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【プロローグ1】原始の悪魔

初投稿です。よろしくお願いします。

 そこに響くのは、人々の声であった。


 幾重にも重なった声は、ひとつの魔物の呻き声のようにその空間を満たしていた。


 重なる声は数十――

 いや、百を超えるだろうか。


 調律の取れた、一定のリズムを刻む言葉。


 コンクリートに囲われた無機質な部屋を、LEDで造られた機械仕掛けの光が照らす。


 そこで呪言を唱える人々は、皆一様に古めかしい黒色の外套――いや、よく見ると()()()()()()()()()ガウンを羽織っていた。

 その手には呪言を映す液晶Padが淡く光を放っている。


 (いにしえ)の秘術を、()()()()()()()にて執り行うという(いびつ)な光景である。


 そんな歪な光景をさらに引き立てるものが部屋の中心にあった。


 恐怖を引き立てるような赤黒い色で描かれた幾何学模様――血で描かれた《魔法陣》がそこにあったのだ。


 そう、ここで行われているのは《悪魔召喚の儀式》なのである。


   ★


「科学技術」と「魔術」は相入れぬものとされてきた。

 しかし、現在(いま)はもうそんな時代ではないのである。


 ()()()()()()()()()いま、頼れるものは他に無いのだ。


 遥か昔、《火の審判》と呼ばれる人類が自ら引き金を引いた核兵器(ほのおのあめ)が、地上の全てを焼き払った。

 残ったのは、地中に幾つも造った|コンクリートの地下シェルター《はこぶね》に逃げた僅かな人類と、厳選された生物、そして一握りの先端技術のみであった。


 人類は、残った超科学と諦めぬ意思の力で生き残った。


 しかし、機械仕掛けの鳩(ドローン)を飛ばし、正常な数値(オリーブ)観測し(見つけ)て地上に出た時には既に疲弊しきっていた。


 不毛の大地となった地上は作物は育たず、今や再生不能となった超科学の結晶(生産プラント)にたよる事でしか生き延びることはできたかった。


 だが時は残酷である。

 刻々と進む時間に、唯一の希望である生産プラントは小さなエラーを吐き出すようになり、高稼働を続けた月日の積み重ねで不安定となっていた。


 いつかは終わりを迎える、希望のない未来に、一つの箱舟が行動を起こす。


 数百もの箱舟が各地でそれぞれ火の審判を乗り越えていたのだが、それぞれの箱舟で残した技術や知識はまちまちであった。

 その中の一つであるこの箱舟は魔術の知識を残していた。


 この箱舟のリーダーは、電子媒体で残された魔術の知識(グリモアール)を解析し、神の叡智(かがくぎしゅつ)の失われた世界で、悪魔の存在に全てを賭けたのだ。


   ★


 どれだけの時間、悪魔へ捧げる言霊を紡いで来たであろうか……

 突然、異変が起き始める。


 1人が胸を押さえ、苦悶に顔を歪め、狂った様に絶叫を上げながら倒れる……


 しかし、それでも呪言は止まらない。


 しばらくすると、また1人、同じ様に異様な苦しみの声を上げて倒れる――


 人が倒れるたびに呪言に狂気が宿り始め、重なる声は減っても、その言葉は逆に凄みが増していった……


 途方も無い時間が過ぎ、ついに残り1人となったその時


「「「「ははははははははは!!」」」」


 倒れた者達が一斉に激しく悶絶し大きく全身を震わせ、笑いとも絶叫ともいえない奇声を発し始める。

 それは斃れた人間の口を利用した超常存在の嘲笑。


 ごぱぁ!


 そして、口から大量の血を吐き出すと、その血は赤い霧となって視界を埋め尽くす。


 鉄の匂いに似た血臭。


 その真っ赤な視界の中で魔法陣が輝きを放つ。


 その輝きが閃光となり世界を塗りつぶした。


 最後に残ったリーダーはそんな異常な状況でも言葉を止めず、閃光で瞑られた瞼を開く。

 すると、赤い霧は消えておりそこには――


 漆黒の肌。尖った角に、猛禽類を思わす兇悪な鉤爪――


 1柱の悪魔が佇んでいた。


 瞑られていた悪魔の瞼がゆっくりと開き、金色の瞳が男を捉える。

 その瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのように、それまで紡いでいた呪言を、いや呼吸する行動すらも封じられる。


 訪れる無音の世界


 男の耳に聞こえるは自分の心音のみ。異常なまでの静寂。


『何を願う?』


 余計な言葉は不要、とばかりに悪魔は問う。


 いまだ金縛り状態の男は、それでも全ての精神力を振り絞り、ゆっくりと唇を開き、言葉を発する。


「知識を――

 この世界を、この絶望に向かう運命を変えるための知識を望む!」


 その言葉に悪魔の視線が鋭くなる。


 その視線に男は言葉が止まる。

 ヒューヒューと言葉にならない吐息だけが男の口から漏れる。


 しばしの時間の沈黙、その後、ゆっくりと悪魔の口角が上がる。


『ククク、神の摂理に背くか、いいだろう。その願い叶えてやろう』


 悪魔は凶器のその人差し指を男に向ける。


『ただし、贄がたりんな。百名足らずの魂では30年分だ。30年後、貴様の魂を頂くぞ』


 邪悪に笑う悪魔。


「充分。それでこの世界を救えるなら」


 それに対し男も瞳に光を宿し答える。



 瞬間、男の脳に大量の知識の波が流れ込む。

 人の脳では処理しきれない情報量に意識を失った。


 そして、時が過ぎる。


 男は王となり国を興した。


 不毛の大地を緑の大地に変え、科学食品に頼っていた食生活を改善し、魔石という動力と、得た魔術の知識を広く広めた。

 国は奇跡の王国として噂が広がり、その国の出身者は魔術師として世界に奇跡を起こしていった。


 こうして世界に神の摂理を超越した魔術と、過去の遺産である超科学の融合した魔導科学の時代が始まったのである。

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