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リバーシブル・シスター  作者: 深峰 聚志
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第一話 『止まった時間、動き出す姉弟』

プロローグに続き、第一話を書いてみました。お気に召して頂ければ幸いです。

  ――どうして妹はこんなにも愛らしいのだろう。

 そう考えたことはないだろうか?

 否、無いわけがないだろ!!きっと人間全てが常日頃からこう思っているはずだ。


 妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹……(以下略)


 そんなことをまだ日も上がって間もない朝方、目を覚まし僅か一秒も経たない程の速度で俺は妹を思い浮かべる。(いない)

 そう、何を隠そう俺はシスコンだ。(いない)

 それも重度の。


 (ふっ……俺の朝は妹から始まり(妄想)妹で終わる(妄想)のだ……)


 これが花守深という男の朝である。


 制服に着替え、朝食を食べにリビングに降りるとそこには食パンを行儀よく摘み、その小さな口を開けて少量ずつ食べている童顔の少女がいた。

 髪の色は曇り一つない晴天の空をイメージさせるような透き通った真空色に右側に控えめに結ばれたそのポニーテールを揺らしながら、彼女ーー花守天澄は俺の方へと視線を向ける。

 その可愛らしく整った顔立ちと更にそれを引き立たせる瑠璃色の瞳は興味無さげそうに食パンへと視線を落とす。


 「おはよ、天澄」


 「うん、だれ? お母さん、不審者よ警察呼んで」


 「誰が不審者だッ!! お前の弟だろうがああああああああああーーっ!!」


 「朝から騒がしいわね……、静かにしてくれる? 私、朝は弱いの」


 「誰のせいだよ!!」


 「あんた達、朝から仲がいいわねぇ」


 台所の方から母親の穏やかな声が聞こえる。


 「「どこが(よ)だっ!!」」


 朝から弟である俺に喧嘩売ってくるこの女、花守天澄は完璧人間。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、出る所は出て、引く所は引いていてまさに神様の所業といった具合に何処にも引けを取らない容姿の持ち主だ。実際、そこら辺の女優やモデルよりも遥かに上回っていると思う……、見た目は。

 そしてこの女、本人曰く、周囲からは憧れの的で誰もが羨む人気者らしい。

 天澄とは通う学校が違く、普段どういった日常を送っているのかは全く知らず、秀才が集まるお嬢様学校だというのは少し前に母親の口から聞いた。

 そんな天澄は母親の影響でヴァイオリンを嗜んでいてコンクールでも幾つもの入賞しており、有名なヴァイオリニストからも注目を浴びているとか。

 弟である俺ですらこの程度しか知らない謎多き姉なのだ。

 天澄が座る隣の席へと腰を下ろし、朝食である食パンに齧り付く。


 「あんた、近い」


 不機嫌そうな天澄は片目だけで俺を見て睨んでくる。


 「仕方ないだろ、席隣なんだし」


 チッっと小さく舌打ちをすると天澄は自分の使った食器を母親へと渡し、リビングを出ていった。


 「なんなんだよ、あいつ」


 そう、俺と天澄は仲が悪いのだ。理由は分からないし、何かした覚えもない。いつからかこういう関係になっていたのだ。


 「ごちそうさま……あのさ、母さん……聞きたいことが、いや! 言わなくちゃいけないことがあるんだ!」


 「朝からなに? あんたのエロ本ならもう見つけたわよ? 今どきまだベッドの下に隠してあるなんてまだまだね」


 「なっ!? ちょっ、待てよ! なんで俺の部屋に勝手に入ってるんだよっ!! クソっ! ってそうじゃない!! 母さん……いえ、お母様……常々、申したいことがあったのですが……よろしいか!?」


 「急に改まって……はっ!? あんた……もしかして……」


 「な、なんだよ……まだ何かあるのかよ……」


 「(妹系メイドがご奉仕しちゃうぞ☆ ホテルでドッピュン! 甘い夜を過ごしましょう?)……あんた、ラブホはまだ早いわよ?」


 「昨日買ったエロ本のタイトルを読み上げるんじゃねええぇぇぇぇぇーーッ!! つか、行かねぇよ!? 行く相手もいねぇよ!! 言わせんなッ!!」


 「あんた、……チキンなのね」


 「あんたの親父と一緒にするんじゃねええぇぇぇぇーーッ!! ……はぁ、はぁ……」


 「あら、やだ欲情?」


 「違うわッ! あんたのせいで息切れしてんだよっ!! つっこませんな!!」


 「で、話って何よ」

 いつもの俺弄りを終えて満足したのか話を戻す。


 「いや……、もう今日はいいわ……疲れた」

 どうして俺を産んだ後、妹様を産んでくれなかったのかという抗議はこのタイミングで言えば弄りの餌食だ。それは避けたい。

 気が付けば遅刻するギリギリの時間帯。

 俺は急いで家を後にしたのだった。


 


