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【最強の男2】最強を継ぐ少年

 原始の悪魔が召喚される更に少し前、始まりの(ファウスト)王国から東方に遥か離れた地に2つの箱舟(くに)が存在した。

 1つは多くの動物を今に残し、畜産にて社会を作り上げた動物の国。超科学で生み出した固形食料を餌とし動物を育て、その動物の乳や肉にて人は生き延びた。しかし、その生活に異変が起きる。化学の力で完璧に管理されていた畜産業であったが、機械は永遠ではないのだ。小さなエラーから、管理体制が崩れ始め、遂には動物達に疫病が広がった。殺処分するにも箱舟の中では場所が限られていた。人は疫病が疑われる動物を地上に放ち箱舟から追い出したのだ。過酷な環境の地上ではすぐに死にたえるであろうと思ったのだ。だが、地上に放たれた動物の一握りが突然変異獣(ミュータント)として変化を遂げた。

 突然変異獣(ミュータント)となった獣は人類に牙を剥く。

 まだ魔術師が現れていない時代、《結界》の魔術による防御がない箱舟では凶悪に進化した突然変異獣(ミュータント)に為すすべはなく滅亡へと追いやられた。こうして多くの動物が人の手を離れ荒野へと放たれた。

 そしてもう一つの国は、多くの科学技術を残していた。世界崩壊前の最先端技術である小型化した核融合炉を数機と、高性能演算装置、生産プラントなどを残し、自らの力で地上へと進出していた。その箱舟(くに)奇跡の(ファウスト)王国より先に地上へ進出していた。

 まずは、遠隔操作型の作業機械を地上に送り出し、環境修復と復旧に当たらせた。有害な物質を取り除き、ドーム状に壁と屋根をつくり再度有害物質に汚染されるのを防ぐ土壌を整えた。それでも生身の人間が地上に出るには厳しい環境であったが、それを過去より引き継いだ最先端技術にによって克服する。人体の強化手術である。肌を外気に強い人工皮膚に張り替え、小型演算装置を埋め込み思考速度を上げた強化人間(バイオノイド )として地上へと進出する。地上に進出し、活動を開始した箱舟(しゅうらく)だか、すぐに改革の波が訪れる。まずは、突然変異獣(ミュータント)の脅威である。他に生き残った人類が居ると知らなかったので気付きはしなかったが、近くの箱舟が滅亡し多くの脅威(ミュータント)箱舟(しゅうらく)を襲ったのだ。厳しい環境に耐えるため強化人間(バイオノイド )として強化はされていたのだが、物理的な害獣の脅威に箱舟(しゅうらく)は新たな試みを行う。特に戦闘能力が高い精鋭に対し機械化手術を行なったのだ。只でさえ強化された強化人間(バイオノイド )を更に貴重な鉱物を利用した強化骨格と外殻で覆った機械化人間(サイボーグ)へと改造したのだ。機械化した精鋭に守られ、その箱舟(しゅうらく)は害獣の脅威にさらされた過酷な環境を生き残る。


 少年の名はワンダール=ルアンド。

 生まれてすぐに強化手術を受け、地上で生活をしていた少年である。当時、国で最強であった師匠に戦闘訓練を受け、身体が出来上がる16歳の時に機械化手術を受ける。機械化手術(サイボーグ)となった少年は未だ最強を誇る師匠とともに国を守護する守護者となった。国の脅威となる突然変異獣(ミュータント)を排除しその実力は折り紙つきであった。

 そんな少年に転機が訪れる。突然の師匠の死だ。深いシワを刻み見た目は老人であった師であったが、戦闘となると無限の体力と、目にも留まらぬ達人の技で害獣をなぎ倒す姿に倒れる姿は想定すらしていなかった。しかし、少年の見えぬところで老衰は進行していたのだ。機械化手術にて大幅に寿命を伸ばしていたのだが、その命の灯火は無限ではなく、倒れた師匠はそのまま逝くこととなる。そして、少年は師匠の意思を継ぎ最強の証である小型核融合炉を引き継ぐこととなる。少年は最強の存在となり国を護る英雄となった。

 ある日、1人の男が少年が守護する国を訪れた。始まりの魔術師の弟子である。原始の悪魔が召喚され、世界は変革しつつあった。超常を操る魔術によって世界は復興し、その波に科学技術で生き延びて来たその国も飲まれることとなる。魔術によって土地が浄化され、結界によって害獣からも守られることとなる。遂には強化手術を受けない生身の人間でも地上で暮らせるようになった。そして男の指導にて国にも魔術師となるものが現れ、驚くほどの速度で国は発展する。

