯定と疑問。そんなまっすぐな反応に好意を持ちながら、ピエロ人形も思ったままの答えを返す。


「なんとなく、だ。なんとなくこの国はきな臭い。今まで案内してくれた役人2人が口を揃えてこの国は幸せで、不満はないと言った。そんな偏った意見、ありえない。具体的には言えないが、なにかこの国は歪んでいる。下手に関わってはいけないと俺様の直感がそう感じたんだ」


 直感。


 そんな不確定な要素の言葉を、ラビィはまっすぐ受け止めて「分かった、そうする」と答え、口を結ぶ。

 部屋の外から足音が近づいて来たのだ。

 ラビィは姿勢を整えて、深呼吸する。足音が部屋の前まで来ると、取っ手が動き扉が開かれた。


 入ってきたのは車椅子の恰幅のいい老人と、それを押す若い女性。

 豪奢な服を着た老人が多分国王なのだろう、ラビィの銀髪とは異なる色素が抜け生気を失ったような弱々しい白髪と、深く刻まれた皺。しかしその瞳は優しく淡い光が宿っていた。


「魔術師殿、よくぞ我が国に参られた。メルギトスの王、セフェル=メルギトス、心から歓迎する」


 白い髭を蓄えた唇が動き、歓迎の言葉が紡がれる。


「ご丁寧に、ありがとう、だよ。私はラビィ=リンス。いろんな国を旅して回ってるんだ、じゃなくて、です」

 この様な場に慣れていないラビィが、辿々しく言葉を返す。


「ふぉっふぉっふぉ。そんなに畏まらなくてもよいですよ。魔術師様の立場は、一国の王と同等かそれ以上ですからな。それに儂は肩書きは国王となってますが、今や国政は息子シェムに任せており、隠居の身。気軽に話してくだされ」

 セフェル王は、口元を緩めて笑みを作って見せる。

 その言葉にラビィは「よかったー。じゃあ、気にせずに話すね。偉い人とはなすの、慣れてないんで、助かるよ。にひひ」と屈託のない笑顔で応える。


 恰幅の良い老人が予想通り国王であった。ではもう一人はと、後ろで車椅子を押すメイドに視線を移す。

 ビクトリアン型のメイド服に身を包んだ、青髪碧眼の美女はまっすぐラビィへ視線ん向け、無表情に佇んでいる。

 スリムな体型のそのメイドに、まさかと思い詳しく解析する。

 すると結果は魔術生命体――ゴーレムであった。

 ここまで人に近いゴーレムが造れるのか、と感心する。


「始まりの王国より依頼されて各国を視察されている様ですが、我が国はラビィ様にどのように映ったでしょうか?」

 セフェル王が単刀直入で問う。


「えっ、と…… 特に問題なさそうだ、かな?」

 ラビィがピエロ人形に言われた通りの言葉を返す。

 セフェル王の問いかけに対してのちゃんとした答えになってるか怪しい、微妙なやりとりとなってしまい、しばしの沈黙が訪れる。



 セフェル王にまっすぐな為政者の瞳で見つめられ、ラビィは「えっと……」と目を泳がせる。


「ふっ、ラビィ様は嘘が苦手なようですね。さすがに一国の王を前に正直な事は言えない、といったところですかな。始まりの王国がそんな意味のない依頼を視察人にする訳はないですからね……」

