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実戦

第五班は組織の抗争と思われる騒ぎが発生した為、新宿一丁目に急行していた。五人は二台のパトカーに分かれて乗っている。ここからは死と隣り合わせと言っても、過言ではない状況となるため、緊張感が高まっている。しかし、場数を踏んでいる五剣と時計屋は、緊張感の中にも余裕があるように感じられる。集中力の高まった良い緊張状態と言えるだろう。


「現場ではテレパシーで会話する。村雨は敵の探知、及び連絡の中継、東雲は村雨と一緒にいてくれ。俺と一発は場の制圧を優先する。暴れるやつは少し手荒になってもいいから取り押さえろ。時計屋は怪我人の救助と保護を頼む」


五剣の指示が無線から飛んでくる。東雲以外はいつもの担当業務である。いつも通りにやれば失敗しないと確信しているのだろう。東雲は初の実戦であり、どういう役割が向いているのか、実戦はどういったものか、何もわかっていない。なので、村雨と一緒に全体を見ることが仕事となった。


「志乃ちゃんには、私が実戦の基本を教えてあげる。あと、みんなの能力も教えてあげるから。百聞は一見に如かずって言うし、ちょうど良かったね」


「でも、後方支援だったら見ることが出来ないですよね?」


「そこは私に任せなさい。私の能力は夢の中で好きな場所に行ける能力なの。しかも、現実世界と全く同じ状況が再現されてるの。私の能力は他の人にも使うことができるんだけど、その場合は意識だけしか行けないの。移動することは出来るけど、触れることとかは出来ないから、見るだけになるよ」


「つまり、私は寝てろってことですか?」


「一応、夢の中では五剣さんの能力と、一発の能力と、時計屋さんの能力を見るのが仕事だけど、実際は寝てるだけだね」


東雲が能課に来て与えられた仕事は、本を読むことと寝ることである。仕事を馬鹿にするなと怒られてしまいそうな内容であるが、仕方のないことだ。


「ちなみに、寝ようと思っててくれれば、私の能力で一瞬で寝れるから安心して」


「わかりました」


そうこうしている内に現場に到着した。場所は住宅街の近くであり、公園がすぐそばにある。もしかしたら一般人が巻き込まれている可能性もある。素早い対処が要求される。すでに救急隊員や警察官が到着しており、報告を受ける。逃げ遅れている人が複数いるようで、そこには時計屋が向かうことになった。報告を受けている間も爆発音や怒号が聞こえる。さながらハリウッド映画のワンシーンのようだ。


「じゃあ一発、行くぞ」


「了解です」


報告を聞き終えた二人は抗争の中心となっているであろう方向へ向かっていった。どうやら公園とその駐車場で戦いが起きている様だ。時計屋はすでに逃げ遅れた人と怪我人の保護へ向かっていた


「それじゃあ、志乃ちゃんはおやすみタイムといきましょうね」


そう言って村雨は、車の中で東雲に横になるように指示する。みんなが戦っている中、眠りに着くのはとても気が引けたが、これは仕事だと自分に言い聞かせた。東雲は助手席のリクライニングを倒し、目を瞑った。


軽い耳鳴りが聞こえる。静かな空間にいるときに聞こえるように感じる音と似ている。体はふわふわと漂っている感覚だ。


『志乃ちゃん聞こえる?』


空から声が降ってきた。村雨の声だ。辺りを見回すと自分が目の前にいる。パトカーの助手席側のドアの傍にいることがわかった。夢の中であるが、現実世界であり、自由に動けるが体はないという不思議な感覚だが、すぐに慣れた。


『聞こえます。自分の寝顔を人生で初めて見てます』


『なかなか良い体験だけど、今は置いといて一発のところに行ってみよう。そこを道なりに進んだら公園に着くから行ってみて』


東雲は一発のいる場所へと足を向ける。実際には足はなく、歩くことはできないのだが、移動には足を使うことが感覚として身に付いているからか、歩くようにすると移動できた。道なりに進むと開けた公園に出た。公園では吉田と10人近い男たちが戦っている。


『じゃあ一発の戦いを見てて。あいつに連絡して能力を使わせるからね。使うときに手が上がるから見逃さないように』


そう言って村雨の声が遠のいた。現実世界で吉田に能力を使うように指示しているのだろう。吉田がちらっとこっちを見た。東雲がいることを村雨に聞き、思わず見てしまったのだろうが、東雲は夢の中にいるため吉田にはその姿を見ることはできない。吉田がよそ見をしている間に、敵から攻撃が放たれた。巨大な炎の塊が飛んでくる。吉田はそれに気付き、高々と手を挙げた。能力を使う合図だ。吉田の体は光に包まれた。眩いとまではいかないが、蛍光灯よりは発光している。炎が間近に迫るが吉田は避けようとしない。それどころか炎に向かってファイティングポーズを取り、炎の塊に右ストレートを叩き込んだ。炎は殴られると進行方向を180度変え、敵のほとんどを飲み込んでしまった。


『これが一発のPS“一発逆転”簡単に言うと攻撃を跳ね返す能力ね』


村雨が解説を入れる。吉田はしたり顔で東雲がいると思われる場所を見つめている。しかし、取りこぼした敵からの反撃を受けて、慌てて臨戦態勢を取りなおす。東雲はそれを見て吉田の評価が少し下がったが、それよりもまずは能力についてだと思い、村雨に質問をする。


