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【キメラの国3】入国審査

 レギルス王国。それは合成獣(キメラ)と共に暮らす、魔術師の国である。

 国民は義務教育で生物学、生体魔術を学び、自らの合成獣(キメラ)を錬成する事で一人前とみなされるのが風習となっていた。そのため、国民の殆どが魔術師である。一般的に魔術師の多い国は平均寿命が短いのであるが、国民が使う大魔術は合成獣生成のみであるため、気に入った合成獣が出来上がれば魔石を利用した魔術を少々使うのみであるため平均寿命は意外と長いのであった。あとはパートナーとなるキメラと共に過ごす為、基本的には結婚という形で伴侶を見つけて共に生涯を過ごすのだが、そういう相手が見つからなかったとしてもペット(キメラ)というパートナーがいる事によって心身的な健康度は極めて高い国である。過去の世界ではアニマルセラピーという言葉があったのだが、その効果もあるのかもしれない。

 そしてこの国では、パートナーとなる合成獣(キメラ)の強さこそがこの国におけるステータスとなっていた。年に一度、王の前で合成獣(キメラ)同士を闘わせ強さを競わせる御前闘獣祭が行われ、そこで大きな成果を上げ王の目に留まった者は、国家騎士として国に雇われることもあるのだ。

 合成獣(キメラ)について流行りがある。基本的には御前闘獣祭にて優勝し国家騎士となったものを皆が真似て広がる形となる。まずは万能型の〈獅子虎(ライガー)タイプ〉の合成獣(キメラ)が流行り、その後に万能型に対抗すべく機動力に特化した〈麒麟獅子(キリン)タイプ〉、機動力を凌駕する射程範囲と飛行能力を持つ〈火喰鳥(フェニックス)タイプ〉の登場で革新が起こり、〈翼獅子(グリフォン)タイプ〉の合成獣(キメラ)が暫く席巻した後、現在は翼獅子(グリフォン)を上回る〈飛竜(ドラゴン)タイプ〉が主力となっていた。


「お、あれはバルドス隊長の飛竜(ドラゴン)か。今朝方観測された異常は解決されたみたいだな」

 国境である城壁に詰めていた周辺警護団の兵士が、遠くから迫る獣影を察知し周りの兵士に告げる。

「バルドス隊長の合成獣ならば、そんじょそこらの魔獣など相手にならないからな」

 隣の兵士が言葉を重ねる。その言葉を受けて兵士達は御前闘獣祭での飛竜の圧倒的な戦いを思い出す。

 瞬時に上空へ飛翔し、吐き出される火炎吐息(ファイヤーブレス)。その圧倒的な機動力と火力と射程範囲に並みの合成獣(キメラ)は手も足も出ず、もしその攻撃をかいくぐり反撃をしたとしても、各種属性攻撃に対する高い耐性により吐息(ブレス)攻撃はほぼ無効化され、硬い鱗に覆われた皮膚は生半可な物理攻撃は全て弾き返すのだ。そして、その強固なる皮膚は振るわれれば凶悪なる武器にもなり、機動力を駆使し接近戦に持ち込んだ合成獣が尻尾の一撃にて叩き伏せられた試合もあった。合成獣の強さが評価に繋がるこの国にあっては、そんな合成獣を使役するバルドスは兵士にとって憧れの的であった。