 そして、事件が起きる。

 大量の突然変異獣(ミュータント)が群れをなし暴走する集団暴走(スタンピード)が国の近くで発生したのだ。このまま放置しておくと、国への被害が出る可能性があるため、討伐隊が組まれた。

 もちろん、少年は討伐部隊の一員として参加する。戦闘能力にて最強を誇る少年であったが、その頃には

魔術師の遠距離からの魔術攻撃が花形となっていた。少年の戦闘能力(ちから)は、遠距離魔術攻撃にて生き残った手負いの残存兵を葬る後始末に使用された。

 その戦いも同じ様な流れであった群れなして襲ってくる突然変異獣を、遠距離からの大規模破壊魔術で一網打尽に仕留め、機械化人間達が生き残った突然変異獣を仕留めに向かった。しかし、そこで想定外の事態が起こる。脅威は向かって来た群れだけではなかったのだ。地面の下からその脅威は迫る。近接戦闘に特化した機械化人間ならば対応できたであろうが、敵を倒したと安心仕切っていた魔導師は反応できなかった。突然変異にて巨大化し地面を食い進んだ大蚯蚓が、魔術師を足元から襲ったのだ。

「ぎゃあぁぁぁあぁっ! 助けて、助けて…ぐ…ぶべぎゃ」

 なす術なく魔術師は魔石の付いた杖ごと喰われてしまう。慌てて、周りの魔術師達が魔術で応戦する。しかし、大蚯蚓はそれを受けてなお体を魔術により進化させる。柔らかく皮膚に近い体表面は魔術を弾く外殻に覆われ、口内の牙は凶悪に変化し腐敗の効果が付与された。魔獣・大地蚯蚓(ランドワーム)へと進化する。魔術の効果を得た獣に魔術師達はなす術なかった。たが、そこに異変を感じ戻ってきた機械化人間(サイボーグ)の戦士が到着する。

 少年はこの状況でニヤリと笑う。やはり魔術師といっても接近されたら無力。ここで戦果を上げれば機械化人間(じぶんたち)の価値も見直されると思ったのだ。核融合炉の熱エネルギーを全身に巡らせ、渾身の一撃を叩き込む。接触(インパクト)の瞬間に超振動を叩き込み全てを粉砕する必殺の一撃。しかし、相手は魔獣。常識の通用しない超常なる存在である。魔獣は砕けた外殻と肉体内部を再生させながら、黄色く濁った吐息を吐きかける。少年は危険を感じ大きく跳びのく。

「うあ、ああぁあぁ…」

 近くにいた魔術師がその吐息を受けて転げ回る。その肌だ爛れて溶け始めていた。「腐敗」の効果だ。

「なんだ、これは? 総員、コイツの吐く黄色い息に気をつけろ。毒性がある可能性が高いぞ!」

 ただの突然変異獣にはなかった属性の付与された攻撃に少年は驚愕するが、その情報を解析し情報共有は忘れない。そうしている間に、魔獣は吐息で動かなくなった魔術師を更に喰らう。

「俺が時間を稼ぐ。機械化人間部隊、荷電粒子砲の準備せよ!」

 少年の命令が飛ぶ。機械化人間の最終兵器、まさに奥の手をここで使うことを判断したのだ。

「あれは我らにも相当な反動があります。もし外したら」

「それを使ってでも勝てるか分からない相手だ。俺が時間稼ぎするという意味を理解しろ!」

 弱気な発言に怒号が飛ぶ。荷電粒子砲――それは最強の兵器であるが、撃つのに大きな隙ができるのと、撃った後はその反動で機械化人間でもしばし行動不能になる諸刃の刃。しかし、戦闘能力で最強を誇る少年が()()()()()()()()()()と言っているのだ。手段を選んでいる余裕はないのだと理解する。

「分かりました! 皆、荷電粒子砲準備!」

「「「はっ!」」」

 機械化人間部隊の声が響く。機械化人間達はランドワームに正対すると両手を広げ大の字の体制をとる。

 対するランドワームだが、2人目の魔術師を喰った後動かなくなっていた。いや、よく見ると身体の至る所で肉体を蠕動させていた。

「ひ、ひぃいっ。なんて魔力だ。更に進化するのかっ。む、むりだ、あんな化け物勝てるわけない!」

 魔力感知のある魔導師は、ランドワームから溢れ出す魔力に恐れをなして逃げ出していた。

「ちぃっ!」

 少年は舌打ちしつつも、進化を始めた魔獣に飛び込んだ。

「これ以上強くなるってか? させるかよ!」

 少年は超振動で破壊をもたらす必殺の右拳を叩き込む。手応え十分、外殻が砕け肉体の内部破壊させるが、先ほどと同様に再生が始まる。

「一撃が効かないとしても!」

 更に逆の拳で同箇所を穿つ。そして更に右、左右左右――拳が嵐のように魔獣を襲う。一撃が必殺である拳の連打。最強の証である核融合炉のエネルギーを総動員して破滅の暴風が魔獣を襲う。その威力に少年の鋼の腕に亀裂が入るが、ラッシュは止まらない。ここで止めてしまえばもう勝機は訪れないと少年は本能のうちに悟っていた。再生が追いつかない速度で破壊で半身の外殻が粉々に砕け、内部の血肉が飛び散る。