 ――同時刻


 「あ、天澄お姉様だわ! 天澄お姉様、御機嫌よう」

 後輩らしき女子生徒に話しかけられて私は小さく驚く。


 「ご、御機嫌よう」

 このお嬢様風の挨拶はいつまで経って慣れない。

 (どうしてこんなに慕われてるのかしら……)


 ここでの私のイメージは皆から慕われるお嬢様の先輩……らしい。どうしてこんなイメージがついたのかは分からないけれど、これがすっかり定着してしまいもう貫き通す以外に道がない有様。


  (はぁ……、私の家なんか普通だし、よっぽどあんた達の方がお嬢様なのに……どうしてこうなった……私)


 おかげで学校には友達一人出来ずじまいの日々。慣れたと言えば嘘になるが今更友達なんて……。

 落胆を隠しきれない私を他所に本物のお嬢様である後輩達は上品に学び舎へと去っていった。

 挨拶を交わした後、落胆していた時間が長かったらしい。授業が始まる五分前となっていた。

 (はぁ……私も戻ろう)


 学び舎へと踵を返すと正門を颯爽と走り抜けて行くよく見覚えのある人影があった。

 (あれは……)


 「ふふっ……」

 笑みが零れた私は校舎へと向かうのだった。

 そして小さく呟く。


 「……がんばれ」



 

  ――ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ


 花守深は猛スピードでとある学校の校門を通り過ぎていく。

 (余裕持って起きたのが台無しじゃねぇか――ッ!!)

 始業5分前。深の通う学校は家からでも目視できる程の距離だ。歩いて十五分程度、走っても十分程掛かる。

 つまり、このままでは確実に遅刻する。

 この状況を打破する近道があるのだがそれには一つ難解な場所がある。

 それは、学校は丘の上にあり辿り着くには上り坂を上がっていかなくてはならないのだ。

 正規のルートは少し遠回りになるが坂がない通学としては通いやすいような道がある。

 正規では間に合わない。

 そう……今、俺はその上り坂に直面しているのだ。心拍は激しい程高鳴り、破れんばかりに鼓動している。

 (行くしかねぇ……)


 決意を固め、走り出そうと構えをしたその時だった。


 「あれ? シン君だ」

  背後から俺を呼びとめる声が聞こえた。


 「止めないでくれッ!! 俺には負けられない戦いがあるんだ」


 「負けられない戦いって?」


 「……この坂だ」


 「車乗ってく?」


 「是非!!」


 こうして始まりすらしなかった上り坂VS俺の仁義なき戦いは終わった。


 「助かったよ、幸那」


 「役に立てたならよかったよぉ〜」


 この緩い話し方をする女の子、浜辺幸那は俺と同じ学校に通うクラスメイトで友達だ。身長は少し低めで妹のように人懐っこい性格をしている愛らしい小動物キャラだ。髪は艶のある黄蘗色でそのクリクリとした翡翠の眼は誰もが魅了する程美しい。