「これで何故隊長が女性にモテないのが信じられないっすね」

 苦笑混じりに若手の兵士が漏らす。

 バルドス=カイゼル。国の防衛を担当する第2師団の隊長まで上り詰めた男だが、中年と言われてもおかしくない年齢に達してもなお独身であった。

 熱血漢で部下の面倒見も良く兵士からの信頼度は高いのだが、いかんせん女性にモテないのだ。士官学校を首席で卒業し、御前闘獣祭で優勝し国家騎士団に抜擢と輝かしい経歴を持っている。我武者羅に努力し手に入れた称号なのだが、その代償に女性と会話する経験少なく少年期青年期を過ごしてしまった。相方となる女性など騎士として名声を手に入れれば自ずと見つかるであろうと安易に考えていたのだ。気づけば地位と名声を手に入れていたが、恋愛経験も殆どなく歳を重ねてしまっていた。慌てて相手を探そうと婚活をするも、女性経験が少なかったためうまくいかなかった。部下に語るような熱い口調で自らの半生を語り、理想を語り、猛アピールしたのだが逆効果であった。そんな言葉を女性は求めてはいなかったのである。落ち込んでいたバルドスを慰めるために、同僚はストレス発散と性欲発散の意味合いを込めて娼館へ連れて行く。そこで始めて女性を経験し、男女間の対応ができるようになる、のだったらよかったのだが、それにハマってしまい娼館通いすることになる。地位も名誉もあり金には困ってなかったことと、女性経験がなかったこともあり娼婦からすればいい鴨であったのだ。度を超えた娼館通いの噂は瞬く間に広がり、バルドスが鴨にされている事に気付き、反省して娼館通いを辞めても、もう後の祭りであった。地位と名声が仇となり広まった噂は収拾がつかなくなってしまった。こうしてバルドスは婚機を逃したのである。

「まぁ、隊長にも色々あるんだろう……」

 事情を知っている中堅どころの兵士が曖昧な返事を返す。若手兵士は「そうなんですかね」と複雑な表情で相槌を打つと、上空に向けて敬礼のポーズを取った。いま、まさにバルドスの乗った飛竜が国境城壁を通り過ぎるところであった。上官の兵士もそれに習って敬礼をする。上空からこちらの様子を伺えるか微妙なところであるのだが、それでもきっちりと敬礼で敬意を示す新米兵士に倣った格好となる。

「あれ? なにか様子がおかしくないですか?」

 新米兵士の声に、ほかの兵士も異変に気付く。通常ならは国境などすくにとびこえて、王城の離着陸広場に向かう飛竜が、国境近くで減速し旋回を始めたのである。そして暫くすると飛竜は城壁の近く、国外側に着陸した。国境警備隊の兵士達は、何事かと城壁から飛竜が着陸した場所を見下ろす。

