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流星ロード2

作者: しぃば

これはこれは、お久しぶりです。

どうも、流星ロードタクシー運転手

ウサギの星野でございます。


また違う話を聞きにこられたのですね?


そうですねぇ、では先日お乗せしたお客様のお話をしましょうか。


距離って色々あるんですよね。

□近し遠し

#1雪という少女、僕という少年


「これで…サヨナラだね。」

雪は言った。


中学の卒業式の日、幼馴染みの雪は僕の世界から居なくなった。


雪は僕の家のお向いさんだった。

母親どうしが同級生だったこともあり、物心つく前から殆どの時間を共有していた。


雪は明るく活発で、男勝りな女の子に成長していった。

僕は内向的で、運動よりは読書好きの大人しい少年に成長した。


小学生の頃

昼休みになれば図書室で読書をしている僕を、雪はよく校庭に連れ出した。

友達とのドッチボールや鬼ごっこ、僕は苦手だった。

無理やり連れられてやった遊びが楽しいはずも無く、すぐに逃げ出したい気持ちで一杯になり

そっとその場から離れ校庭の隅っこで体育座りをしてみんなを見ていた。

それに気付いた雪はいつも

「もっと身体を動かさないとダメだよ!」

と笑っていた。

僕は

「苦手なもんは苦手なんだよ。」

そう言った。

「それに、校庭の隅っこの日陰は気持ちがいいよ。」

と言った。


いつしか僕にとって雪に連れられて校庭にでて、すぐに隅っこに行ってそこで読書をする。

それが習慣になっていった。

木漏れ日を浴びながら、そよぐ風を受け、好きな世界に浸る。

なんて表現力はもちろん持ち合わせてはいなかったのだけど

その心地良さに魅了されていた。

遠くから時々聞こえてくる雪の声も、心地良かった。



#2いじめ

「なめくじ野郎」

そう周りから呼ばれ出したのは確かに5年生頃だったか。

日陰でうじうじしてる奴、だからなめくじ野郎だそうだ。

4年生までは雪が一緒のクラスで、僕がいじめられそうになったりすると守ってくれていた。

クラスが変わり、人気者だけど悪ガキの高田が同じクラスになったのが運の尽きだった。


「やいなめくじ野郎!何読んでるんだ?」

昼休みいつもの場所で読んでた本を取り上げられた。

「返してよ。」

僕は言ったが聞く耳を持つはずもなく。

目の前で破かれた。

母がくれた、[うさぎのタクシー]という本だった。

うさぎのタクシーが悩みのある人を乗せて、絶景まで乗せてくれる。

その絶景を見ながらその運転手と話してると、悩みが解決していく。

そんな話たった。

母が好きな本だった。


地面に座り込み、泣いた。

本を抱きしめて。


高田とその取り巻き達は笑って校舎に戻って行った。


僕はそのまま本だけを持って家に帰った。

自分の部屋に閉じこもり破れた本をテープで直していった。


母はその時間パートでいなかったし、家には1人だった。

電話が鳴っていた。


ピンポーン

家のチャイムが鳴った。

「春ー!いるんでしょー!」

雪だった。


僕は、リビングでモニターを確認する。


高田が雪の隣にいた。



#3護りたくて護られて


高田はムスッとした顔でそっぽを向いていた。

「こらっ高田!ちゃんと春に謝って!」

雪は高田の顔をこっちに向けさせて頭を下げさせる。


「・・・さい」

嫌々ながらの謝罪は全く聞こえては来なかった。

僕はそれでも良かったが、

「もっとハッキリ謝るの!」

雪に叱責され、

「ごめんなさい。」

今度の声は聞こえた。


また、雪に護られた。

僕は悔しかった。


雪はいつでも僕を助けてくれた。救ってくれた。

いつもいつも。


雪を護りたいと強く思っていた。


「先生には私から電話するから、明日も一緒に学校行くよ!」

そう言い残し雪は向かいの家へ帰って行った。


#4互いの世界


その後も時々いじめられかけては雪に助けられ、小学校を卒業。

同じ中学へと進んだ僕達は、次第に別々の時間が多くなった。

雪は吹奏楽部に入り、毎日部活に励んでいた。

僕は写真部に入った。

理由はカメラを貰ったからだ。

小6の時、写真家だった祖父が亡くなった。

亡くなる直前に、

「本も良い。自分の頭の中で、心の中で世界を巡れる。

でも写真もいいぞ、自分の脚で色んな世界を巡ってそれを人に分けてやれる。」

そう言ってずっと使っていたフィルムカメラを貰ったのだ。


僕は自分を変えたくて、写真を撮り始めた。

毎日のように部活の仲間と写真を撮りに行き、現像して見合っては色んな話をした。

一人で自転車で山へ、海へと行きもした。

お小遣いは全てフィルム代にしていた。


ある日の帰り道。


「春ー!久しぶり!」

後ろから雪に声をかけられた。

帰る時間もいつも違うから半年近くほとんど話していない。

「部活どう?上手くいってる?」

母親同士で色々情報交換されていてお互いの近況はよく知っている。

「順調だよ、友達も出来たし毎日楽しい。」

本心で答えた。笑顔で答えた。

でも雪は


少し哀しそうな顔をした。


気になりはしたが、

「今日は早いね。」

そう聞いた。

「明日から大会に行くの!だから準備だけだったんだ。」

「そっか、頑張ってね。」

気持ちが切り替わったのか雪は笑顔だった。


「春は写真をコンテストとかに出さないの?」

「1年はまだ出せないんだ。だからないよ。」

嘘だった。


本当は部員1名1枚応募することになっている。

提出の期限はあと1週間、何も撮れていなかった。

写真は撮っている、でもコンテストに出す自信がなかった。


「なんだー。あ!じゃあ私明後日帰ってくるから1枚私に提出!

