超能力について
自己紹介を終え、東雲は仕事を与えられた。最初の仕事は超能力について知ることだ。東雲達の世代は、小さい頃から超能力の存在が認知されていたため、ある程度の知識を既に持っている。しかし、それはあくまでも一般的な知識であり、これからは超能力者との戦い方などの知識も必要となってくる。能課には新人用に「超能力丸わかりガイドブック」なるものが作られている。東雲はそれを読むことを命じられた。
「一発さん、五剣さんにこれ見とけって言われたんですけど読むだけでいいんですか?なんかそれ言ったらすぐ課長の部屋に行っちゃって聞けなかったんですよ」
「あーいいよ、いいよ!僕も読んだだけだったから、もし報告が必要だったら僕がちゃんと読んでましたって言っとくから」
吉田が先輩としてしっかりと対応する。村雨ほどではないだろうが、後輩が入ってきて嬉しいのだろう。
「ありがとうございます。じゃあとりあえず読みますね」
そう言って東雲は本を読む体制になった。
“超能力丸わかりガイドブック
平成41年8月26日に発生した連続宝石店強盗事件において、不可解な点がいくつかあった。様々な実験と検証を、複数の専門家に依頼したが、現代の物理学では説明できない現象であるとの報告しか得られなかった。また、世界的権威である西園寺教授からは、超能力以外に考えられないとの報告があった。以上のことから我々は、超能力の存在を認めることとした。このことを受け、法整備や超能力対策課の設立が行われた。超能力対策課では、超能力者に協力を仰ぎ、超能力の詳細解明に尽力した。“
「超能力者の協力を仰ぎって書いてますけど、その協力者って時計屋さんのことですか?」
東雲はガイドブックから顔を挙げて時計屋に話しかける。時計屋は飲んでいたコーヒーを置き、頬杖をついて返事をする。
「そうですよ。私達のことです。殿河内さんからどうしてもとお願いされましてね」
「私達ってことは他にもいたんですか?」
「いい質問ですね。私の他にアドバイザーは4人いました。今は別の課にいって超能力対策のアドバイザーとして働いてますよ」
「なるほど」
東雲は、ガイドブックの方へ目線を落とし、仕事に戻った。
“アドバイザーによって判明した超能力の詳細
1 超能力は感染する
2 超能力者全員がサイコキネシス、テレパシー、アンチキネシスを使える
3 超能力者は特殊な能力を一つもつ
これらの情報を基に様々な実験を行い、更に詳しい情報を入手した。
1について
超能力は感染する。具体的には超能力に触れると感染する。例えば、サイコキネシスで持ち上げた物に触れると、触れた人は超能力を使えるようになる。また、実験により超能力は感染を繰り返すと、弱まる傾向にあると分かった。例えば、AがBに超能力を感染させると、サイコキネシス、テレパシー、アンチキネシスの単純な強さはBの方が弱くなる。
感染は一度だけであり、能力者に他の能力者の超能力が触れても、感染は起こらない。一般的に能力が強い能力者を純度が高い能力者と言う。AとBを比較するときもAはBより純度が高いという言い方をする。
2について
サイコキネシスとは、遠くの物を動かしたり、攻撃したりする能力である。攻撃の強さ、攻撃可能な範囲は能力者の力量によって変わる。
テレパシーは、意思の疎通を無言で出来るものである。超能力者同士でしか出来ないが、例外もある。
アンチキネシスとは、サイコキネシスに対抗する能力である。超能力者の体は、このアンチキネシスで覆われており、サイコキネシスをガードする。訓練によって一時的に消すことや、一部に集中させること、全体量を増やすこともできる。また、この能力を使って、超能力者は身体能力を上昇させている。
以上の三つの能力を三能と呼ぶ。“
「時計屋さん、このアンチキネシスで身体能力を上昇ってどういう理屈なんですか?」
「ふふっ。東雲ちゃんは超能力に対して理屈を求めるなんて中々珍しいですね。でもこれに関してはきちんとした理屈がありますから、説明してあげます。このガイドブックには身体能力上昇って書いてありますけど、実際には少し違うんです。アンチキネシスの存在をいいことに、自分の体にサイコキネシスを使っているのです。そうすると、普通に動くより速く動けたり、強いパンチが打てたりするって理屈ですね」
「そういう仕組みだったんですね。なんか感覚で使ってたから分からなかったです」
「東雲ちゃん達の世代は、超能力が当たり前の世代なのでそういう人が多いみたいですね。私達は試行錯誤をして超能力を使っていた世代なので、少しだけ皆さんより理屈が分かっています」
「わかりやすかったです。ありがとうございます」
「それでは続きをどうぞ」
ガイドブックももうすぐ終盤に差し掛かろうとしている。東雲は読破に向けて気合いを入れ直した。
“3について
超能力者には三能とは別に、ある特別な能力が備わっている。それをPS(Personal Skill)と呼ぶ。PSは、サイコキネシスを強化するPS、テレパシーを強化するPS、アンチキネシスを強化するPS、そして、それら以外の特殊なPSに分類される。
それぞれを順に、PT(Psychokinesis Type)、TT(Telepathy Type)、AT(Antikinesis Type)、ST(Special Type)、と呼ぶ。PSは一部の超能力者しか持たないと思われていた。PT、TT、ATは単に能力の差、個人の得手、不得手だと思われていた。しかし、感染についての法則が解明され、PT、TT、ATの存在が明らかとなった。
また、PSはタイプが感染することがわかっている。PTの能力者に感染させられた能力者はPTの能力者になる。ここで注意が必要なのがSTの能力者の感染だ。STの能力者に感染させられた能力者はSTの能力者になるが、STに内容までは感染しない。例えば、触れた物を真っ赤にするSTのPSを持つ超能力者に感染させられた能力者は、STのPSを持つが触れた物を真っ赤にするPSになるとは限らないのだ。
以上が超能力についての基本知識である。
超能力丸わかりガイドブックその2に続く“
「時計屋さん、その2があるんですか?」
「その2もありますよ。実はその10まであります」
「えー!そんなにあるんですか?」
「頑張って読んでください」
東雲は恨めしそうに時計屋を見るが、時計屋にはどうしようもない。これは第五班リーダーの五剣が命じた仕事なのだから。八つ当たりしても仕方がないと東雲が観念しようとした瞬間、けたたましい音が能課に響く。出動要請である。
“新宿1丁目で超能力者組織の抗争と思われる騒ぎが発生 繰り返す 新宿一丁目で超能力者組織の抗争と思われる騒ぎが発生”
いつの間にか課長の部屋から戻ってきていた五剣が叫ぶ。
「第五班全員出動!俺と時計屋と吉田は抗争の鎮圧!村雨と東雲は現地で後方支援!」
「はい!」
初日からいきなりの実践である。まだ、メンバーの能力もわかっていない状況ではあるが、東雲に恐れはない。あるのは断固たる正義感のみだ。