「おーい! 周辺調査で2人ほど難民を保護した。済まぬが、入国審査を頼みたい」

 そんな兵士に向け、バルドスの声が響く。

「承知致しました! 暫しお待ちください」

 覗き込んでいた兵士のなかで1番位の高い中堅兵士が言葉を返す。その言葉を受けて、バルドスは片手をあげて応えた。

「監査員を連れて城門まで向かうぞ」

 中堅兵士の指示を受けて、他の兵士達も行動を開始する。

「難民を保護したと言っても、隊長が他人を飛竜(あいぼう)に乗せるなんて珍しいっすね」

 階段を駆け下りながら新米兵士が言葉を零す。その言葉を聞いて

「女か」

「女だな」

 バルドスの婚活経緯を知っている中堅兵士達の言葉が重なる。言葉が重なった兵士は互いに目配せし微苦笑した。前に酒場で酔っぱらったバルドスが「くっそ、ハインツが羨ましいぜ。俺も他国の美女と出会える機会があればなぁ」と零していたのを思い出す。ハインツとは、第1騎士団隊長のハインツ=ミトスの事だ。第1騎士団は戦の最前線に立つ部隊である。国防を主にする第2騎士団と違い、国の剣として他国へ武威を示したり、国王が他国への行くときは護衛として同行したりと遠征が多い。そのため、他国の人間との交流も多いのだ。ハインツはいくつもの戦火をくぐり抜けた歴戦の兵士である。初老に差し掛かる歳であり、妻は娶っているのだが、子供ができなくて悩んでいた。そんなハインツであるが、ある時に養子を迎える事になる。それは戦地にて孤児となった子供を預かる孤児院の子供であった。その時は珍しく、ハインツ自ら戦の中で保護した孤児を国の孤児院に引き渡す手続きを行ったのであったが、そこで1人の少女に出会う事になる。その少女はキャロルと言う名の紫髪の少女であった。孤児という事で荒んだ目をした他の子供達が多い中、それらの子とは一線を画し、その少女の目には知的な光が差していた。気になったハインツが孤児院の院長に少女のことを尋ねると、その少女は孤児院始まって以来の天才であると聞かされる。近くのヒュプーノ村の孤児として預かったのだが、見る見るうちに知識を吸収し、字の読み書きはもちろん、計算や家事までこなせる様になったのだという。良い人がいれば自信を持って養子に出せる娘なのだ、と院長は自慢げに語る。それを聞いたハインツはすぐさま、その少女の受取人に名乗り出る。孤児院としても、国家騎士のしかもトップたる騎士団長の子になれた者が出たとなると箔がつくため、その話はトントン拍子に運び、ハインツは念願の養子を迎えることとなったのだ。相談もなく養子縁組の話を進めてしまったため、嫁にはこっ酷く説教されたようだったが、娘となる子供を見て態度が変わったようだった。ハインツ夫婦はその娘を溺愛し、娘も編入で入った学校ですぐさま首席を取ってみせた。ハインツが何度も何度も娘自慢するのを受けて珍しく泥酔したバルドスが愚痴ったのだ。部下の兵士はそれを聞いて、そんな奇跡のような偶然が訪れることはないだろうと思っていたのだが

「国境警備、ご苦労。仕事を増やして済まないな。国境近くで暴れていた魔獣を撃退した際に難民を保護したのだ、何とか入国の許可を頂けないだろうか」

 そう言って、バルドスが後ろに合図を送ると飛竜の陰から1人――いや1人抱えているので2人――の人物が姿を現わす。

 兵士達はゴクリと唾を飲み込む。

 それは美しい少女であった。銀髪に赤のメッシュが入った絹のような髪、陶磁器のように白く美しい肌、すこし状況に怯えているようであるが純粋な輝きを放つ真紅の瞳は穢れを知らぬ天然の紅玉(ルビー)を想像させた。その少女が抱えているのは蒼天のような青髪の女性。人1人を抱えるには力が足りないのか、おっとと、とたたらを踏む少女にバルドスは優しく近寄り

「ラビィちゃんには大変かな。私が運ぼう」

 と、バルドスが青髪の女性を受け取った。気を失っているのか力無く身を預けるその姿に兵士は更に絶句する。青い髪に覗くは切れ長の眉に整った鼻梁と、桜色の唇。先ほどの少女がお人形のような純粋無垢な美しさだとしたら、こちらは一流の彫刻家が美を追求して作ったような造形美を追求したかのような美しさであった。だらりと投げ出されだ右手の肩部分の服が無くなっており、あと少しで見えそうな胸元と、剥き出しと肩、さらに意識を失っているためか少し開いた唇がエロスを醸し出していた。

 バルドスが酔った勢いで言っていた、他国の美女と出会える機会(チャンス)が今まさに起きていたのだ。

「バルドス殿。今、我が国は特別警戒態勢なのはご存知のはず。難民の受け入れは難しいですぞ」

 入国監査員の男が兵士達の思惑とは裏腹に、空気を読まぬ厳しい声で応える。その言葉に、やはりなとバルドスが唸る。

「その2人、身分証は持っているのですか?」

 さらに続く入国審査員の言葉。その問いにバルドスは言葉に詰まる。魔獣に襲われた時に荷物を失ったと聞いているからだ。それにヒュプーノの村には身分証を発行するセントラルギルドが存在しない。荷物があったとしても身分証を持っている可能性はかなり低いのである。