 真剣な表情を崩してセフェル王は車椅子に背をもたれる。

 好々爺といった雰囲気だが、それはラビィが魔術師だからであろう。一般市民が同じように王に対して嘘を付いていると判断されたなら厳しい処罰が待っている。

 それだけ魔術師の地位が高いことを物語る。

 さらに扱う魔術によっては一個で軍隊並みの戦力としても扱われることもあるのだ。肩書きに助けられたな、と能天気にごまかし笑いをするラビィを見やった。


「始まりの王国から我が国の状況を聞いているのでしょう。私もこの国の状況に思うところがありますからな」

 セフェル王のはため息混じりに呟く。


 このままだと、この国の面倒ごとに巻き込まれてしまいそうだ。慌ててラビィに退席するように助言しようとするが


「おっと辛気臭くなってしまいましたな。ラビィ様はお食事はお済みでしょうか?もしよろしければ、食事を交えながらの会談というのはいかがでしょう?」


「うん。お腹ぺこぺこ」


 セフェル王の言葉に、文字通り食いつくラビィ。


 よだれをすするラビィの顔を見て、これは無理やり退席させるのは困難だなと悟る。


 王が合図すると、扉が開き複数のメイドが料理を運んできた。


 今度は皆、フレンチタイプのメイド服である。


 運ばれて来た料理は、野菜根菜が中心の、サラダ・炒め物・煮物・スープと種類豊富な料理が並ぶ。

 いくつもの国を回ってきたが、この時代では最高クラスの料理と言っていい。料理に目が釘付けになるラビィ。しばらくすると、ソワソワし始め、セフェル王にチラチラと視線を送りはじめる。


「召し上がってもらって、構いませんよ」


 セフェル王のその言葉と同時に、火がついたかのように料理を食べ始める。


 バクバクと食べるその姿には品のかけらもない。

 後で一から食事のマナーを叩き込まないとダメだなと嘆息する。


「んん〜っ! これ、これは?」

 フォークに刺さった人参を掲げて、セフェル王に視線を向ける。


「人参は、口に合いませんでしたか?」

 と慌ててセフェル王が答えるが、ラビィは「人参っていうのかー。これ、うまー」と言って、また怒涛の勢いで食事を再開した。


「あの、ラビィ様はどのような魔術を得意としているのですかな?」

 話を再開するタイミングが見計らって、セフェル王が質問を投げかける。


「ん? ん〜……」

 ラビィは食事の手を止め、唸る。


 口に物が入っていて喋れないのか、答える語彙がないのか、王の後ろに佇むメイド型のゴーレムの視線が鋭くなる。


 さすがにこれだけ幼稚な反応を続ければ、本当に魔術師か疑われてもしかたない。

 一般の人間が魔術師を語り王を騙していたのなら死罪になってもおかしくはないのだ。

 ラビィに交渉能力を身につけてもらいたいと思っていたのだが仕方ない。ここは助け舟を出すしかないか……


「悪魔召喚だよ」


 そう答える。


 予想外の声にセフェル王は驚愕に目を見開き、後ろに立つメイドは警戒し身構える。

 ラビィの腰で只の人形のフリをしていた悪魔がテーブルの上に飛び乗る。


此奴(こいつ)を疑ったか?」


 ピエロ人形が問う。


 見た目は只の人形だが、その言葉とともに発せられた威圧に言葉を失う。


 ピエロ人形からすれば、これは威圧でもなんでもない。ラビィが疑われ、少し機嫌を損ねているが、それだけだ。もし本気で威圧したならば、普通の人間ならばその心は恐怖に塗りつぶされ発狂してしまうであろう。魔術を扱うセフェル王ならばもしかすれば耐えることが出来るかもしれないが。


