私、フェイ。1
ーー私の名前はフェイ、多分5歳。
イバシュレー王国の田舎にある町、ラスモにいる孤児である。
ちなみに、こんなに5歳が思考がはっきりしているのは私がこの5歳児の意識の他に、もう一つ別の記憶を保持しているからだ。
具体的に言うと「前世」の記憶。
昔、私はイバシュレーなんて国はない、「日本」という国がある世界で忙しいサラリーマンをやっていた。
ーーそう、サラリー「マン」、男性としてだ。
家族もいたし、何なら嫁さんもいたし、何なら子供もいた。
暮らしの記憶の全てを思い出せるわけではなく、自分の名前も、家族の名前も今は全く思い出せはしない。
といっても、フェイは5歳の女の子。
別に前世と性別が違うからといってアイデンティティが失われたりするわけではなく、昔の記憶である過去のサラリーマン時代を理解しているだけで、フェイとしての記憶と意志が主体だ。
この世界でも男性はズボンを履き、女性はスカートが基本なので、急にスカートが嫌になったり、ましてや性差による身体的特徴に違和感を持ったりはしない。
一週間前に転んで頭を打った衝撃で思い出したので、まだギャップに慣れていないというのもあるけれど。
そして前世分の半世紀以上の記憶が5歳児からは大分すれた知識もろもろを身体が吸収してしまい、そのギャップにここ数日は周りから不審な目で見られるような行動を起こしがちなようだけど。
ちなみに私、フェイの暮らしは前世の21世紀の日本からすると数世紀分は遡った文明社会にある。
周りは0歳からこの国の成人年齢である14歳まで。
ラスモにある教会の隣にある孤児院で暮らしている。
もうこの孤児院がとにかく汚い。
ラスモ自体が王都から離れているが田舎の中ではまあ地方都市という立ち位置なようで、孤児院はそこそこの規模だ。
10年程前にやっと終結した隣国との戦争の後とあって戦争孤児やその後の混乱から孤児も多く目算でも50名は同じように暮らしている。
戦勝国だったようで王国内の復旧も早く街並みはまあ穏やかで治安もものすごく悪いわけじゃない。
しかしここ数年では戦争とその後処理が落ち着いたこともあり、別の問題が重要視されて国の予算はそちらに流れてしまい、どの世界や国も同じだが福祉への対応は後回しにされる。
そんなわけで上下水道も整備されておらず、電気も通っていないような文明レベルの中、教会から割り当てられる孤児院への大人の人数が年老いたおじいさん1人という孤児院の状態は最悪だった。