「あの。身分証はない、けど、えっと、私は魔術が使えて、あの、紹介状があるので、セントラルギルドに行ければ、身分証は発行してもらえる、かなと……」

 銀髪の少女が、舌足らずな言葉でなんとか意見をする。これは腰につけたピエロ人形の念話での助言を基に言った言葉なのだが、つっかえつっかえのその言葉は、入国したいが為の出まかせとしか思われなかった。実際はファウスト王国出身の魔術師という正式な身分証を持っているのだが、ここに来るまでにバルドスに話した内容を鑑みると、それを出すわけにはいかないからだ。では魔術を見せてみろ、と言われたら、魔術をつかえるラビィからしたら儲けものという意味を込めていったのだが、それ以前にその言葉を聞き入れてもらうことすらままならない状況であった。

 気まずい沈黙か訪れる。

 入国審査員が小さく首を振り、入国は認められないとの旨の言葉を発しようとしたその時、その言葉を遮るようにバルドスの声が響く。

「私が保障しよう。この2人は怪しいものではないと。もし、この2人が国に害なすことを行なったなら、私がすべての責任を持とう! だからどうか認めてくれないだろうか」

 バルドスが頭を下げる。こんな機会、二度と起きることはないのだ。会ったばかりの2人だが、自分の地位をも賭けてこの少女達を擁護する。このリスクを顧みない真っ直ぐな性格が、今までの人生全て裏目に出ていたのだが、それでもバルドスの決意は揺るがない。

 一方、その行動に入国審査員の男は言葉を失う。王族とまではいかないが、国家騎士の隊長まで上り詰めた男が頭を下げることなど常識的に考えてありえないことなのだ。入国審査員もそれなりに地位の高い立場であるのだが、それでも国家騎士で言えば中隊長クラスである。その立場関係からして、頭を下げて懇願するなんて行動は想定外である。

「私達も保障しましょう。我らが隊長が信用する者ならば問題ないと」

 国境警備の兵士が言葉を重ね弁護する。バルドスの婚活事情を知っており、バルドスが夢にまで見た状況が目の前にあるのを知って、援護射撃とばかりに意見を述べる。部下からの信頼はとても厚いのである。

「そうですか。それならば、3日ほどの滞在を認めましょう」

 さすがの入国審査員もこの状況には折れるしかなかった。

「ありがとうございます。しかし、3日のみとは……」

 礼を言うバルドス。しかし、不満部分はあった。3日の滞在のみであると、その先のこの少女達との関係発展には繋がらないのである。それでは意味がないのだ。部下の兵士達も不満を言おうとしたのだが、その言葉を遮るように入国審査員が言葉を発する。

「お嬢さん。先ほどの言葉に嘘偽りがないですよね。でしたら、身分証が発行された後、再度入国審査所を訪ねなさい。正規の身分証があれば、一時滞在許可の3日間という期間制限を撤廃しましょう」

 入国審査員にも引けない一線があるのだ。国家騎士の願いがあるからと、自分の一存で身分証を持たない者を長期滞在させるわけにはいかないのだ。先ほどの言葉が出まかせと思っていた兵士達が心配そうにバルドスに視線を向ける。その視線を受けて、バルドスも不安げに少女を見るが

「ありがとう。身分証が手に入ったら、また審査を受ければいいんだね」

 ぱあっと明るい笑顔で頭を下げる少女の姿に、その不安は吹き飛ばされる。真っ直ぐで、純粋なその反応をみれば、この少女が嘘をついているようには思えなかったのである。

 どうせ先ほどの言葉は出まかせで、意地の悪いこの条件を叩きつければ困惑の表情になるであろうと思っていた入国審査員は、予想外の少女の反応に罪悪感を感じながら

「私に礼なら不要です。貴方達を擁護したバルドス隊長に感謝しなさい」

 と告げた。


 こうして、ラビィ達一行は合成獣(キメラ)の国。レギルス王国へ入国することとなったのである。

やっと入国(^^)

ゴーレムの国と同じく短編(5話分割)で書こうと思ってましたが、おさまりきりそうもありません……なので、まったりと中編(8話分割くらい)として書いていこうと思います。

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