雪ちゃんコンテストだ!必ず出すように!」

雪は勢いよく言い放ち

「じゃ!」

と足早に帰って行った。


僕は暫く立ち尽くしていた。


#5雪ちゃんコンテスト

僕はどの写真を雪に見せるか迷っていた。

雪には僕の撮った写真を見せたことは無い。

新しく撮ろうかとも思ったけど明後日じゃ時間は無かった。


この半年で撮り溜めた何枚もの写真を見比べて夜は更けていった。


土曜日の翌朝、まだ暗いうちに目が覚めた。

いつの間にか寝てしまっていたらしい。


毎週土曜日には早起きして近くの湖へと朝日を撮りに行っていた。

数時間しか寝ていないはずだが目覚めが良い。

習慣になってるしこの日も撮りに行くことにした。


もう十月になろうと言うのにまだまだ暑さが残る日が続いていたが、早朝の風は冷気を孕んでいた。


まだ朝日は上がっていない。

途中コンビニで買った温かい缶コーヒーを飲みながら朝日の方角を眺めていた。


---

日曜日の夕方、大会を終えた雪が家にやって来た。

「春ー!写真!」

勢いよく部屋まで来た雪は今日も明るかった。

「大会はどうだったの?」

僕は落ち着いてそう聞いた。


「ばっちし金賞!」

ピースサインを目の前に出し自慢げに答える。

「私の事より写真!」

話題を帰る作戦は失敗した。

あまり自身はなかったが、昨日の朝日を見せることに決めていた。

昨日のうちに丁度フィルムを使いきり現像してずっと眺めていた。


朝日の写真を渡す。


雪は元々大きな目を更に大きくし、

目に涙を浮かべ

「・・・素敵。」

そう、言葉を漏らした。


#6雪の世界


雪はフルート奏者だった。

吹奏楽部として強い学校だった家の中学校は、様々な大会で金賞を取り地元のコンサートなどにもよく出ていた。

雪はフルート奏者になる事を夢見ていた。


フルートを吹いている時の雪はとても綺麗だった。

男勝りだった性格も中学に入りだんだん女性らしさが出てきていた。


容姿も良く、男子からよく告白されていたみたいだ。

でもいつも

「好きな人がいるから。」

そう断っていたんだと、あとから知った。


その人は誰なのかいつかは僕に知る日は来るのだろうか。


僕だったら良いのに・・・。


#7中学校最後のコンテスト


僕は雪に写真を見せた日の後、その写真をコンテストに出した。

入賞した。

1年生の中で唯一の入賞だった。

先生、親、部活の仲間、そして雪

沢山の人から褒められて、嬉しかった。


それからも沢山の写真を撮り、沢山のコンテストに出した。

最優秀賞は撮れなかったが時々優秀賞を取ったりもした。


中学校最後のコンテストが迫っていた。

僕は雪を撮ろうと、いつからか決めていた。


「雪。モデルになってくれないかな?」

ある日雪にメールを送った。


「もちろん!やる!」

返信はすぐに来た。



早朝5時

僕と雪は湖に来ていた。

「寒ーい!もう冬だね。」

雪は寒くても楽しそうだ。


僕は缶コーヒーで手を温めながら朝日を待った。

辺りは一面真っ白だ。

昨日の夜から降った雪が薄らと積もったのだ。


「そこのベンチで演奏して。」