 数体のゴーレムが王の危機と感じたらしく、扉を開け放たれ、部屋に飛び込んできて銃をピエロ人形とラビィに向ける。


 一触即発。

 部屋に緊張が走る。


 王の後ろに居たメイドも、王を衛るように前に出ている。


「おいおい、別に脅したいわけじゃないぞ」

 ピエロ人形は肩をすくめて見せる。


「だだの人形としては、今ので危機ありと反応したのは褒めてやろう。だがな……とりあえず、ラビィに向けてる銃を下ろせ」

 今度は威圧を乗せて言葉を解き放つ。


「早く銃を下ろせ!」


「ドンちゃん!」


 ラビィとセフェル王の声が同時に響く。

 ラビィは慌てて、目の前のピエロ人形を掴む、というか握りつぶっていた。


「だから、なにもしないって言ってんだろ……

 ったく……」

 ラビィに握りつぶされて、ピエロ人形が愚痴る。


 メイドた達もすぐさまに銃を下ろしていた。


「これは失礼致しました。お前達、下がって――」

「いや、こいつらはここに残せ」

 退室を命じようとしたセフェル王の言葉を止める。


 セフェル王は、ピエロ人形に真意を問うことはせずに「扉を閉めて、後ろに控えよ」と命令を変更する。


「話の続きだ。ラビィが行った悪魔召喚は未熟で、呼び出せたのは俺様の精神体のみだ。

 残念なことに俺様にはこの世界に干渉する力は殆んど無い」

 威圧し恐怖を植え付けることはできるが、それは感情を持つ人や動物に対してのみだ。

 直接的な戦力や、奇跡を起こすといった世界への干渉力は皆無と言っていい。

 むしろ、感情を持たず、超人的な戦力を誇るゴーレムは天敵と言ってもいい。


「だが、始まりの魔術師が得たのと同等の知識がここに詰まってる」

 ピエロ人形は親指で頭を指して口角を上げてみせる。

 世の中、ハッタリが大切なのだ。ゴーレムの戦力には敵わない、なんて馬鹿正直に言う必要はない。


「……」


(お前は腹芸できないんだから、俺様に話を合わせろ)


 ラビィがなにか言いたそうだったが、念話で釘を刺す。


 ラビィが言いたいのは、戦力云々では無く、ラビィと悪魔の関係についてだろう。その辺は複雑なので、ラビィが悪魔を中途半端に召喚したと言うことでいいだろう。


(腹踊りじゃねぇぞ。腹の探り合い、政治的な交渉って事だ。出来るのか?)


 不満気にお腹をさすっているラビィに、念話でツッコミを入れる。


 それを聞いたラビィは納得したのか「無理。ドンちゃんよろしく」という意味を込めた視線が返ってきた。


「ふん。俺様達が本物だって納得したなら、それでいい。

 で、そちらも、この国の状況について思うところがあるって言ってたな?」

 シュガーポットに腰掛けてセフェル王に視線を向ける。


「はい。現在、この国は息子シェムが国政を担っているのですが、息子の代になってからゴーレム生産量が大幅に増えたのですじゃ……」

 困った様に口髭を扱きながら重々しく語り始める。


「そうだな。入国したてで少ししか見ていないが、この国にはゴーレムが多すぎる。そのシェムって王子がゴーレム生成を行なっているのか?」


「はい」


「その王子の魔力のみで生み出してる訳ではないよな?」


「ご明察通りです。

 息子は生贄呪術を行なっています。

 儂の頃はゴーレム生成数に制限をかけて、王宮魔術師総出で集団魔術を行なっていましたのですが……」

 そこで一度、言葉を途切り

「息子は刑務所に捉えた犯罪者を使って、安易に魔力が手に入る生贄呪術に手を出しています…」

 目を伏せ、絞り出す様にセフェル王が言葉を続ける。


「別に犯罪者の命なら構わないんじゃねぇか?」


「ドンちゃん。悪い人でも人殺しは駄目なんだよ」

 ピエロ人形の言葉に、ラビィが意見する。


「最初は凶悪犯罪者の断罪という名義で毎月処刑していたのですが、今はそんなに重くない罪の犯罪者も処刑するようになってしまっています。

 これ以上息子の行動がエスカレートする前に、どうか魔術師様と優秀な悪魔様のお知恵をお貸しいただければと。

 何とか息子の暴走を止めたいのです」

 セフェル王は国と息子の事を想い、唇を震わせながら嘆願する。


「知恵、と言われてもな。

 そんなもの、親がガツンと説教してやるのが一番だと思うのだがな…」

 正直なピエロ人形の言葉に、「ごもっとも、なのですが…それは既に試していて効果がなく…」と申し訳ない様にセフェル王が項垂れる。


「儂もかつてはゴーレムを研究し、ゴーレム生成の魔術を使っていました」


「ああ、そうみたいだな。後ろに控えるメイドはお前が生成したゴーレムか?」


「はい。しかし、此奴らの正体を見破るとは、さすがのご慧眼でございます」


「人とほとんど変わらない、人体錬成とゴーレム生成の混同魔術か…」


「その通りでございます。人体を構成している素材自体はそんなに貴重な物はなく、人と同じ素材の人形なら簡単に作れますので、それを利用してゴーレム生成を行った人魔(ヒューマノイド)人形(ゴーレム)でございます」