「グギャギャガガガオォォウ!!」

 流石のランドワームも、苦悶の悲鳴を上げた。瞬間、ランドワームはその巨体をしならせ、尾の部分を横薙ぎに振るったのだ。苦し紛れの一撃であったが対人間には効果絶大。巨大な質量の一撃に少年は反応はするが防御虚しく吹き飛ばされる。全身が粉々に砕け散るような痛みを感じながら、少年は命令を出す。

「今だ! 撃て!」

 少年が吹き飛ばされ、そこには手負いの魔獣のみ残った。そして、時間は稼げたのである。少年の言葉に機械化人間が同時に動く。広げた両手の先にそれぞれ光の輪が生み出されていた。それは機械制御にて電荷を帯び加速された粒子の輪である。機械化人間達は両手を体の前で合わせると、二つの光輪は互いに引き合うように混じり合い、そして落雷のような轟音とともに一条の閃光が走る。対成す天使の一撃(ハイロゥズカノン)と呼ばれる旧世代から引き継いだ最強の攻撃である。機械化人間5人から放たれた5条の光が巨大な魔獣を貫く。ランドワームの巨大な体に大穴が5つ穿たれ、体のほとんどが吹き飛ばされた魔獣の残骸が地に伏し、ジワリとその体液を地面に広げる。

「ざまぁ見やがれ」

 少年は上体を起こして残骸となった魔獣に視線を向ける。その先では強力な威力の反動で動けなくなった機械化人間の姿があった。最強の攻撃が決まったのだ。勝利を確信して立ち上がろうとした少年の目に衝撃の状況が映し出される。

「ァ…ァ……」

 死んだと思われた魔獣の口から呻き声が発せられたのだ。そう、まだ魔獣は死んでいなかったのだ。ゾワリと状況の背中に悪寒が走る。

「クソッ! まだ奴は死んでない。焼却(パナーム)弾で焼き払え!」

 少年から指示が飛ぶ。しかし、先程の攻撃でエネルギーを使い切っている機械化人間はすぐに反応できない、動かない腕を震わせながら、背に装備したミサイルランチャーに手を伸ばす。あと一撃。あと一撃で魔獣を倒せるのだ。しかし、現実は残酷であった。ランドワームの体が一度震えたかと思うと、吹き飛ばされた体の断面部分から肉が盛り上がり、瞬時に体を再構成した。2人目の魔術師を喰った魔力(ちから)を進化ではなく再生に用いたのだ。傷を完全回復させたランドワームがゆっくりとして首をもたげる。

 ――絶望

「クソッ、動け。動け!」

 少年は激痛で軋む体に鞭を打ち立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。

 ランドワームはゆっくりと首をしならせると、その首を目にも留まらぬ速度でなぎ払った。魔力が無い機械化人間だから食う必要がなかったのか、先程の少年への一撃でこれが一番効果的な攻撃と学習したのか、その一撃で5人いた機械化人間は全滅した。防御も出来なかった機械化人間はその攻撃を受け、全身の外殻装甲と血飛沫を撒き散らして吹き飛ばされる。少年の知覚から、5つの生体反応が消える。

「う、あああああぁぁぁあぁっ!!」

 少年の絶叫。生き残ったのは少年1人のみ。絶望できな状況。それでも少年は立ち向かう。


――バキリ……


 少年の胸の中で何かが壊れる音が響いた。それは、少年が最強たらしめる証。そして禁断の力の結晶。核融合炉の制御装置に亀裂が走った音であった。

「あああぁぁぁぁーーーーっ!!」

 少年の絶叫と意識は、爆発的に生み出された熱によってかき消された。

 少年が最後に見たのは、再生する間も無く焼き尽くされる魔獣と、仲間の亡骸の姿であった。


余談側の話なのに予想外に長くなってしまいました。

荷電粒子砲は男のロマン。なので、そのシーンをねじ込んだためややバランスが崩れた感がありますがその辺はご容赦ください。


また、この話で出てきたランドワームは本編に出てきたものと別個体で魔獣への進化は個体差があるという設定です。

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