僕は雪にフルートを持ってきてもらっていた。

「オッケー!でも指悴んでうまく吹けるかな?」

ベンチの雪を払い、雪は座りフルートを準備する。


薄らと世界は明るくなってきた。

空が黒から紺、紺から青へと変わっていく。

周りの雪が光を反射し白色世界が出来上がる。


太陽が昇る瞬間だ。


「じゃあ吹くね。」

雪のフルートの音が白色の世界を包み込む。

アメイジング・グレイス

メールを送った次の日から雪の家から聴こえてきていた曲。

毎晩聴き惚れていた。

今日のは格別素敵だ。


僕は雪のアメイジング・グレイスを聴きながら、夢中でシャッターを切った。

白色の世界に朝日、一つのベンチ、一人のフルートを吹く少女。


良い写真が撮れた。

演奏も終わり、

「お疲れ様。」

雪に笑顔を向けられて、僕も笑顔で

「お疲れ様。」

とだけ言った。


帰り道。

「春に話しておかなければいけないことがあるの。」

そう言われた。

「何?」

少し不安な気持ちになり、聞いた。


「実は私ね、お父さんの仕事の都合で卒業したら海外へ引っ越すの。いつ帰ってくるかは分からないんだ。」

雪の表情は下を向いていて見えなかったが、

どんな表情かわかる気がした。


僕は

「・・・そう・・・なんだ。」

としか答えられず。

そのまま無言で帰宅した。


その日の写真は最優秀賞になった。


#8転落


雪が居なくなり、高校生になった俺は写真に没頭した。

風景写真家を志し専門学校に入り写真を深く勉強した。


就職活動は上手くいかなかった。

沢山の風景写真家に弟子入りしようとしたがなかなか上手くいかず

とりあえずで祖父の仕事仲間だった人の紹介で雑誌のカメラになった。

いわゆるパパラッチだ。


「いらっしゃいませ。春さんお久しぶりです。」

「あぁ。いつもの。」

行きつけのバーでいつものウイスキーを呑む。

「ここ数週間収穫ゼロ、食っていけねぇよ。」

愚痴を零しながらタバコに火をつける。


「だからボトルキープしてあるうちに来たんですね。」

少し笑みを浮かべて言うマスターが憎たらしい。

「これはサービスです。」

と良いナッツをいつもより多く出してきて、やっぱり憎めない人だと思う。



パパラッチとして稼ぎは安定していなかった。

一時期はとても稼いだが、ここ最近は不発だ。


もう30になるというのに、結局風景写真家にもなれてない。


マスターに愚痴を更に零しながら呑んでいると、他の客の話が耳に入ってきた。


「会いたい人に会えるタクシーって知ってる?」

「知ってる知ってる!流星ロードタクシーでしょ?」

「そうそう!あんた誰に会いたい?」

「でもあれって都市伝説じゃやいの?」

「夢のないこと言わないでよー」


「会いたい人に会える?」

無性に胸がざわついた。



#9都市伝説のタクシー


閉店まで呑んだ後、俺はネットカフェに入った。

パソコンで流星ロードタクシーについて調べる。

すると沢山の情報を見つけることが出来た。


・会いたい人に合わせてくれるタクシー

・ウサギの顔の運転手(被り物という説も)

