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第五班

 第五班の区画へ行くと、三人はすでにそれぞれのデスクに座っていた。五剣は部屋のほぼ真ん中に位置する机で仕事をしている。昨日の書類たちはもう姿は見えない。あれから全部を処理したようだ。五剣の向い側には30歳には達してないと思われる男性が、口笛を吹きながら仕事をしている。聞いたことのある洋楽なのだが、タイトルが出てこない。よくテレビ番組で流れているのだが、その番組すら思い出せないのだから、手が付けられない。曲は後から調べることにして、隣のデスクを見るとそこには誰も座っていなかった。しかし、机の上にはノートパソコンや書類があり、村雨の席であることがわかる。村雨の向いのデスクには、何も置いていないデスクがある。どうやらここが東雲のデスクのようだ。自分の仕事場が与えられており、テンションが上がる東雲であった。そして、東雲と村雨の机の横に向きを90度変えて接している机、班の一番上司が座るような位置取りと言えばわかりやすいだろうか、そこに座っている男性は、他の四人よりは年齢が上に見える。殿河内よりは若いと思われるが、あまり変わらないだろう。


「はーい!注目!今日から五剣班に配属になった東雲志乃ちゃんです。自己紹介はさっきしたからいいね。じゃあそれぞれの自己紹介をして貰いましょう」


村雨が大声でそう言うと三人は立ち上がった。一番年齢が上と思われる男性が最初に話し始めた。


「それじゃあ私から。私の名前は時計屋、今年で36歳になります。警察へのアドバイザーとしてここに16年近くいます。警察官ではないですが、能課には一番長くいる内の一人です。なんでも聞いて下さいね」


時計屋はそういって敬礼をした。警察官ではないと言っておきながら敬礼をするのは、彼なりのジョークなのだろう。このとき東雲は、自己紹介で年齢を言わない風習がないことを確認した。東雲が敬礼を返すと、時計屋はにこりと笑った後、村雨の方に目配せをした。


「じゃあ時計屋さんの自己紹介は終わりね。次は一発いってみよう!」


「了解!僕の名前は吉田 一発。性はよくある吉田だけど、名は一発っていう珍しい名前だから覚えやすいでしょう?皆には一発って呼ばれてるから一発って呼んでね!年齢は26歳だよ!警察官になって8年目でここにきて2年目!よろしくね!」


「お前、一発一発言い過ぎだろ」


東雲が挨拶を返す前に村雨が突っ込みを入れる。吉田はそんな言ってた?とおどけている。二人の息ぴったりの夫婦漫才を東雲は楽しそうに見ている。


「一発はもういいや。最後はリーダー五剣さんに締めて貰います」


「実は東雲には昨日会っていて話しているんだが、まあもう一回だな。名前は五剣 宏。好きな食べ物は塩サバで、飲み物だと緑茶が好きだ。昨日は言い忘れたが年齢は16歳で…」


「16歳!?」


五剣の自己紹介の途中にも関わらず、東雲は大声を挙げてしまった。


「確かに若いなって、いや、むしろ子供っぽいって思ってましたけど、16歳って子供じゃないですか!」


東雲は能課の部屋に響き渡るぐらいの声で叫んだ。それほどの驚きだったのだろう。新卒の自分より若い上司がいるなんてことは稀にあるが、その上司がまだ16歳なんてことは、ほとんどないだろう。


「まあ今年の10月で17歳だから、正確に言うと16歳と6カ月だな」


「そういう問題じゃないです」


五剣の天然ぶりに東雲は呆れてしまう。周りの三人は声を挙げて笑っている。


「能課に配属された人の通過儀礼みたいなものよね。五剣の年齢に驚かされるのは」


「僕も去年は驚かされました。五剣さんって0歳のときからここに配属されてるんですよ?意味分かんないですよね」


村雨と吉田が話しているが、東雲は状況を把握できないでいた。すると時計屋が東雲の肩をぽんっと叩いて言った。


「まあ細かいことは気にしない方がいいです。僕は五剣君のオシメも替えてあげましたが、それでも同僚なんです」


「余計な事言うなよ!」


五剣は顔を赤くしながら時計屋を止める。かなり焦っており、その姿はまさに子供である。東雲はとりあえずそういうものなのだと、受け入れた。そうしないと自分の中の価値観が崩れ去ってしまいそうだったからだ。そして、この能課ではこういうことが頻繁に起こるのだと感じたからだ。


「まあそういうことだ。年齢はここにいる全員より下だが、ここで働いてるのは俺と時計屋が一番長い。なんでも聞いてくれ」


「16年働いてるって言っても、五剣君は最初の頃は夜泣きしかしてないですけどね」


時計屋のチクリで五剣が再び赤面して自己紹介は終わりとなった。この奇妙な仲間たちとやっていけるか不安な東雲であった。

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