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殿河内 秀俊

 殿河内は課長室でコーヒーを飲んでいた。コーヒーの飲み過ぎは体に良くないと言われても、中々やめられない。最後の一口を飲み干したところで、ドアが音を立てて開いた。入口の方を見ると五剣がいた。険しい顔をしており、東雲のことに気付いたのだと確信した。


「どうした宏、恐い顔をしているぞ。何かあったのか?」


「黙れ!」


五剣は殿河内の言葉を一蹴し、早足で詰め寄る。殿河内のネクタイを掴み、荒々しく捻り上げる。


「殿河内、お前は何の為に東雲を能課に引き入れた?」


「何の為?彼女は純度の高い能力者であり、成績も優秀だ。能課の要である五班に欠員が出ていたから、補充する為に…」


「嘘を吐くな!」


殿河内は言葉を遮られ、少し苛立つ。しかし、今は罵り合っても解決は出来ない。きちんとした態度で五剣に説明をする。


「嘘ではない。村雨から女性をもっと入れてくれとの要望もあったから、ちょうど良かったんだ」


そう言って五剣の腕を払いのける。ネクタイを直し、身だしなみを整える。その間、五剣は殿河内を睨みつけている。


「殿河内…東雲がPSを持っていない事を知ってるか?」


「もちろん知っている。能課の人員の情報は、すべて頭に入っている」


「お前は俺にしたみたいに東雲で実験する気じゃないだろうな?」


五剣の語気が強くなる。しかし、殿河内は柳のように受け流す。


「超能力の詳細を知る為の実験は中止になっている。法律で禁止されているんだ。そんなことする訳ないだろう」


「本当だな?」


「本当だ」


長い沈黙が訪れる。五剣は睨んでいるが、殿河内は張り付けたような微笑みをしている。


「わかった。今は信じよう。でも、もし東雲を実験に使うようなら、俺は容赦しない」


そう言って五剣は部屋を出て行った。五剣の心中は穏やかではない。


「殿河内は何を考えているんだ。東雲のことをただ人員補給として連れてきた訳じゃないのは分かっている。でも証拠がない。あいつの言動から何か掴めたらと思ったが、何も分からなかった!」


警察官であり、第五班のリーダーであるが、まだ16歳だ。殿河内の半分も生きていない。その経験の差は、中々埋まるものではない。今回のような心理戦では殿河内に一矢報いることも出来なかった。


「まだまだ青いな、宏」


課長室に殿河内の低い声が響き渡る。


 五剣が五班に戻ると、村雨が先程調べるように指示を出した、組織の情報を持ってきた。資料を渡され、説明を受ける。


「さっきの抗争はこの二つの組織が戦っていました。一つは四大組織の一つであるイフリートでした。と言っても実際にあの場にいたのは末端ばかりでした。もう一つの組織はあまり情報が無かったので、新興組織だと思われます。争いが起こった理由はどうやら、新興組織の方がイフリートにちょっかいを出したようです」


「面倒なことになったな」


「四大組織の一角が崩れでもしたら、勢力図が大きく変化しますからね。特にイフリートは荒くれ者を仲間に入れて、悪さをしない様にしてくれていますから、そこが潰れてしまうと下手したら大きな争いに発展しかねません」


「そうだな。出来れば大事にせずに収めたい。新興組織を潰してしまうのは簡単だが、そうなるとイフリート側が面子が立たないと言って反感があるかも知れないな」


「イフリートのリーダーの焔に話を付けたらどうですか?」


「焔とは面識がないが、そろそろイフリートとは良い関係を築こうと思っていた所だ。これをきっかけに手を取り合うのはアリだな」


「あっ…」


「ん?どうした?」


「いや…何でも無いです」


村雨は何かを言おうとしたが、言うのをやめた。五剣は気になったが、何でもないと言うのでそれ以上は詮索しなかった。


「村雨は焔との面会の準備をしてくれ。焔が能課に来てくれるのが一番ありがたいが、無理であれば俺が赴こう。都合をつけてくれ」


「わかりました」


村雨はさっそく仕事に取りかかろうとしたが、時間を見ると18時過ぎになっていた。村雨は吉田に声をかける。吉田も時間を見て何かを思い出したようだ。二人は今日の朝、殿河内と東雲が並んで立っていた部屋で一番目立つところへ移動した。


「はーい!皆さん注目して下さい!」


村雨が手を振りながら大きな声を出す。能課の人間が動きを止めて、二人の方に顔を向ける。


「今日は東雲志乃ちゃんの初出勤でした。今日は出動と五剣さんの直接指導があり、あまりこの部屋にいなかったので、皆さんあまり会話が出来てないと思います。なので今日は歓迎会&親睦会を開催したいと思います!」


村雨が発表すると大きな歓声が湧く。東雲は聞いていなかった為、驚いている。しかし、サプライズは嬉しいものである。東雲の口元は緩んでいた。


「志乃ちゃんと仲良くなりたい奴らは3000円持って…出てこいや!」


吉田が似てないモノマネをすると、雪崩のような勢いで二人の元に人が集まった。東雲人気爆発中である。雪崩が収まってから、村雨は前のホワイトボードの場所と開始時間を記入した。


「現地集合だから各自移動して下さい!ホワイトボードに書いてるから大丈夫だとは思うけど、ここにいない人には一応、連絡してあげて下さい」


何十人もの男たちの了解という声が響く。そしてぱらぱらと部屋から出る者たちが表れ始めた。吉田と村雨は五班の区画へ戻ってきて、三人に話しかけた。


「そういう訳なんで行きましょうか?」


二人は有無を言わせず連れていく気の様だ。断る理由もない為、いや、むしろ感謝しながら三人は了承した。


「あっ!殿河内課長にも声かけなきゃ!」


「そうだな」


五剣は先程の喧嘩の様なやり取りがあったにも関わらず、それをおくびにも出さないでいる。上司として部下には心配をかけないように配慮している。村雨が声をかけに向かうのを見て、四人も準備を始めた。


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