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出会い

 ここは、警視庁捜査本部の片隅にある「超能力対策課」通称、「能課」である。能課はその名の通り超能力の使用によって行われた犯罪を専門とする課である。配属されたくない「NO」と、超能力の「能」が掛かっているらしいが、今ではここに配属されて「NO」という者はいない。ここに配属されるということは、名誉なことであるからだ。こんな胡散臭い所に配属されるのが名誉なのか、昔の人であれば疑問があるかもしれないが、今では超能力の存在が認知されており、世界中の約半数の人々が超能力者である。そのため、単純計算で犯罪に手を染める者の半数が超能力者であるということだ。能課に配属されることは、半分以上の事件を担当するということであり、警視庁の中でトップクラスの能力を有すると、認められたに他ならないのだ。

 その能課で、一人の男がデスクワークに励んでいる。現在の時刻は23時、公務員であればとっくに帰宅している時間ではあるが、警察はそうはいかない。犯罪が起きれば問答無用で借り出される。その借り出しの先駆けを今夜務めるのがこの男だ。

男の名前は「五剣(いつるぎ) (ひろし)」。日頃の怠惰で溜まりに溜まった書類を、この時間に消化せんと一心不乱に机に向かう。


「全然終わらない」


独り言がぽつりとこぼれる。デスクワークを始めて約3時間になるが、書類は4割程度しか終わっていない。実際には、2時間程度で終わる量なのだが、五剣の集中力の為せる技か終わらない。何度目かの休憩を挟もうとしたとき、部屋の外に人の気配を感じた。こんな夜中の来客は珍しい為、少しだけ警戒をする。


「こんばんは」


ドアから表れたのは、少女とは言えないものの、大人の女性と表現するにも抵抗のある面持ちの人物だ。五剣は警戒を解き、立ち上がって声をかける。


「どちら様でしょう?こんな時間に来るなんて緊急の事案ですか?」


「いいえ!実は私、明日からここの配属になった新人の東雲志乃と申します。近くを通ったら明かりがついていたので、少し見に来たのですが・・・」


東雲は遠慮がちにそう言って、五剣のデスクの方へやってきた。きっと緊張していて、少しでもこの場に慣れようとやってきたが、五剣がいた為に更に緊張が高まったのだろう。


「明日入ってくる新卒の新人か。俺の名前は五剣 宏。この能課で働いている。好きな食べ物は塩サバで、飲み物だと緑茶が好きだ。よろしく」


五剣は笑顔で手を差し伸べる。いきなり自分の好物を暴露する五剣の天然ぶりに、東雲の緊張は緩んだ。そして笑顔でその手を握った。挨拶を終えると話すことがなくなってしまい、沈黙が流れる。東雲はとりあえず先程生じた疑問を投げかけることで場を持たせようとした。


「こんな遅くに何をしているんですか?」


「夜勤ってやつだよ。通報があったらいの一番に現場に行かなきゃいけない。でも今は通報もないし、暇だから書類の整理をしてるんだ」


「なるほど。それにしてもすごい量ですね」


デスクに山積みになった書類を見て、東雲が驚きを隠せないでいる。確かにこの量は世間一般でも珍しい量であり、大学を出たばかりの東雲からして見れば予想の遥か上を行く量であろう。五剣は自分の怠惰な生活を垣間見られた気分になり、少し気恥ずかしい様子だ。


「まあ、いつもはもっと少ないんだけどな。東雲は明日、早いんだろ?もう帰らないと遅刻するんじゃないか?」


五剣は気恥ずかしさからか、優しさからか早めの帰宅を促す。


「そうですね。明日は初出勤だから、遅刻しないようにしなくちゃ」


東雲は、自分の置かれている状況を冷静に判断できる人間であった。明日の早起きの為に、そして明日から働く同僚の為に、今日はこの辺で帰宅する事を選んだ。


「五剣さんは、明日の朝もいらっしゃいますか?」


「ああ。明日の朝、また会おう」


「わかりました。それではお先に失礼します」


東雲は嬉しそうに踵を返し、ドアから出て行った。ドアを閉める前にこちらを向き、笑顔で敬礼をした。バタン、とドアの閉まる音。その直後に、椅子の軋む音。そして、最後に“頑張るか”と呟く五剣の声が部屋に響いた。


東雲は最終の電車に乗り、さっきまでのことを考えていた。さっそく知り合いが出来て、幸先が良い。明日もこの調子で頑張ることを心に決めた。


「それにしても五剣さん若かったな。いくつなんだろう?」


自己紹介には欠かせない年齢を聞きそびれたことに気付いた東雲は、少し笑ってしまった。年齢よりも好きな食べ物を先に言うなんて変わってる人だと思ったからだ。そして、仕事の同僚とは言え、五剣とは良い関係を築けていけそうだと感じた。

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