『えっ?それって無敵ですよね?』


『それがそう上手くいかなくて、発動できる時間は一回三秒、一回使ったら一時間は使えなくなってしまうの。あと殴らなくても体に当たったら跳ね返すんだけど、あいつは恰好つけて毎回右ストレートを放つのよ』


『それは結構な弱点ですね。頭も』


『志乃ちゃん言うわね。まあ一発はPS抜きでも強いから大丈夫だよ』


二人が話している内に残った敵を組み敷いる吉田を見て、東雲は村雨の言葉に納得した。


『一発が倒したやつらの保護のために時計屋さんが来るから、志乃ちゃんはそこに待機しといて』


『わかりました』


東雲は吉田が倒した超能力者の方へと近づく。気絶している人もいれば、意識はあるが火傷で動けない人もいる。凄惨な状況が眼下に広がっている。東雲は目を背けたくなるが、自分の身を守る為、一般人の身を守る為には、自分が人を傷つけることもある。その覚悟があるからか、この現状に決して目は背けなかった。

 2分程すると時計屋がやってきた。救急隊員と警察官を連れている。やっと怪我人達が保護されると東雲は安心した。時計屋は一人一人の状況を確認していく。重症のものを優先して運んで行く。東雲は時計屋の能力を治癒能力だと思っていた。しかし、現状を見る限りでは治癒能力を使っている様子はない。東雲の予想はどうやら外れていたようだ。時計屋と救急隊員が救助に夢中になっていると“危ない!”という声が聞こえた。全員が警戒し、身を固める。時計屋が来た方向に敵がいた。すでに攻撃を放っており、無数の鉄球が時計屋と救急隊員を襲う。


「皆さん避けて下さい」


時計屋が大声を出す。しかし、焦って叫ぶような声ではなく、全員に行き届かせるための大きさで放たれた冷静な声だった。東雲はそれに反して焦っていた。鉄球の数は簡単に避けられる代物ではなかった。戦闘経験のある人ならまだしも、救急隊員では避けられないと確信していた。しかし、当たる瞬間、東雲の目では追えないほどの速さで救急隊員は、すべての鉄球を回避した。


『な、なんで』


東雲は驚きを隠せなかった。パーネル・ウィテカーでもかわせないと思っていたが、そこらへんにいる一般人の救急隊員が避けてしまったのだ。ちなみに東雲は格闘ファンである。


『びっくりしてるわね。まあ最初見たときは私も開いた口が塞がらないって感じだったわ。言っとくけど救急隊員の人たちは超能力者じゃないからね。今のが時計屋さんのPS“時計屋の悪戯”よ。簡単に説明するとタイミングを合わせる能力って感じかな』


『タイミングを合わせる…なるほど。鉄球の当たるタイミングと避けるタイミングを合わせたってことですか?』


『正解!時計屋さんは救急隊員や警察官を守りながら、怪我人を保護することが出来るの。一般人の保護も時計屋さんの役割になることが多いわ』


『便利な能力ですね』


『すごく便利よ。時計屋さんは時計の目覚ましと自分の起きるタイミングを合わせて遅刻しないし、飲み会の一本締めは全員ぴったり合うし!とっても便利!』


『使い方が俗っぽいですね』


東雲は呆れてしまう。やっぱり能課の人たちは感覚がおかしい。そう心で呟いた。


『五剣さんの能力も見せたかったけど、今回はもう無理ね。五剣さん残りの30人ぐらいの敵をもう制圧してる』


『30人も制圧したんですか?しかもこの短時間で?』


『そうよ。今回は強い能力者もいなかったみたいだし、五剣さんならそんなものよ』


村雨は自信満々に答える。自分達のリーダーは凄いだろうと誇りに満ちた言い方である。東雲はそこに第五班の信頼関係の強さを見た。


『じゃあ能力を解くからね』


その言葉が聞こえると同時に、ふわっと持ち上げられるような感覚があり、目の前が真っ暗になった。


「志乃ちゃんおはよう!」


目を覚ますと村雨が運転席から覗き込んでいた。東雲は自分が今まで本当に夢の中にいたのだと実感した。一旦パトカーから降りて背伸びをすることで、完全な覚醒状態へと自分を導く。村雨もパトカーから降りてきて公園の方を見ている。三人が帰ってくるのを待っている様だ。東雲は村雨に話しかける。


「一発さんも時計屋さんも凄い能力でしたけど、夢華さんのも凄いですね」


「まあね。私自身が夢で動くときは、他にも色んなことができるからもっと便利なんだよ」


「なるほど。皆さん能力に名前がありましたけど、夢華さんもあるんですか?」


「う、うん。あるけど教えない!」


「なんでですか?」


それから何度か聞いたが断固として教えてくれなかったので諦めた。正確に言うと村雨から聞くことを諦めた。そうこうしている内に三人が帰ってきた。


「お疲れ様です。夢華さんの能力で見てました。残念ながら五剣さんの能力は見れなかったんですけど」


「俺の能力は見ても説明できるかわからないから見なくても別によかったぞ。帰ったら教えてやる」


「わかりました。お願いします」


東雲はわくわくしていた。能課で1,2を争う能力者である五剣の能力を見れるというのは、好奇心を刺激するには十分な材料だ。


「それじゃあ帰るか」


五剣がそう言うと、全員頷いてパトカーに乗り込んだ。東雲が加入した新生第五班の初出動がここに幕を閉じた。

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