・星が集まって道になるらしい

・空飛ぶタクシー

・強く願うと現れる

・このタクシーで会った人間には生きてる間には二度と会えない

・会ってる時間は30分らしい


「何だこりゃ、ほんとに都市伝説みたいだな。」


でももし本当になら・・・


雪に会いたい。


こんな俺を見たら幻滅するかななどと思いつつもそう思う。


あの日

あの卒業の日以来雪とは連絡を取っていない。

携帯を壊してアドレスも番号も分からなくなり、

母さんは知っていたかもしれないが特に聞こうと思わなかった。


だけど


雪に会いたい。


そう強く思った。




家に帰り引き出しの奥にあるあの雪の写真を見ながらタバコを一本吸ってから寝た。


夜22時暗いからパパラッチするために近にある駐車場へと向かった。


その途中、後ろから車が来たので道の端へ避けた。

するとその車は横で止まり、運転席の窓を下げた。


「貴方の会いたい人は誰ですか?」



#10嬉しさと悲しさを含む再会


流星ロードをタクシーが走っていた。

周りは星が輝き、道も光っていた。

眼下には街の灯りが星のように瞬いている。


運転席には長い耳の運転手、不思議と嫌な感じはしなかった。


俺はだんだんと瞼が重くなり、いつの間にか眠っていた。


「お客様、到着です。」

ウサギの運転手に起こされタクシーを降りる。


そこは、明らかに海外だ。

歴史のありそうなコンサートホールが近くにあった。

「あちらのコンサートホールにいらっしゃいます。」

ウサギの運転手に促され、コンサートホールへと向かった。

30分何を話そう。

そう思いながら。


ホールの舞台の上で雪はアメイジング・グレイスを演奏していた。

俺が入ってきた事に気付かずに演奏している。


前から四列目ほどの所で座席につき、演奏を聴いた。

懐かしい。優しい。

そんな音色だった。


演奏が終わったので1人だけのスタンディングオベーションをした。


「えっ!誰!?」

雪は驚き日本語でそう訪ねてきた。


俺は

「やっぱり素敵な演奏だ。久しぶり雪。」

そう言った。


「え、春・・・?」


「そう、元気?」


「元気だよ!でもどおして?」


「少し顔が見たくて。雪こそどおしてここで一人で?」


「私今ここのコンサートホールを、拠点にしてる楽団でフルート吹いてるの。練習後に一人で練習してたの。」


あの日から、10年以上が経った。

雪はより綺麗になった。


「春は?風景写真家にはなれた?」


迷ったが

「うん」

と嘘をついた。

「すごい!さすが春!春の風景写真すごい素敵だもん!なれると思ってた!」

雪は昔のようにはしゃいだ。


「雪の、演奏こそ素敵だよ。本当にプロとして活躍してて尊厳する。」


「ありがとう!懐かしいなぁ、ウィーンへは撮影に?どうしてここにいるって分かったの?」


時間が迫っていた。


「ごめん!そろそろ行かなきゃ!時間ないんだ。」

俺は焦って言った。

本当はまだ少し余裕がある

でも、嘘がバレるのが怖かった。

階段を出口に向かって足早に駆け上がる。、


「あっ大変!急がなきゃね!

ねぇ春!好きなのは演奏だけ?!」

大声でそう聞かれ足を止める。


振り返って見た雪は泣いている様に見えた。


「雪の事も、ずっとずっと好きだった!」

そう大声で言っていた。

思わず出たその言葉に驚いていると、

「私も!春の写真と春の事が!ずっとずっと好きだったよ!」

そう叫び手を振る雪、

あの中学の時、好きな人がいると言ってほかの男子を振っていた雪、

すきな人は俺だったんだ。

すぐに舞台まで行き、抱きしめたい衝動に駆られた。


だけどそれは思いとどまり、

「またいつか!」

そうとだけ言い。

出口まで駆けた。


「またいつか!」

雪も大声で返した。

大きく振る雪の左手。

その薬指には指輪が光っていたーー


#11距離


「おかえりなさいませ。」

運転手に促され後部座席に乗り込む。


「どおでしたか?」

運転手に質問された俺は

「あの日物質的な距離は離れたけど、心の距離は近いままだったんだ。

そしてこの再開できっと心の距離も離れていけたと思う。」

とだけ告げた。


もう二度と会えない雪。

結婚して幸せになる雪。

伝えたい思いはありがとうだった。

だけど色んなものが邪魔して言えなかった。


どうしたら届けられるか考えた。


その間に眠ってしまっていた。



翌朝ベッドで目を覚ました。


すぐに風景写真家の知り合いに電話し、弟子入りを申し出て了承を得た。

パパラッチの仕事は辞めた。


直接会うことは出来なくても

有名な風景写真家になって、雪への感謝を込めた写真を届けたい。


そう思ったからだ。

あとがき


いかがでしたか?

きっと春様は良い風景写真家になられることでしょうね。


雪様はいいご家庭を持たれていることでしょう。


そうそう。

雪様御家族この間写真展に行きまして。

1枚の写真を購入されたそうですよ。

一面白銀の世界の写真だそうで

確か題名は

「Thanks.SNOW」だそうです。


でわまたそのうちに。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは✨<(_ _*) しぃばさん 流星ロード2 拝見させて読ませて頂きました 引っ張る~✨引っ張る~✨心地良い余韻 長く続く余韻の中で 私自身の胸にある想い出や気持ちが 物語と重なり…
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