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スタート

 朝の通勤ラッシュにもみくちゃにされつつも、人は毎朝、仕事に向かう。東雲もその中の一人だ。通勤ラッシュは噂には聞いていたが想像以上であり、軽く眩暈を感じながらの出勤となった。

 警視庁に入ると通勤ラッシュから解放されて、少し落ち着いた。大学生のときに何度か来ており、昨日も足を運んだことが幸いした。昨日の深夜に来た時とは違い、人が多く喧騒も遠くに聞こえるが、それ以外は何も変わっていない。時計を見るとちょうど八時になった。朝礼で挨拶をする前に課長のところに顔を出すことになっている為、一度課長の部屋へ向かう。ドアの前で身だしなみと呼吸を整える。意を決してノックをすると“どうぞ”と帰ってくる。重厚な低いが、どこか心地いい声だ。


「失礼します」


ドアを開けると椅子に腰かけた男性が見えた。「今日からここに配属になりました。東雲志乃と申します。よろしくお願いします」

東雲がどこかで聞いたことのある挨拶を述べると、男性は立ち上がり、挨拶を返した。


「よろしく。私は超能力対策課 課長 殿河内 秀俊だ。君は優秀だと聞いているよ。期待しているから、頑張ってくれ」


「ありがとうございます」


東雲は褒められたことで少し照れたが、これからここで仕事をやっていくという責任を感じ、気が引き締まった。


「それじゃあ、朝礼で挨拶をして貰うから、今から能課に行こうか」


そう言って、殿河内はドアに手を掛けた。能課への向う道、殿河内は小さな歩幅で進んでいく。ヒールを履いているうえ、女性である東雲に気を使ってゆっくり歩いているようだ。それに気付いた東雲は、顔をほころばせた。


「能課は変な奴が多い。女性も東雲君を入れて二人しかいない。でも、全員いい奴らだから警戒しないで、仲良くやってくれ。一応、教育係はもう一人の女性である村雨を選んでおいた。後から紹介する」


「はい。ありがとうございます」


教育係を女性にという配慮に、やはりこの人は気配りの出来る人であると感じた。この人が上に立っていることも理解できる気がした。しかし、変な人が多いというのは、注意なのか脅しなのか、東雲には分からなかった。今は殿河内からの言葉を胸に留めることしかできなかった。

 少し歩いたところで能課のドアが見えてきた。昨日と同じドアだ。この向こうには昨日と同じ部屋があるのだろうが、状況は全く違う。五剣だけがいるのではなく、能課に所属する100名以上の人数がここに集まっているのだ。


「それじゃあ、東雲くんの紹介をする時に合図をするから、それまでドアの前で待っていてくれ」


そういって殿河内は部屋に入って行った。一人取り残されると急に不安が襲ってくる。ドア越しに、朝礼の声が聞こえる。連絡事項や今日の予定についての確認がされている。東雲は、自分の紹介は最後になると気付く。オオトリと言う程、大したものではないが、それでも最後は緊張するものだ。噛んでしまったらどうしよう。さっきの殿河内さんの言ってた変な人が絡んできたらどうしよう。そんな想像が頭を過ぎる。しかし、そんな東雲を余所に朝礼は淡々と進む。


「今日から新人が配属されるから紹介する。東雲君、入ってきて」


とうとうそのオオトリがやってきた。恐る恐るドアを開けると、たくさんの視線が東雲に突き刺さる。人前に出ることに慣れていない東雲は、委縮してしまう。前を見ると殿河内が自分の横に来るように促している。小動物のように、ちょこちょこと横に着くと前を向く。多くの視線と対峙する形となり、緊張は最高潮に達した。そのとき、東雲は無意識に五剣を探していた。五剣は部屋の真ん中らへんに昨日と同じ恰好で立っていた。それを見た東雲は、昨日のことを思い出して笑いが込み上げてきた。それと同時にさっきまでの緊張が嘘のように無くなった。東雲は一呼吸置き、練習してきた挨拶を述べる。


「今日から超能力対策課に配属となりました、東雲志乃と申します。右も左も分からない若輩者ですが、精一杯頑張りますのでご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」


東雲は敬礼をしたまま挨拶をし、言い終えると深々と頭を下げた。パチパチと拍手が聞こえる。その音が東雲を安心させる。顔を上げると皆が優しく微笑んでいる。東雲は能課の一員としてのスタートを切った。


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