 両親が貴族だかなんだかで家も庭を合わせて東京ドーム十個分程の超豪邸に住むお嬢様だ。

 どうして平凡な高校に通っているのかは幸那曰く、頭が悪くてお嬢様学校に落ちたらしい。


 「と〜ちゃ〜く」


 乗車して間もなく目的地である学校へと到着した。


 「ありがとな幸那、ほんとお前がいなきゃ遅刻してたかも 今度何か奢るわ」


 「じゃあ、この近くにあるスイーツハセの特盛パフェがいいなぁ〜」


 「はいよ、今度な」


 幸那は嬉しそうに頷くと軽やかな足取りで教室へと向かった。

 教室に入るとガタイのいい茶髪の男、宮路鷹輝が腕を組みながら近づいてくる。


 「よっ! お二人さん、ついにデキちゃったの?」


 「出来てねぇよ、バカ」


 「え〜! 昨日あんなに激しかったのに……酷いよぉ〜」


 「ちょっと待てッ!! 何の話だよ!? 昨日は会ってねぇよ!! 誤解を招くことを言うな」


 「やっぱりデキちゃってるのか! そんな気がしたんだよなぁ 末永くお幸せにな?」


 「うん、幸せになる」


 「お前らで勝手に話進めんなよッ!!」


 デジャヴだ……。今朝も弄りを受けた気がする……。


 「はぁ……、俺は席に行くからな」


 自分の座る席へと向かうと同時に教師が入ってくる。

 教師が席に座れと注意を促すと朝の賑やかな雰囲気は静寂へと変わる。

 ――こうして俺のいつもの日常が始まるのだった。


 机に頬杖をついてうたた寝をしていたらしい。授業は一時限目が終わり、二時限目へと進んでいた。

 数学の教師は気付けば国語の教師へと交代していて、黒板には篁物語と大きく書いてある。


 (兄と妹の禁じられた恋……か、妹のいない俺には関係ない話だな……にしても、羨ましい! 妹と恋仲だと!?)


 物語に対して嫉妬をしていると授業の終了を知らせるチャイムがなる。

 国語の教師は熱弁をやめ、一言交わすと教室を後にした。

 それを片目で見遣り、抑えきれなくなった睡魔に抵抗をすることを諦め眠りへとつくことにした。


 (――をいじめる奴は許さないぞ!!)


 それは見知らぬ公園で幼き頃の俺がいじめられている少女を守っているようだった。


 「これは……俺の()()?」


 全く覚えがない記憶だ。昔のことは異常な程に記憶がない。


 (――大丈夫か? ったく、あいつら俺の大事な――をいじめやがって……)


 (ありがとう……いつも守ってくれて)


 少女は泣いて赤くなった目を擦りながら嬉しそうに微笑んだ。


 (俺が――守ってやる だから泣くな?)


 (うん! ありがとね――さん)


 「お〜い、いつまで寝てんの〜? もう放課後だよぉ〜」


 「……え? 俺、どのくらい寝てたんだ?」


 「う〜ん、多分だけど二時限目が終わったあとからずっと? かなぁ〜」


 (そんな長い時間寝ていたのか……、さっきのはなんだったんだ……)


 「大丈夫? まだ寝ぼけてる?」


 「ん? あぁ、大丈夫だよ悪いな、心配かけた」


 大丈夫〜と緩い返答をした幸那は鞄を机から取り出すと一緒に帰ろうと促す。

 幸那と連なって帰路へと帰る途中のことだ。遠巻きで見知った顔をした人物が目に入る。俺の視線の方角に気付いた幸那は視線を向ける。


 「あの子って、知り合い?」


 不思議そうに尋ねてくる幸那に対して首を縦に振るとそそくさと俺から距離をとった


 「なんか分からないけど、落ち込んでない? あの子……行ってきな」


 「ありがとう、また明日な幸那」


 幸那に軽く挨拶を交わし別れると見知った人物の元へと駆け寄る。


 「こんなとこでなにしてんの?」


 見知った人物ーー天澄に声を掛ける。


 「え? あんた、何でこんなとこにいるのよ、さっさとどっかいってよバカ」


 その瞳は恐らく泣いていたのだろう。赤くなった跡がある。


 「……何か、あったのか?」


 「うるさい! あんたには関係ないことよ! 早くどっかいってよ! ……もうほっといて」


 怒鳴り上げていた声も最後は弱々しくなっていった。


 ――俺のことを嫌う天澄。だけど……、なんとなく。なんとなくだ。この時、俺は天澄を、目の前で泣いているこの少女を泣かせたままじゃいけない気がした。

 だから衝動のまま天澄に告げる。


 「――目の前で……目の前で泣いてるお前をほっとけるわけねぇだろ!! 俺はお前が辛い時は絶対助ける お前がどんなに嫌ってようとも……だから……、話してくれないか?」


 俺も天澄が嫌いだ。生意気で上から目線で……でも、天澄が泣いてるのはどうしても見たくない。理由なんて分からない。だけど俺は――


 ――天澄には笑っていて欲しいんだ。

 

 「なん…で? どうして……」


 天澄は戸惑いながら俯く。そして、少しの沈黙の後、静寂を切り裂くようにこう俺に言ったんだ。


 「……相談があるの」


 ――こうして俺と天澄の無意識に止まっていた時間は動き始めた。












少し長くなってしまったような…。物語を書くのって難しいですね…。暖かく見守ってください。 1字空けてるのに反映されない…。

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