 なるほど、と王の後ろに控えるメイドを見遣る。


 ゴーレムの素材には泥、石、木、金属と様々であるが、人と同じ素材の複合有機物を基にゴーレムを錬成するとなると相当の知識と魔力が必要である。

 今は衰え、引退した身と言っているが、元は相当な魔術師だったと思われる。


「で、何か良い案があるのか?」


「はい。私が魔術を研究した中に《賢者の石》と呼ばれる完全なる物質の存在がありました。

 それは、この時代の動力源であり最高資源でもある魔石を上回る、至高の物質であるということです。

 それさえ手に入れば、生贄を捧げ続ける今のこの流れを止めることができると思うのですが、全知全能なる悪魔様、賢者の石について知っている情報はございませんか?」


「賢者の石って…」


(ラビィ!何も言うな)

 ラビィの言葉を、ピエロ人形の念話が止める。


「知識はある。製造方法も知っているが、あれは駄目だ。人の手の出して良い領分ではない。造りだすにしても、この国の国民全員を生贄にしても届かないものだと思え」

 脅しを込めた、厳しい口調で告げる。


「そ、そうでしたか。分かりました。

 やはり親である儂が何とか説得するしかありませんな……

 今月も明後日(ふつかご)に、息子が国の中央広場で処刑の儀を行う予定になっております。

 その時までになんとか説得できれば、これ以上の国民の犠牲は見たくはないのでな……」

 言葉を詰まらせるセフェル王。


「そうだな。俺様達も王子の暴走を止める手立てを考えてみるよ」

 言うだけはタダだ、と適当に話を合わせて話を終わらせる。

 横で「うんうん、なんとかしてあげなくちゃね」と大きく頷いているラビィに、やれやれと肩を竦める。


「で、だ。こちらからも王に頼みたい事があるのだがいいかな?」

 話も丁度ひと段落したので、こちらの要件を始める。


「しばしの間、俺様達はこの国に滞在しようと思うのだが、案内役として1体ゴーレムを借用したい。できれば、後ろに控えるゴーレムの中の1体がいい」

 この国に来た目的。

 それはラビィのサポートをする労力の確保だ。


 先程の行動。主の危険を察知し、自ら判断し行動したものの中に、自分らの探す個体、そこまでではなくても、それに繋がる個体がいるかもしれないと、先程この場に残させたのだ。


「あっ、じゃあ。あの娘がいい!」

 ラビィが王の後ろに控えるゴーレムの1体。皆、同じような青髪碧眼の顔立ちの中、右目の下に小さな泣き黒子があるゴーレムを指差して言う。


「……分かりました。

 5号よ、魔術師様がこの国に滞在中。この国の案内と護衛を頼む」

 王は一瞬驚いき、しばし考えた後、ラビィが指名したゴーレムに命令を出す。


「御意」

 五号と呼ばれたゴーレムは小さく頷くと、ゆっくりと歩いてラビィの横についた。


「すまんな。出国時に必ず返却する」


「はい。これだけはお願いですが、ヒューマノイドゴーレムは儂の最高傑作ですじゃ。

 いくら魔術師様でも破壊や解体されますと、刑に伏してもらうことになりますので、それだけはご理解ください」


「ああ、約束しよう」

 そんなやりとりの中、ラビィは「そんなことするわけないじゃん。よろしくねー、メイドさん」と横に着いたゴーレムと握手して挨拶していた。


 こうしてラビィ達は1体のゴーレムと共に、ゴーレムの国にしばし滞在することとなった。


ヒューマノイドゴーレムについて…

鋼の錬金術師で「人体の素材は子供の小遣いでも買える」と言っていたので、死者蘇生じゃなくて、その素材を使ってゴーレムを作ったらどうかという発想です。

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